中国絶望工場の若者たち 「ポスト女工哀史」世代の夢と現実

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  • PHP研究所
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784569809809

作品紹介・あらすじ

「反日デモ」予備軍といかにつき合うか?工場での反日スト、連続自殺事件…。日系企業への愛憎を赤裸々に綴る中国ルポ。

感想・レビュー・書評

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  • FK1b

  • 農民工の第二世代に肉薄しつつも、ときおり俯瞰もする。どちらかというと、もっとスラム的な生活をしている人たちのことを知りたかったが、求めていた内容と違った。しかし、これはこれで勉強になった。

  • 結局のところ、中国国内の格差問題・ダブルスタンダードが重要な意味を持つか。また、反日デモの実態は、日本製品とそれを利用する中国都市民階層への愛憎半ばする意識に由来するとある。なお、中国内工場の勤務実態は「女工哀史」で描かれる世界とは程遠い。すなわち、一人っ子政策に基づく「小皇帝」には日本式躾や従業員教育は届かず、それすら虐待的勤務実態と捉えられるようだ。

  • 農民工と呼ばれる工場労働者たちのルポ。

    絶望工場とタイトルにあるが、過酷過ぎる労働条件に絶望しているのではなく、諸悪の根源である戸籍制度から決して逃れることが出来ない未来に絶望していると知った。

    日本人なら格差があろうと一代で成り上がりも可能だが、中国の農民戸籍の若者はそれが出来ない。本人の努力とは無関係に産まれた時に決まっている。

    反日デモが起きると過去の日本の所業がまだ許されてないのか?と思う人や、フォックスコンの自殺が労働条件に因るものと思っている人は、本書を読めばそのベースにある農民工達の絶望を知ることが出来る。中国へ赴任される方にもオススメ。

    作者が可能性を示唆するように、中国の社会構造が変わるとしたら、ここからかもしれない。

  •  中国人訪日客の層は富裕層から中流層まで広がっていると言われるが、未だそれには及ばない、筆者の言葉を借りれば「プチブル層の下」の第二代農民工のルポ。日本や日本製品に対しては、憧れと自分には所詮手が届かないという怒りや諦めがないまぜになった感情、というところか。

     筆者は「この第二代農民工階層の若者たちの抱える孤独と明日の見えなさから来る絶望感」「中国といういびつな社会構造のなかで生み出された絶望構造」と書いており、これが書名の由来だろう。しかし同時に、「虐げられ抑圧された社会の低層にいながらも、夢や希望を持ち、それをかなえる先駆者が現れ、それに憧れ自らも変えていこうという意識の高い農民工」の登場にも触れている。

     中国経済の減速や、人件費の高騰による外資の中国外へのシフトは最近頻繁報じられている。そのことが農民工ひいては中国社会にどんな影響があるのか、まだわからない。しかし少なくとも、この本に登場した、工場勤務の傍らでメイクの学校に通い将来は自分の店を持ちたい、小学校中退だが労働者権利の勉強をし、いつかは本を書きたい、そんな若い人たちに幸せになってほしいと思う。

  • 中国の矛盾の本質は農民工の存在に凝縮されている。農民でありながら工人(労働者)というのが農民工。いわゆる出稼ぎ農民のこと。しかるに日本と決定的に異なるのが戸籍の制度。中国版アパルトヘイトと酷評されている。中国には農村戸籍と都市戸籍があり、農民の子には農村戸籍が、都市民には都市戸籍が与えられる。戸籍は厳格であり、親の身分からは原則逃れられない。都市に押し寄せる農民に資源をくいつぶされないための農民隔離政策である。たとえ大学に進学したとしても就職においては都市民が優先され農民戸籍は大きな挫折を味わうこととなる。今、多くの農村戸籍大卒者が高学歴ワーキングプアとなって都市の片隅で逼塞している。クレバーな頭脳を持ちながら貧困。都市の中での深い孤独を感じながら、社会への憎悪が膨れ上がる。ストライキ頻発の大きな要因がここにある。終章には希望を喪失した中国の若者の救世主となりうべきは日本であると喝破している。日本の今後が大いに期待される。

  • そうか。中国の若者も中々しんどいな。
    そう思わせる内容だった。

  • 反日デモしたり、フォックスコンの工場で自殺する現代中国の若者たちを、元新聞記者で現フリージャーナリストの筆者が、自分で現地事情や当の若者たちに取材して、なかなか見えてこない実際の姿を個人の目線で描写した本である。一人っ子政策とか、都市戸籍農民戸籍とか、第二代農民工とか、彼らを生んだ状況や、労働と賃金の理想とのギャップ、など様々なストレスにもまれ、ときどき爆発してしまうと著者は分析する。個人レベルまで下りての考察なので、説得力がある。マスコミで語られる表向きの上から目線の解説よりも考えさせられるところがある。もちろん、夢をもって我慢しながら努力し続ける人もいるし、決して絶望だけを指摘しているわけではないので、表題や副題から感じるおどろおどろした感じは、読んでみるとそれほどではない。筆者の人柄によるものかもしれない。

  • たまにはミクロ視点でルポも良いな。
    一括りで語れる国ではないし、多角的に見ることは大事ですね。

  • 第二代農民工と呼ばれ、労働者として工場で働く八〇后、九〇后の若者たち。日本に出稼ぎに行き一儲けした人、完璧さを求めるが故に却って効率を失う日本の工場、彼らが働く現場や彼ら自身の生の声を綴ったルポ。
    中国関連のニュースは多い。だが、注目されるのは「購買意欲の高い中国の富裕層」「脅威としての中国」といった特定の文脈でのニュースばかり。そうした中で、本書は日系企業の製品を"買う"側ではなく、日系企業の工場で製品を"作る"側である第二代農民工の若者に焦点を当てたものであり、読んで間違いなく損はない。
    第一代農民工とは違い、第二代ではネットや携帯電話の普及により、自分たちの生活とは違う、もっと格段に洗練されて都会的な生活があることをより具体的に知っている。だが彼らが実際に都会に出ると、そうした理想的な生活も近くにありそうなのに実は遥か遠いところにあることに否応無く気づかされる。そうした苛立ち、またその都会人の生活を自分たちが支えているともなれば、確かにフラストレーションも溜まるだろう。
    自分も所謂"八〇后"で、本書で語られる若者たちと同じ世代。彼らの横暴さというのも、自分たち日本の若者とごくごく同じ欲求―自己表現、自由な時間、夢を追う生き方―を源泉として発生しているのだとしたら?日本人であってもそれらの欲求を満たすのは実際は難しいのだが、彼ら第二代農民工はハナからそれらを諦めざるを得ない状況に置かれてしまう。それでも「貧しい中国人だから仕方ない」と一蹴できるだろうか?
    彼らの行動を表面的に見れば、単なる横暴な若者の振る舞いに過ぎない。だがしかし、これだけ情報が世界で共有されている中で、世界中の若者の考えや意識も似通ってきており、そうしたごく普通の若者としての意識と、農民工として向き合わされる中国の現実ののギャップに絶望感を抱いてしまうのも無理はない(彼らより恵まれているであろう日本の若者すらそうなのだから)。彼らの結果としての行動ではなく、その背景や内面に迫っていくことが、日本企業、また個々の日本人が彼ら第二代農民工と上手に付き合っていく鍵になるのではないだろうかと、そんなことを思わされる一冊。

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著者プロフィール

ジャーナリスト、中国ウォッチャー、文筆家。
1967年、奈良市生まれ。大阪大学文学部卒業後、1991年、産経新聞社に入社。上海復旦大学に業務留学後、香港支局長、中国総局(北京)駐在記者、政治部記者などを経て2009年に退社。以降はフリージャーナリストとして月刊誌、週刊誌に寄稿。ラジオ、テレビでのコメンテーターも務める。
著書に、『習近平 最後の戦い』(徳間書店)、『台湾に何が起きているのか』『ウイグル人に何が起きているのか』(以上、PHP新書)、『習近平王朝の危険な野望』(さくら舎)、『孔子を捨てた国』(飛鳥新社)など多数。
ウェブマガジン「福島香織の中国趣聞(チャイナゴシップス)」を連載中。

「2023年 『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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