「萌え」の起源 (PHP新書 628)

著者 :
  • PHP研究所
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  • Amazon.co.jp ・本 (273ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569709864

感想・レビュー・書評

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  • 時代小説作家として知られる著者が、日本のマンガやアニメ、あるいは時代小説や時代劇などの人気の理由を、日本の文化的伝統のなかにさぐる試みをおこなっている本です。

    タイトルは「「萌え」の起源」となっており、なぜ時代小説作家である著者がこうしたテーマをとりあげているのだろうかという疑問を感じましたが、著者略歴を見るとコバルト文庫から刊行された『聖痕者ユウ―薔薇のストレンジャー』で小説家としてデヴューしたとあり、納得しました。ただし本書は、「萌え」だけを論じたものではなく、人間と他の動物やさらにはロボットを区別することのない日本のサブカルチャーに見られる特徴や、自己犠牲的なヒーロー像など、幅広いテーマがあつかわれています。

    ただし著者の議論の基本的な構図は、日本文化についての本質主義的な理解に帰着するものであり、いささか無防備な議論といわざるをえないように思います。たとえば「萌え」について論じているところで、著者は手塚治虫の『リボンの騎士』を中心に変身ヒロインの系譜をたどり、日本のサブカルチャーには「自然体のジェンダーフリー」が成り立っていると主張しています。しかし、著者が例にあげている『秘密戦隊ゴレンジャー』のメンバーに「紅一点」のモモレンジャーについては、斎藤美奈子にかかれば「パンチラ要員」となってしまいます。

    著者は、日本のサブカルチャー作品が政治的な主張を意図してつくられたものではなく、このほうが「面白いんじゃないか」という創意によって「自然体のジェンダーフリー」が達成されていることを高く評価しています。わたくし自身は、ラディカル・フェミニズムの主張がパターナリスティックな立場につながってしまう風潮に対して「面白いんじゃないか」という作品そのもののクオリティを追求する姿勢を打ち出す実作者としての著者の態度にはほとんど全面的に賛同を送りたいと考えています。それでも、本田透の『萌える男』(2005年、ちくま新書)と同様、それぞれの立場についてのじゅうぶんな理解がなされないままに議論がなされていることのむなしさを感じてしまいます。

  • 大学の卒論に向けて読んだ。
    手塚治虫世代ではないので、あまり知識がなかったのだが、日本人の精神が手塚作品には詰め込まれてると納得できた。
    また、日本人であることを誇らしく思える内容。(もちろん、他国批判ではなく)
    ポイントは、異種との共生、だと感じた。隠れて善をやるヒーロー像や、自分の利益のために働かない方が美しく感じたり、日本人にとっての当たり前が、マンガに描かれているのを実感できた。あと、恋愛が成就しないこと、モノを擬人化すること、など手塚作品の特徴もわかりやすかった。

  • 究極的にいうと「日本人とは何か?」という一冊。

    「萌え」の起源に迫る、知的好奇心をくすぐる内容。
    ・スーパーディフォルメと根付けに見る共通点
    ・漫画の神様と萌え〜生物と非生物の垣根を越えた魅力
    ・変身するヒロインの系譜
    ・文化風俗の時代背景にみる性差倒錯
    ・弱者を守るために己を捨てる日本的ヒーロー
    ・言葉で伝えずに察することを求められる日本式テレパシー
    など

    ただし萌え系に属する単語の解説は一切行われず、知っている前提で進められるので注意。
    個人的には、唯一無二のアクション女優 志穂美悦子さんが挙げられていたことに「燃え」る。

  • タイトルに騙されてはいけない。これは立派な「歴史的日本人の文化考察」に関する本だ。著者の幅広い教養には驚く。現代のサブカル文化から昭和映画、江戸時代の歌舞伎、海外映画まで古今の様々な文化に触れ、日本人のアニミズム、自己犠牲のヒーロー像、全体の調和を良しとする和の精神を見出している。現代カルチャーの始まりには天才手塚治虫がいて、さらに歴史を紐解くと元々日本人にはそうした価値観が備わっていたことがわかる良書。

  • [ 内容 ]
    時代小説作家が書いたジャパニメーション論。
    なぜ鉄腕アトムは太陽に飛びこんだのか――。巨匠・手塚治虫の作品群を糸口に時代小説家が描く画期的な日本文明論。
    『リボンの騎士』のサファイア、『バンパイヤ』の狼女・ルリ子、『火の鳥2772』の万能アンドロイド・オルガなど、手塚治虫の「変身するヒロイン」をキーワードに、日本のマンガ・アニメが世界制覇した原動力の「萌え」、それを生んだ日本文化の核心を探る。ルパン三世と木枯し紋次郎の共通点は?
    シュワルツェネッガーvs長谷川一夫の軍配は?
    なぜアトムは太陽へ飛びこんだのか?
    日本人による日本人のための作品が、世界中の人々の心をつかんだ最大の理由は何か!?
    時代小説家による画期的なサブカルチャー論。

    [ 目次 ]
    ●はじめに ――江戸時代の「根付」と現代のSDキャラ
    ●第一章 手塚治虫のグローバリズム
    ●第二章 変身するヒロインの系譜
    ●第三章 「萌え」とは何か
    ●第四章 和製エンターテインメントの不思議な世界
    ●第五章 ここがヘンだよ日本のヒーロー
    ●第六章 マンガを支えるテレパシー文化
    ●結びにかえて ――「百恵ちゃん」と「はやぶさ」と「アトム」
    ●あとがき
    ●参考資料

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 『萌え』という感情は、今に始まったものではなく、大昔から日本にはあったのだ、というもの。

    萌え、マンガなどのサブカルだけでなく、『日本人は、外国人観光客にはやさしいのに、なぜ日本に居住する外国人には厳しいのか』などという問題も論じられており、興味深い。

  • (1)著者は、「チャンバラ小説や捕物長を書くことを生業としている」という。この本は、著者の時代小説家として知識や感性をいかしながら、日本の伝統という視点を含めてマンガ・アニメを語っている。

    「結びにかえて」のなかで著者は、この本で明らかにしたかったことを次のようにまとめている。

    ①日本人は本来、生命と無生命を区別しない文化を持っている。
    ②日本人は「小さくて丸っこくてカワイイもの」に愛着を感じる。
    ③日本のヒーローは他人のため、自分を捨てて、見返りを求めずに戦うことで存在意義を見出している。
    ④日本人の理想とする正義とは、敵を否定し殲滅することではなく、みんなで幸福になるために互いに知恵と力を合わせることである。
    ⑤これら日本古来の感性と文化が手塚治虫の出現によって拡大され、マンガ・アニメをはじめとする戦後のサブカルチャーに受け継がれた。
    ⑥それは日本独自のものでありながら、言語や思想や文化の壁を越えて世界に受け入れられる普遍性を持っている(らしい)。

    これらの主張が、いろいろな作品や具体例に触れながら展開されていて興味深い。上の主張のいくつかをもう少し詳しくみながら、私の考えも付け加えていきたい。

    まず前回の記事との関連で、「②日本人は「小さくて丸っこくてカワイイもの」に愛着を感じる。」について。

    著者が、「萌え」や日本のマンガについて考えるようになったきっかけは、いわゆるSD(スーパー・デフォルメ)キャラクター・フィギュアに興味をもったことだという。その小さく丸っこいフォルムや小さくデフォルメするときの細部の処理法などが根付にそっくりだと気づいたことだという。和服の帯に印籠や煙草入れなどをさげる紐のすべり止めになるあの根付だ。江戸時代に発展した根付の動物などの「丸っこい可愛らしさ」が、SDキャラやマンガ・アニメの可愛らしさに共通するのは、もともと日本文化の中に、二頭身や三頭身のキャラクターを好ましいと思うセンスがあったからではないかと著者は気づいた。

    では日本の伝統の中にそういう美的センスがあるのはなぜか、までは著者は探っていない。しかし、前回見たように、そこに日本人の、子供への愛着が関連しているのは確かだろう。鉄砲伝来の時代から江戸時代末期、明治初期に日本を訪れた西洋人が、いちように驚いたのは、日本人の子供への愛情、ときに「崇拝」とさえ思えるような接し方であった。

    さらにその背景を求めるなら、日本には縄文時代からずっと続く母性原理の文化が、父性的な一神教によって抑圧されずに生きつづけていたことが指摘できるかもしれない。子供や子供らしい無邪気さ、可愛らしさに高い価値を置く文化は、母性的なセンスを大切にする文化である。


    (3)東 浩紀の上の本とは逆に、日本のサブカルチャーを、伝統との密接な関係の中で論じており、興味深かった。私も、文化がたとえ伝統から切り離されたように見えようとも、少なくとも深層のレベルでは密接にからんでいるものと思う。

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著者プロフィール

1955年山形県生まれ。集英社コバルト文庫で作家デビュー。人気シリーズ『修羅之介斬魔劍』を始め、時代小説や現代アクション、官能物、漫画原作など、ジャンルに拘わらず幅広く活躍中。近著に『あやかし小町 大江戸怪異事件帳 どくろ舞』『若殿はつらいよ 邪神艶戯』などがある。

「2020年 『【文芸社文庫】 殺されざる者 THE SURVIVOR』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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