作品紹介・あらすじ
スカウティングとは野球の才能という一点において、人が人を見極める行為である。獲得した選手が活躍するかどうかは誰にもわからない。「見る目がある」とはいったい何なのか。そして、何を信じて最後の決断を下すのか。古田敦也、石井一久ら幾多の一流選手を発掘した著者が、スカウトの表と裏をすべて語り尽くす。
感想・レビュー・書評
絞り込み
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長年スカウトをしてきた著者の言葉だからこそ重みがあった。「人が人を判断することは難しい。野球をするという一点だけの才能を見極めることさえも。」
性格、球団事情、時の首脳陣の考えなどなど・・・ 本人の気質だけでは解決しない環境やタイミングが大切なんだと改めて感じる。子育てにも通じるなぁ、ってまた考えた。
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元ヤクルトのプロ野球スカウトの片岡宏雄が語るスカウトについての一冊。
スカウトという独自の視点から未知の選手の発掘やドラフト、そして選手育成まで多岐にわたり的確な視点で語っており、単なる裏話や暴露ネタに留まってなくて面白かった。
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H28.1 選手は能力に加えて監督、コーチとの相性が成功するには大事。会社の人事にも参考になります
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タイトルは自虐というより皮肉。
というか野村の批判本です。
無名選手を上位で指名する意味は?
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新着図書コーナー展示は、2週間です。通常の配架場所は、2階開架 請求記号:783.7//Ka83
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自分で見つけた選手の成長を現場に委ねなければならないのが難しいところだ。企業の採用も似ているかも。
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「節穴」というのは作者自身がスカウトとして、多くの学生、社会人の「人生」を多額のマネーで買うスカウティングに対しての自負と懺悔の念を言い表したものである。著者は古田、石井、岩村、藤井など一流選手を発掘する一方で高橋由伸を金で巨人に強奪されたり、内定辞退をして一度はスカウトを承諾した選手に、最後は結局銀行員になられてしまったりという徒労を味わったりもする。選手を選出していく時にどんなネットワークを作っていくか、選手のどこを見るか、などはスカウトの表側。金で動く監督と球団、選手の親族などはスカウトの裏側。
野村監督にですらモノ申す著者の筋の通った一匹狼が、何より愛する野球をスカウティングという人目に触れない職業から語る。
最後の方に、著者がスカウティングに東奔西走していたころ、夏の夕焼けに染まる神宮球場の空に見惚れてリラックスしていた描写が印象的。そして、現在ではそういう熱い時代の思いを感じることは無いだろうと老成してみせる。
野球の試合に興味は無くとも、野球のスカウティングに賭ける男の意地を知ることが出来る一冊。
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元プロ野球スカウトによるNPBにおけるスカウトの実情
ドラフト制度を職業選択の自由を盾に否定し、自由競争を持ち込んだ流れ。
その後、アマチュア野球界が利権の巣窟に成り下がってしまった…
スカウトの仕事も才能を探すことからいかに金を流すかに変化
また野村監督との関係から、現場の指揮者は勝つためにFAなどで安易に戦力を揃える、その結果育つべき実力を持った若手が働き場をなくし消えて行くことを嘆いてある。
長期的視野にたった戦力育成の必要性、またその視点に立てる指導者のあり方。
NPBに本物のスターがいなくなった理由が見えてくる。
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最初はタイトルが過激なので、なんだか騙されると思って手に取らなかった本だ。
しかし近年の横浜のドラフトの体たらくぶりと映画マネーボール公開にちなんで勇気を出して買ったことが良かった。
読み始めた最初の感想は「エライ本を手にしてしまったな」だった。
それはそうである。
ヤクルトの元スカウト部長を務めた大ベテランの著書は、斉藤佑樹が大化けしないと断言するところから切り出し、野村元ヤクルト監督との確執を認めるところから本は始まる。
著者も認める通り、過去にこれだけスカウト活動の表裏を伝えた一冊はないだろう。
しかしこれは暴露本の類いの安いっぽい内容ではない。
その道33年の骨太で一本気な経験豊富のスカウトの生の話である。
だから含蓄のある話も多いし、インパクトの強い、マスコミも避ける話も詰まっている。
それは裏金の存在を認めているところであったり、金の卵を潰す指導者だったりとにかくあまりの刺激にページがどんどん進んでいく。
インパクトのある話は、やはり実話に基づく体験談だからだろう。
高橋由伸がヤクルトを志望していながら、父親の焦げ付いた土地問題が絡んで巨人を逆指名したエピソードや、
プロ入り志望と聞いて指名したら、手のひらを返されたエピソード、
選手の周りに徘徊する野球ゴロのエピソード
など33年もスカウト活動をした訳だからネタには事欠かない。
登場人物も掛布、野茂、古田、池山、尾花、長嶋茂雄ととにかく豪華なのだ。
しかしそういったエピソードとは別に、やはりベテランならではの考察もふんだんにあるので、幾つか紹介したい。
球団からポジションを保証されているサラリーマンであるスカウトと単年で勝負をしている監督とのドラフトに対する姿勢の相違の部分は興味深い。
これが野村監督との確執の根本であったことは間違いない。
即戦力が欲しい監督と、中長期でチームを見る視点を必要とするスカウトではやはり食い違いが起きる。
そしてお互いへのリスペクトがないとおかしなことになる。
眼鏡のキャッチャーはいらないと言い張りながら、後にオレの手柄だと言われたり、ルーズショルダーがわかっていながら伊藤智仁を酷使したり、才能は父以上だったかもしれない一茂を干したりと野村監督との抗争が残されている。
著者がベストのドラフトの方法は完全ウェーバー制であることだと考えていることもおもしろい。
そのかわりにFA期間が短くなることは条件だと述べているが、それでも裏金をなくす方策として、韓国プロ野球が導入している制度の紹介は説得力があった。
韓国では、契約金の一部を育てた学校に支払うそうだ。
巨人が無理矢理作った逆指名制度のせいで、露骨にお金を請求する悪い監督もいたようだ。
韓国プロ野球のような制度であれば、後ろめたいこともなく、練習環境の整備や指導者に謝礼を出せるということだ。
そしてやはりスカウトなだけに、選手の見るポイントもとても興味深い。
著者が大事だと思う点はやはり「強いハート」。
高橋由伸もその点を心配していたそうだが、どこかお坊ちゃまだったり、自分の信念を貫けない選手は大成しないようだ。
そして次にそのチームにハマるか否か。
ヤクルトでは、関根監督時代に伸び伸びと育った池山選手のような例がある一方、スピードはめっぽう速いのに、ノーコンなために伊藤昭光投手コーチにポイッと捨てられてしまった平本投手のような例もある。
著者は信念を持って選手を獲得してきただけに、指導者への見る目も確かでありまた厳しい。
そして技術的な面で言えば、
ピッチャーはこの3つを注意してみていたそうだ。
「球離れのよさ」
「リズム感」
「身体の強さ」
バッターであれば、
「球付きのよさ」と
「フォームのリズム感」
これだけ書くとどうもマネーボールのデータ主義と逆行していることもなんとなく伺える。
しかし本人は説く、「人が人を判断することはできない」、ただ「信じることはできる」と。
「その人の才能を、そして自分の判断を」
そういわれてみれば、ビリー・ビーンも最後には人をそして自分の判断を信じた。
もちろん途中の判断基準においてデータを重視した違いはある。
でも彼はサイバーメトリックス導入において自分のチームの部下を信じたし、そして球界の慣習に逆らう自分の判断を。
スカウト活動が実を結ぶのは、人の強い信念に支えられているのではないかと感じさせられた。
時間が経つのは早く、もう間もなくプロ野球のレギュラーシーズンも終わり、ドラフトまですぐ。
この一冊の知識を持って今年のドラフトの様子を見ていくとかなりおもしろいのではないだろうか?
もう何冊かドラフトやスカウトの本も出ているようだから手にしてみたいと思う。
片岡宏雄の作品