上海灯蛾

著者 :
  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575246025

作品紹介・あらすじ

1934年上海。「魔都」と呼ばれるほど繁栄と悪徳を誇ったこの地に成功を夢見て渡ってきた日本人の青年・吾郷次郎。彼の許を謎めいた日本人女性が訪ねる。ユキヱと名乗るその女が持ちこんだのは、熱河省産の極上の阿片と芥子の種。次郎は阿片の売買を通じて上海の裏社会を支配する青幇の知己を得て、上海の裏社会に深く踏み入っていく。栄光か。破滅か。夜に生きる男たちを描いた、上海ピカレスク。

感想・レビュー・書評

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  • 鬼★5 人間の欲はどこまでも果てしない… 戦時中の上海を舞台に血で血を洗う歴史ノワール #上海灯蛾

    ついに来た…これだわ、今年の国内ミステリーのトップクラス。
    文学賞候補やランキング上位は間違いないレベルの作品、圧倒的に★5です。

    舞台は上海、時代は戦前から戦時中。阿片取引を巡って、地下組織で暗躍する男たちを描いた犯罪小説、ノワールです。

    ■きっと読みたくなるレビュー
    貧しい生活から抜け出すため日本から上海に出てきた青年が、高品質な阿片取引に関わることでチャンスをつかむ。上海の秘密組織「青幇」に従属し、彼は兄貴分と協力しながら裏社会で暗中飛躍していく。
    一方、満州を統制していた関東軍は、さらなる軍事拡大のため資金源を必要としていた…

    熱い!熱すぎる!この話の概略だけで、もう面白そうでしょ。
    安心してください、実際読んでみても超絶に面白いです。

    犯罪小説でありながらも、阿片や戦争といった事実ベースの歴史や社会性をテーマにしつつ、エンタメ性も抜群。なぜ阿片が持ち込まれたか?事件の真相は?といった謎解きもある。もう優勝です。

    〇欲の汚さ
    人間の欲というのは、どこまでも果てしない。
    高品質な阿片を巡って、様々な悪党たちが血で血を洗って奪い合う。貧しい者は、わずかな食べ物を奪い合う。そこには自分の理屈しかなく、まさに光に集まってくる蛾のごとく、ただの生き物でしかない。
    読めば読むほど虚しい感情が広がり、胸が張り裂けそうになります。

    〇罪の重み
    もともと出世をしたかっただけなのに、多くの人を不幸にしなければ裏社会では生きていけない。どんな悪党であっても良心の呵責、罪の意識は存在する。ただどんなに痛みを感じても最果てまでやり切らないと、痛みは解消されない。

    何を引き換えに人は富みを得るのか。
    健やかに、感受性豊かに、小さな幸せを感じて生きることができなくなる恐ろしさが強烈でした。

    〇上海と秘密組織「青幇」
    この時代、上海はどんな街であったか、裏社会やフィクサーの存在。全く勉強不足でした。作者の取材力と圧倒的な筆力に感謝、読書を楽しみつつも歴史を学ばせていただきました。

    〇戦争
    我々は中学高校で歴史を授業で学びますが、正直この本を読むほうが圧倒的に勉強になる。戦時中、政治の中枢はどんな拙劣な考えを持っていたか。そして反対勢力を抑圧する現実とは。

    今も世界のどこかで行われている戦争…悲劇が繰り返すだけなのに、人間の愚かさが悔しいです。

    〇若者たちの未来
    運命とはなんなのか…時代に巻き込まれた優秀な若者たち。
    彼らが現代に生きていたら、もっと人を笑顔にできる成果が上げられたのではと悔しくてなりません。

    弱き人のために多くの制度を考えて、たくさんの人を幸せにができたでしょう。
    手を取り合って、日本の経済を支えるようなサービスや製品が生み出せたでしょう。
    難しい交渉を経て、100年後の日本の未来を支える取引ができたでしょう。

    ■ぜっさん推しポイント
    引用:平家物語 冒頭
    祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
    沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。

    読み終わったら、ぜひもう一度、序章を読み直してほしい。
    人間も蛾も、所詮はただの生き物でしかない。我々はなんのために生きるのでしょうか。

  • 1934年の上海租界。
    吾郷次郎はこの地で商売をしていた。
    彼のもとへ原田ユキエと名乗る謎めいだ女から極上の阿片と芥子の種が持ち込まれたことで、上海の裏社会を支配する青幇と繋がる。
    ここから彼は、阿片ビジネスへ引き摺り込まれる。

    金とは手にすればするほどもっとほしくなり、ひとたび苦労せずに得る方法を知ると、苦労する気がなくなる。
    それはいつの時代であってもそうなのか…

    戦中、関東軍と青幇との間で阿片をめぐって暗闘が繰り広げられる。
    執拗に追う関東軍に吾郷次郎は…。

    後半以降に加速していく熱い闘い。
    だが阿片に動かされているのは人同士ではなく国なのかと…。


    ちょうど新聞でも掲載されていた文面に
    約90年前に日本がつくった満州国。表向きに掲げた理想と裏腹に実際はアヘンにまみれた傀儡国家だった。
    現代も紛争地帯で作られた薬物が、豊かなはずの国で貧困と格差に苦しむ人々をむしばんでいる。
    「紛争と麻薬」が招く災禍を我々はいまだに克服できていない。
    とあった。

    なくならない戦争と麻薬。
    始まりを辿るとこの上海1934年の時代からなのか。
    知らずに今まできたけれどこの本で知ることもできた。
    ただあくまで物語ではあるので虚構の部分も多くあると思う。


  • 1ページ目から引き込まれました。
    自分の裁量と度胸と運でのしあがっていく主人公から目が離せませんでした。誰が死に、誰が生き残るのか。誰が味方で誰が敵なのか…。個性的な登場人物達が物語を最後まで失速することなく引っ張って行きます。
    贅沢をいえば、上海の喧騒、熱気が伝わるような描写がもう少しあったらいいなと思いました。
    「主要参考文献一覧」の最初にある一言が気になります‼️予想外の分野へのご迷惑って何でしょうか?‼️

  • 日中戦争ただ中の上海、阿片に群がる中国裏社会の男たち(+女たち)の物語。高品質の阿片 "最" で荒稼ぎする青幇(チンパン)と、戦費を調達するため同じく阿片売買に手を染める陸軍特務機関「央」の攻防(抗日阿片戦)を描いた力作。

    「男たちがそうであるように、女たちもまた、金と出世の要望を胸に、上海租界の灯りに群がっていくる蛾なのだ。灯火の周りで羽ばたきながら、近づいては離れ、離れては近づき、お互いに交わる機会をうかがっている。灯火に焼かれる恐怖を承知のうえで、綱渡りにも似たぎりぎりの危うさに酔いしれる」。

    物語は、主人公・吾郷次郎(中国名:黄基龍ホアン・ジーロン)、青幇の有力幹部で黄基龍の義兄弟・揚直(ヤンジー)、関東軍に深い恨みを持つクールビューティー・原田ユキヱ、そして次郎が何かと面倒を見ている日本人学生・伊沢穣を中心に進む。

    次郎は兵庫県の山間僻地の貧しい農家の次男坊。日本を捨てて上海に移り、雑貨商を営みながら中国裏社会を牛耳る青幇と繋がるチャンスを狙っていた。高品質の阿片(次郎が青幇と繋がるきっかけ)を次郎の店に持ち込んだ謎の女が原田ユキヱ。次郎はユキヱの阿片を報酬なしで青幇に提供し、阿片売買を仕切る揚直と縁を作ることができた(後に2人は義兄弟となる)。揚直は男気も実力もあるが、汚れ仕事を担っているため恨みも買っていた。次郎は、上海のダンスホールで給仕をしていた日本人の若者・伊沢穣を気に入り、何かと面倒を見るようになった。伊沢はやがて満州に移り、陸軍の息のかかった大学に通うようになる。

    架空の物語を通じて、日中戦争当時の上海租界の様子がリアルに描かれていて、なかなか面白かった。ちょっと長かったな。

    • Tomoyukiさん
      こんばんは(^^)
      読み進めるうちに、冒頭のシーンで生き残ったのはどっちだ….?ってハラハラしました。
      こんばんは(^^)
      読み進めるうちに、冒頭のシーンで生き残ったのはどっちだ….?ってハラハラしました。
      2024/02/12
    • norisukeさん
      Tomoyukiさん、コメントありがとうございます。確かに、誰が死んでもおかしくないスリリングな展開でしたね。ハッピーエンドではないけれど、...
      Tomoyukiさん、コメントありがとうございます。確かに、誰が死んでもおかしくないスリリングな展開でしたね。ハッピーエンドではないけれど、燃焼しつくした感のある終わり方も、結構いいと思いました。
      2024/02/12
  •  空っぽになってしまった。何を思えばいいんだろう。どう感じたらいいんだろう。感じること、考えることが多すぎて、考えていたら、頭の中が空っぽになってしまいました。

     物語は、日本での暮らしに嫌気をさし、成功を夢見て上海に渡ってきた男、吾郷次郎の元に謎の女、ユキエが極上の阿片を持ってきたところから始まります。

     次郎は、上海の裏社会に君臨する青幇の一員である楊直に話を持ち掛けると、その流れで自らも阿片ビジネスに深く関係していくことに・・・。

     時代が違っていたら、次郎と伊沢はきっと良い関係を築いていけたんだろうと思うと、本当にやるせなくなります。欲や名誉、国や戦争に翻弄された男たちの物語。救いは次郎と楊直との関係。いつでも裏切ってやろうとしていた次郎が、楊直と義兄弟の契りを結び、最後までその関係は壊れることなく、次郎の最期に立ち会った楊直とのやり取りには涙が止まりませんでした。

     こうした時代があって今の世の中があるわけですが、この時代も良いものであってほしかったと願わずにいられません。

  • 小説推理「上海灯蛾」/上田早夕里 著 | 伊藤彰剛 |【東京イラストレーターズ・ソサエティ(TIS)】Tokyo Illustrators Society
    https://tis-home.com/akitaka-ito/works/16620

    上海灯蛾 - 上田早夕里 (単行本) | 双葉社 公式
    https://www.futabasha.co.jp/book/97845752460250000000?type=1

  • 大東亜戦争~第二次世界大戦の時期の上海共同租界を舞台にしたひとりの日本人青年の成長と成功、そして死に至るまでのほんの11年間のストーリー。そして出会った様々な人間や闇の圧力団体、旧日本軍。
    時代と「阿片」のせいとだけは言えないけれど、それは血みどろで陰謀渦巻く、思わず目を背けたくなるような~。
    その時代のこと、大陸の大きさを(何につけても…)知らなさ過ぎる自分が勉強不足であるということもよく分かった。

  • 戦前の上海を中心に、阿片やマフィアや日本軍、因縁と抗争。
    ドロドロ血生臭い内容ではあったが、次郎の芯がぶれず好感が持てたので読後感はすっきり。文章もとても読みやすかった。
    知らず知らずのうちに登場人物たちに愛着を感じていたようで、読み終わった後しばらくロスを味わった。

  • 自由を求めて伸し上がりたい男と、出自の呪縛から逃れられない男
    互いに翻弄され追い込まれてゆくさまにこの時代の恐ろしさを見せつけられるが、現代と何も変わらない利権争いは、現代だからこそ、その恐ろしさが一層際立つ
    船戸与一のいい意味でのエンターテイメント性な味付けが少ない分、余韻が切り裂く刃のように突き刺さってくる

  • 太平洋戦争前夜、満州を手に入れた日本は更に手を広げ、中国へ進出していった。そんな時代を取り上げた作者の上海三部作。
    『破滅の王』では細菌兵器を
    『ヘーゼルの密書』では和平工作を
    『上海灯蛾』は阿片密売が生み出す“カネ”

    それぞれ題材は違うが、テーマは当時大陸に夢を描いていた人たちの希望と挫折。特に今回は“魔都上海”の“青幇”と云われる闇組織が舞台で、ノワールの香りが強い。

    「戦争をする奴らがどんな理屈をつけても、結局は金のためだ」って言ったのは『風と共に去りぬ』のレット・バトラー……。
    そして、多くの悲劇を生む。

    それは今でも同じこと。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。2003年『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し、デビュー。11年『華竜の宮』で第32回日本SF大賞を受賞。18年『破滅の王』で第159回直木賞の候補となる。SF以外のジャンルも執筆し、幅広い創作活動を行っている。『魚舟・獣舟』『リリエンタールの末裔』『深紅の碑文』『薫香のカナピウム』『夢みる葦笛』『ヘーゼルの密書』『播磨国妖綺譚』など著書多数。

「2022年 『リラと戦禍の風』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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