華ざかりの三重奏

著者 :
  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575246216

作品紹介・あらすじ

独身で子供のいない可南子は、もうすぐ還暦を迎える。これまでは仕事一筋に頑張ってきたが、定年退職したあと、どう生きればいいのか途方に暮れている。そんな中、子育てと介護を終えたかつての友人・芳美から、一緒に暮らさないかと誘われて…。それぞれ人に言えない悩みを抱える迷える六十歳たちは「人生の問題」にどう向き合うのか?

感想・レビュー・書評

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  • スルスルスルスル読めてしまいました。
    定年を迎えた可奈子が、中学生の時の同級生の芳美の家で同居を始める物語。
    そこへ、ご近所に住む同居家族とうまくいっていない香織が加わり三人で始めたことは‥‥
    独身で仕事一筋に突っ走ってきた可奈子。義父母の介護をやり遂げ夫を亡くし子どもたちは独立して、今は一人住まいの芳美、息子家族と同居を始めて肩身の狭い香織。60歳の彼女たち。これからの人生をどう過ごしていけばいいのか。
    仕事や育児など、イヤでもやらなければいけないことがある毎日を過ごしている時には、こなさなければならないことが頭の中を占めていて、『あー!自分の時間が欲しい!』と思っていても、実際に24時間全てが自分のためだけの時間になった時、どうしたらいいのか分からなくなってしまうものなのかもしれません。
    趣味の時間も、ボーッとする時間さえもなくガムシャラに動いていた人ほど第二の人生が始まった時に戸惑ってしまうのかも。
    そんな時にこの物語の三人は子どもの時に大好きでハマっていたことに、もう一度のめり込む。それも一人じゃない、仲間がいるから昔の感覚でキャピキャピできて羨ましかったなぁ。
    ご近所のヤギを連れた少年とのやり取り、距離の取り方なんかも、さすが年季の入った三人、さすがでした(裏表紙にいきなりヤギがいて混乱したけど読み進めるうちに納得)。
    表紙の絵がなかなかにうるさいのだけれど、好きな物をめいっぱい集めて過ごす第二の人生ってことですね。

  • それぞれの道を歩んできた三人の女性が
    還暦を迎え、ここに集結!
    老いに向かう不安や寂しさがありつつも
    日々笑い喜びを分かつ姿がいいなと思う。

  • 60歳の女性とは…
    いろいろ抱えているのかもしれない。
    ただ60歳でなくとも、だろうが。

    還暦を迎えて、節目というのもあるのだろう。
    昔と違って老後は長い。


    キャリアウーマンで独身の可南子はもうすぐ定年なのに趣味もなく、やりたいこともなくどうしたらいいのかわからない。
    芳美は、義父母の介護をして看取り、夫も亡くし子どもはそれぞれに家庭を持ち、家で篭りっきり。

    そんな2人が同窓会で再会したのをきっかけに少女マンガで盛り上がり、芳美が一緒に暮らそうと声をかけてから還暦女2人の生活へ。

    近所の祖父と暮らす中2の少年とヤギも時々遊びにくるようになり、さらには夫を亡くし息子家族と同居したものの居場所がない香織も出入りするようになって…。
    彼女たちが見つけた生きがいは。

    1970〜1980年代の少女マンガの世界が広がり少し懐かしささえ覚える。

    何かをいっしょにやり遂げて、また新たな目標があるというのはすてきなことだ。

    夢中になれるものがあり、一緒に楽しめる誰かがいるというのも羨ましく思える。
    お金も健康も老後も気になる年代だけど何かを諦めるよりも何かを始めることも大切なんだなと感じた。

    ひとりで鬱々と塞ぎこむより、煩わしくとも誰かと話し関わることで気分は変わる。
    いくつになっても変化を楽しむことも大切なのかもしれない。

    なかなか一歩が踏み出せず、いつものルーティンをこなしてそれでいいと思っている者にはとても勇気がいること。



    先日、お盆に開催される同窓会の案内が届いた。
    還暦に合わせて予定していたが、コロナ禍で随分遅れてしまったと…。

    中学3年の同窓会通知である。
    返信はギリギリになるだろうが…。


  •  還暦。人生でひと区切りつく年齢だ。仕事であっても育児であっても介護であっても。特に女性にとっては感慨深いものだ。
     これからは自分のための時間を過ごし自分のための人生を生きよう。そう思うけれど……。

     そんなアラカン世代の女性3人のリスタートを、コミカルに描いたヒューマンドラマ。
     物語は3人のうちの1人、竹下可奈子の視点で進んでいく。
             ◇
     男女雇用機会均等法施行第1世代の竹下可奈子は、東京のアパレルメーカーのプレスとして活躍してきた。
     仕事は性に合っていて楽しかったが、モーレツ社員時代を突っ走ってきた可奈子にプライベートを楽しむ余力はなく、気づけばシングルのまま還暦を迎えることになっていた。間もなく定年退職である。
     さらに恋も趣味もなおざりにしてきた可奈子は、退職後のライフプランも思いつかない自分に愕然とするのであった。

    そんなとき46年ぶりの同窓会が正月に開かれることを知った可奈子は、出席を兼ねて郷里の群馬に里帰りすることにした。目的は中学時代の親友・西村芳美に会うためだ。
     首尾よく芳美と再会し旧交を温めた可奈子は同窓会後に芳美の家に泊めてもらい、中学時代に芳美とともに少女漫画に夢中になっていた自分を思い出す。
            (第1章「冬」) 全5章。

         * * * * *
     
     青年期から壮年期までをどのように過ごすか。
     もちろん誰しも懸命になって目の前のことに取り組むでしょう。それは尊い。けれど……。

     前半は、女性によくある3様の半生が描かれていました。
     キャリアウーマンの可奈子。
     専業主婦の芳美。
     自営業の香織。
     3人とも人生に対して、誠実に精一杯取り組んできました。それだけに、独り身で第2の人生を迎え困惑する姿が哀しい。

     仕事ひとすじに生きてきた可奈子。
     義両親・夫・2人の子どもの世話に明け暮れた芳美。
     生花店を切り盛りしながら家事と育児までこなしてきた香織。

     それまでのミッションを終えた彼女たちの現在地は空虚な世界なのでした。

     可奈子には、退職後のよすががありません。
     築いてきた人間関係は仕事上での付き合いしかなく、もはや結婚や恋愛など考えるのさえ億劫でその気にならない。
     趣味もなく、新たなものに興味を向ける気力もない。
     群馬の実家には自分と気の合わない母と弟夫婦が住んでいて、可奈子の居場所はない。
     それが可奈子の現在地です。

     芳美には、日々を暮らす気力がありません。
     口うるさい義両親はすでに亡い。優しかった夫には死病で先立たれました。2人の子どももとっくに一家を構えています。世話すべき対象は誰もいなくなったのです。
     芳美は燃え尽き症候群のようになり、家事どころか食事や買い物まで億劫で怠惰な生活を送っています。
     それが芳美の現在地です。

     香織には、居場所がありません。
     必死に切り盛りした生花店は夫の病死で畳むほかなくなり、思い入れの強い店舗つき住宅を手放しました。
     身を寄せたのは息子夫婦の4LDKの一軒家なのですが、夫婦と3人の息子がいるため香織の起居するスペースはリビングをパーテーションで区切った一角。プライバシーがなく居心地も悪い生活を余儀なくされています。
     それが香織の現在地です。

     3人の女性に共通するのは孤独や無聊を解消する術がない状況にあるということです。
     これは誰にでも訪れる可能性が高い話であるだけに、リアルに感じられます。コミカルなタッチなのに何か身につまされるのはそのためなのでしょう。

     だから、芳美が可奈子に同居を提案したことや可奈子がその案に乗ったこと、迷える子羊のような香織に芳美が日々の居場所を提供したことなど、ストーリーとして非常に説得力があるように感じました。

     3人ともに路頭に迷うような悲惨さはないだけに、却って共感できる人が多いテーマだったのではないでしょうか。


     後半は一転して、少女漫画というかつてのオタク趣味を思い出した3人が協力して同人誌制作に取り組み、コミケに出品するまでの精力的な姿が描かれます。

     オタクと呼ばれるほど没頭しこだわりを持てる趣味。その熱量は生きる気力をもたらし人生に彩りを与えてくれるものでしょう。
     少女漫画について語り合い、同人誌制作について議論するとき、彼女たちは若返ります。まるで少女に戻ったように。

     この3人の人生が弾けたような後半には元気をもらえました。


     他にも心に残る仕掛けがありました。

     ひとつは、不登校中学生の詠人と飼いヤギのユキくんです。ひょんなことから彼らも日々、芳美宅で過ごすようになるのですが、繊細で気遣いのできる詠人とマイペースでこせこせしたところのないユキくんが3人の女性にもたらした心の余裕は、なかなか大きいものでした。
     不登校から立ち直り彼女たちのもとから巣立っていく詠人を見送る3人には、笑顔はあってもさびしさはないのが印象的でした。

    もうひとつは、1970〜1980年代の少女漫画が次々と紹介されたことです。
     懐かしい作家さんたちの名前。『ベルサイユのばら』などの超有名作から、『あさきゆめみし』『 BANANA FISH 』『動物のお医者さん』などの自分もハマりまくった作品まで登場します。読んでいてとても楽しめました。

     これだけの少女漫画を取り上げてくださった坂井希久子さんには、拍手と賛辞を贈りたいと思いました。


     仕事や家事・育児などから解放されてスタートする自分のための人生。舞台を降りたあとの余生ととるのか、新たに始まる第2の青春ととるのかは、その人しだいなのだと改めて考えさせてくれた作品でした。

         * * * * *

     たくさんのブク友さん方が読んでいらっしゃる作品なので、興味がわいて読んでみました。ものすごくおもしろかったです。

     そして、読書意欲をそそるステキなレビューを読ませてくださったブク友の皆さま方に、この場を借りて感謝申し上げます。

  • アラカン女性3人の共同生活のお話。
    読んでいて幸せな気持ちになれるストーリーでした。
    自分も定年後にこんな生活ができたらなぁと憧れてしまいます。

    漫画『マダムたちのルームシェア』とも似た感じ。
    これまでの5、60代の女性達の「普通」の生き方だけではなく、もっと自由な生き方だってアリだよね、というメッセージが、40代の私にとって響くというか、嬉しいものでした。

  • 会社勤めを長年していると、いずれ訪れる定年後の身の振り方に思いを馳せずにはいられない。
    昔とは違い現代では定年の年齢も、再雇用等もあって60歳から延びつつあるけれど、やっぱり60歳は社会人にとって一つの区切りの年齢だと思う。
    そこから残りの人生をどう生きていくのか。お金・健康・生きがい…考えることは尽きない。定年後の時間が長ければ長いほど、より楽しく幸せなものにしていくため生き方を模索していかなければ、と焦るばかり。

    そんな人生の転換期・60歳を迎えた中学時代の同級生との二人暮らしを描いた物語。
    同い歳の女性の二人暮らしはほんと理想的。私もできればこんな老後を迎えたい、と何から何まで羨ましかった。
    同じ歳だから互いの好みも分かるし抱える悩みも似たようなもの。けれど一番大事なことは夢中になれるもの、価値観が同じってこと。あと適度な距離感。これらが同居する上で必須なのかも。

    「最期のときまで傍らにいる相手は、夫婦や親子でなくていい」
    「しょうがない。人生とは学びの連続だ。平均余命がまだ二十九・二十八年もあるのなら、予想外の道に迷い込むのもアリとしよう」

    還暦=華寿と考えると少しは気持ちも楽になれるかな。

    まだまだ先と思われた人生の転換期に、私も近づきつつある。現実的な問題は尽きないけれど、できるだけ楽しい時を過ごすため生き方について考えていきたい、と思わせてくれた作品だった。

  • 同僚と老後の話をすることがあります。
    年金ちゃんと貰えないよね、老後の生活が心配とかなどなど。話をしてると暗くなります。
    レビューでこの作品を知り、どんな老後なんだろうと思い読んでみました。

    最初はこの設定は無理があるのでは?中学時代の親友といっても、全然会ってもない二人がいきなり同居できるの?ヤギを飼っている親戚に話を聞いていたので、ヤギってこんなに人に懐くのかな?など、モヤモヤしながら読んでたけど、面白い、面白かったです。この三人がどうなるのか気になってどんどんページを捲ってた。

    還暦を迎えようとしてる時に同窓会があり、そこで久しぶりに会った、よっさんとタケコの二人。タケコが退職して、一緒に住むことになり、好きな漫画を読んでダラダラ過ごす。そこへ中学二年生の詠人とヤギのユキ、そして三人目の還暦を迎えた漫画好きの香織が加わる。三人は漫画を読み、詠人は勉強、ユキは庭で草を食べる。このまったり感が私は好き。そんな生活が続いてたけど、ある目標ができ、その目標に向かって三人がパワフルに動く。そんな三人が羨ましかったし、読んでて微笑ましかった。

    読み始めは、どうなんだろう?と思ってたのに面白いと思ったのは、三人の漫画好きがたぶん私の心を捉えたんだと思う。私も漫画が好きだから、共感できるところがいっぱいあった。好きな漫画を語り合いたいとかはまさにそうで、話をしたら止まらないかも。高校生になったらオタクと思われるからこっそり読んだとかは、ちょっと私の時代とは違うのかな?私の高校時代は、好きな子は堂々と漫画を読んでた。ただ、女子は女子の漫画、男子は男子の漫画を読む雰囲気だったから、女子が男子の漫画を読むとオタクと思われてたかもしれない。私はジャンプの漫画は大人になってから堂々と読めるようになったかな。『NARUTO』を大人買いした時はドキドキしたな。
    私より上の世代の方々が読んでた漫画や漫画家さんが出てきたので、私はよく分からない方が多かったけど、それでも気になるのが"テオ"。三人を魅了してる"テオ"って一体何者?と気になる。『時の旅人』という漫画の登場人物らしいけど、還暦を迎えてもキャーとなる"テオ"を見てみたいかも。

    面白かったけど、現実は甘くないぞと肝に銘じておこうと思いました。

  • 仕事リタイアして
    夫のこととか子どものこととか
    自分の手から離れて
    気にする必要無くなって
    ホントにひとりになった時
    本とか映画とかお酒とか
    好きなものに囲まれて
    好きな時間に好きな場所で
    飲んだり食べたり眠ったり
    そんな生活に震えるほど憧れます
    あー
    早くそんな生活送れる日来ないかなー
    図書館本

  • 実は現在、とっても辛いことが続いていて、しんどくてたまらないのですよ。

    そんな中でこうした本を読めたというのは救われたし、楽しかったし、心が軽くなりました。感謝です。

  • 60歳、色々事情があったりなかったりの三人の女性がルームシェアのようなことになる。
    そこに不登校気味の中学生男子とヤギが加わり、だらだらと時間も他人の目も気にせず少女漫画を読みふける!最後には作品への熱が同人誌作りにまで発展していく。

    なんて羨ましい!自堕落万歳!
    老後の面倒は配偶者でも子供でもなく、友人というのはアリかもしれない。
    老々介護になるのが目に見えているのが難点だけど。

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著者プロフィール

1977年、和歌山県生まれ。同志社女子大学学芸学部卒業。2008年、「虫のいどころ」(「男と女の腹の蟲」を改題)でオール讀物新人賞を受賞。17年、『ほかほか蕗ご飯 居酒屋ぜんや』(ハルキ文庫)で髙田郁賞、歴史時代作家クラブ賞新人賞を受賞。著書に、『小説 品川心中』(二見書房)、『花は散っても』(中央公論新社)、『愛と追憶の泥濘』(幻冬舎)、『雨の日は、一回休み』(PHP研究所)など。

「2023年 『セクシャル・ルールズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

坂井希久子の作品

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