空飛ぶ納豆菌 黄砂に乗る微生物たち (PHPサイエンス・ワールド新書)
- PHP研究所 (2012年11月17日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
- / ISBN・EAN: 9784569809267
感想・レビュー・書評
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このレーベルで以前に読んだウナギの本に似て、ある研究者の半生の研究をざっと見渡すおもむきがある。
著者はエアロゾル(大気中に浮遊する微粒子の総称)の研究者で、この本のタイトルにあるように、近年は大気中の微生物=バイオエアロゾルを中心に研究している。まだまだバイオエアロゾルはこれからの分野のようで、実は本書でも主に研究過程が語られる。前半部分は、バイオエアロゾルを研究する前のオゾンホールだとか黄砂(これは微生物につながるのだが)の話が占めており、1テーマに絞った新書ではなく著者の半生記に近いのである。個人的にはこういうのは好き。
・若き日の南極観測では、火山噴火の影響を見ることが主なテーマのはずだった。しかし偶然により極成層圏雲(PSC)を観測してオゾンホールとの関連を研究することになる。
・フロンが紫外線を浴びて生成される塩素ラジカルがオゾン層を破壊するのだが、ふつうはNOxと先に反応してオゾンとは反応するに至らない。しかし南極域の成層圏ではあまりに寒いので水蒸気や硝酸(NOxの代表格)とかが凍って結晶になってしまう。春先になって結晶表面に存在する塩素分子が先に紫外線にあたって塩素ラジカルになってオゾンホールを作る。
・黄砂は地表では春の風物誌だが、高度数キロ以上の自由大気圏では、年中、薄いながらも黄砂は飛んでいる。バックグラウンド黄砂と呼ぶ。日本で観測される黄砂のうち、低空のものは黄土高原由来が多く、自由大気圏のものはタクラマカン砂漠由来が多い。タクラマカン砂漠こそ黄砂のルーツで、世界中に飛んでいる。タクラマカンの盆地地形と気象が砂塵を巻き上げやすい構造になっている。
→このタクラマカンからの黄砂が太平洋に鉄分を供給する機能を説いているが、これについてはアムール川のほうに軍配があがるというのが最近の研究だったはず。
・NOxなどの大気汚染物質が黄砂表面に反応している。黄砂の中和反応と呼ぶ。中国上空では大々的に起こっているだろうと。1ccあたり一粒の黄砂粒子が浮かんでいる状況が高度5kmまで続いているとすると、その粒子の表面積は地球表面積の1から2割に達する。
・エアロゾルには2つの粒子がくっついたものがある。
<blockquote>そんなに珍しいことではないのだが、「どうしてくっついたのか」を調べようとするとなかなか難しい。なかなか難しい理由のうちで、最も大きな理由は「そんなことが重要そうな問題に見えない」ということであろう。</blockquote>
・ミクロン単位の大きさしかない黄砂は光学顕微鏡では見えない。電子顕微鏡で見ることになるが、このために粒子は相当痛めつけられる。それを想定して観察の手順を組み立てる。
→へー。意外な話。なんだか不確定性原理を思い出してしまった。
・酒蔵見学に行くと履物を履き替える。そんなにきれいな履物でもない。その蔵に住み着いている菌や馴染みの汚れがくっついてることが大事なのだ。
・氷核活性細菌。高い温度で水を氷結させる!霜害の原因にもなるが利用もされる。人口造雪剤や、食品分野での凍結濃縮剤。
・自然環境にいる細菌の90から99%は培養できないので、種を決めるにはゲノム解析に頼らざるを得ない。
・立山の積雪断面から黄砂層を採取して微生物を調べた。実に良く採れる。飛行機や気球に比べて時系列で見れる利点がある。
能登半島の先の珠洲市での、手づくり的な観測・研究の様子がリアル。金はそんなに使えなくとも、興味のあることを追えるのは幸せだなあと思える。苦労もあるだろうけれどね。 -
エアロバイオゾルという言葉を初めて知って、研究をするということは何をすることなのかの片鱗を覗きみれたかな。
タイトルの割に納豆ネタが少なくて残念。笑 -
黄砂、細菌がくっつくのに適した?
黄砂、化学成分、海に栄養、他の大陸へ物質運ぶ。
黄砂の表面積は、地球表面の10から20%に相当。 -
所在:展示架
資料ID:11201576
請求記号:451.5||I96||062 -
黄砂や微生物や菌など、大気の中に存在する浮遊する粒子をエアロゾルというらしい。
それらは地上を這うのみならず、成層圏にまで達しジェット気流に乗って世界を飛び回っているそうな。
大半は何をしているんだかわからないけれど、中には環境や健康に悪影響を及ぼしたり、逆に大気汚染を緩和したりするものもある。
漠然と抱いていたイメージよりずっと空気は有機的でアクティブだ。
酸素や窒素だけでなく、多様な「その他」があって空気らしい空気が作られている。
「海は生命のスープ」ってのを連想した。
学校で教わる「空気」からくるイメージが妙に無機的でクリーンで、それに慣れた身は浮遊するものどもを過剰に恐れてしまう。
その辺も、水道から出てくる清い水しか飲めない、海やプールや風呂に顔をつけるのもためらってしまう感覚と近いかもしれない。
黄砂は空に浮かぶ大地のかけら。(ロマンチックな表現だ)
ひとつひとつは小さいけれど表面積を合計すると陸地くらいになる。
黄砂の表面には微生物がくっついていることもある。紫外線よけにも餌にもなる便利な乗り物。
それでも高度上空の条件は過酷だから、軽くて強い微生物だけが生きて空を渡れる。
先端の研究はどんどん細分化していくし進化するから、興味のある人には当然のことも知らない人は驚くほど知らない。
私は知らない側だから単純に楽しい。このシリーズは知ることは面白いと思わせてくれる。
そのものの知識もさることながら研究風景や思い出話も面白い。
たまに横の方にある用語解説(?)は、たとえば「砂塵の長距離輸送」について(p51)なのに「長距離輸送っていうとバスやトラックを浮かべるよね」みたいなどうでもいいことが書いてある。
いやそれ関係ないだろって思うんだけど、こういう関係ないことも大事にできるから研究向きなんだろうな。 -
中国奥地のタクラマカン砂漠は東側だけが口を開けており風が吹き込むと上空に向けて砂を巻き上げる。他にもゴビ砂漠や黄土高原などからも砂が飛ぶ、これが黄砂だが一般的なイメージと違い黄砂は常に吹いている。タクマラカンの黄砂は地上6Km付近を遥か遠く太平洋を越え例えばグリーンランドまで飛び、地上2Kmの黄砂は主に黄土高原からのものだそうだ。春にくるのはゴビ砂漠の黄砂で地表付近を飛んでいる。
黄砂は表面にいろんな物をくっつけて運ぶ。例えば酸性雨の原因となる硫黄酸化物や窒素酸化物などで敦煌上空に比べると日本上空の黄砂は明らかに硫黄濃度が高い、意外な副作用は黄砂のおかげで酸性雨の酸性度が思ったより低くなるらしい。黄砂の主成分は鉄でこれが海に落ちると重要なミネラル源となり植物性プランクトンを育てる。黄砂にくっついた窒素酸化物もプランクトンの餌となる。また化学ではある意味常識だが表面や界面はいろんな反応の場となる。黄砂表面で窒素酸化物と化石燃料の燃えかすが反応して発がん性物質ができるという紹介が有ったがこれはニトロベンゼンのような化合物ができるのだろう。
題名には関係ないオゾンホールの発生の話が興味深い、フロンなどは対流によって成層圏まで運ばれすぐにオゾンと反応するかと思っていたらそうではないらしい。まずフロンが紫外線で分解され塩素ラジカルができると最初に窒素酸化物(NOXこれもよく出る悪役だが)に取り込まれる。この時点では不活性物質となりオゾンとは反応しない。南極の冬は非常に寒く水蒸気や硝酸(NOXからできる)が凍り極成層圏雲という雲が発生する。この雲は小さな氷が集まってできた物でその表面には硝酸が凍ったために一度取り込まれた塩素がはじき出されて溜まってくる。そして春先になると雲が消え塩素はガスとして漂い分解してオゾンと反応して破壊しオゾンホールが形成される。南極に比べ暖かい北極圏ではこの雲の発生が長続きしないため、取り込まれた塩素はそのままでオゾンホールは発生しないそうだ。へーっ。
そして空飛ぶ納豆菌、黄砂は窒素酸化物以外に菌なども運ぶ。タクマラカン砂漠の黄砂からも納豆菌が見つかり、金沢大学ではいろんな場所から採取した納豆菌でメーカーと協力して納豆を作り市販を始めるらしい。黄砂に菌がついて飛んでくると聞くと心配になるかもしれないが能登上空3000mのそら納豆は評判がいいらしい。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1600G_W2A810C1CR0000/ -
資料ID:C0034296
配架場所:本館2F新書書架
まず、タイトルがすてきです。内容はエアロゾル、空気中を漂っている、花粉とかホコリとか微生物とか、細かい粒子を研究する学問の紹介。その中でも特に生物に関連するエアロゾルを扱う、バイオエアロゾルに着目しています。著者の関心はタクラマカン砂漠から飛んでくる黄砂。この小さな粒に、いろんな微生物が乗り込んでいるんだとか。実験の失敗談やこぼれ話も満載で、エッセイ感覚で読めます。黄砂飛来シーズンにぜひ。(S) -
バイオエアロゾル。
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はるか彼方の中国内陸部から黄砂に乗って空を飛び、日本海をも越えて日本にやって来る様々な微生物が発見されているという。その中には納豆菌すら混じっており、能登半島上空三千メートルで採取された納豆菌に近似した菌を使い「そらなっとう」として商品化され金沢で売りだし中だそうだ。
納豆と言えば日本の伝統食。藁に繁殖する菌が大豆を発酵させできるのが納豆で、納豆製造にはそうした納豆菌を大事にしていると言うのが一般的な理解。それがあろうことか納豆菌は中国の奥地、タクラマカン砂漠から舞い上がった黄砂に乗ってはるばると数千キロも離れた日本にやってきているのか?そんな空飛ぶ納豆菌の謎に迫り納豆の起源は日本ではなく中国にあるのか?という話を想像していたら期待は大外れ。わずかに本書の最後の部分で触れられているだけであった。
本書は黄砂が日本に降ることは判っていたがそれが何処まで拡散しているのかという研究に端を発し、空中のホコリ=エアロゾルの拡散そしてそれへの微生物の付着という事等を調べている金沢大学教授の本である。微生物すらがエアロゾルに付着して上空の気流に乗って地球規模で拡散しているというのは比較的新しい発見だそうで、残念ながら納豆の起源に迫る研究はまだまだ先のようだ。
題名がなかなか目を引くのでついつい魅かれて買ってしまったが納豆研究本ではない。念のため。