『週刊ファイト』とUWF 大阪発・奇跡の専門誌が追った「Uの実像」 (プロレス激活字シリーズ vol.2)

  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575311112

感想・レビュー・書評

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  •  週刊ファイトの記者とは、発行元が新大阪新聞社という大阪地方紙であることもあり、薄給、休日返上と今でいうブラック企業とも言える仕事なんだろう。しかし、本著で書かれているのは、週刊ファイト、そしてプロレスへのあふれんばかりの愛情である。特に世間に新たなプロレスの楽しみ方を確立したI編集長。本書では、著者のI編集長に対する愛情と尊敬の念があふれている。

    「自ら“プロレスってのは、リングの上での試合、それだけなんです”というプロレスを、どうやってファンが強い興味を持つ様に展開するか、どういう見方をすればプロレスがもっと楽しくなるかを絶えず考えていた。」

     I編集長はアントニオ猪木を徹底的に観察し、週刊ファイトを成長させた。それと同様に、著者は前田、髙田たち、UWF勢を観察していった。ちょうど新日クーデターから第1次UWF誕生の時期と著者の入社が重なったのだろう。だからこそ前田や髙田たちも著者に心を開きやすかったのだろう。

     「この周囲を明るく楽しくさせる、さわやかな好青年が内面に闘争心や負けず嫌いといった激しい気性を持っていた。」
    「面白いことに、この選手たちの猛反発や怒りは、UWF勢が新日マットにUターン参戦すると、リング状の緊張感としてプラスに作用することになる。」
    「あの時代、アンドレが仕掛けたあのようなシュートマッチに対抗できる日本人選手が他にいたか?その答えは間違いなくノーだ。」
    UWF勢の苦悩と成長、そして第2次UWFの空前のブーム。押しも押されぬメインエベンターに成長していった。しかし・・・
    「UWFはその後、11.28の東京ドームに6万人の観客を集めてU-COSMOSを成功させるなど、一見順風満帆だったが、中から聞こえてくるのはこうした不協和音だった。選手たちがやる気を失っている兆候が見え隠れしていた。」
     
     UWFの分裂とともに、週刊ファイトは徐々に終局を迎えていく。時代を作り上げ、牽引していった男たちも、年齢には逆らえなかった。プロレス自体を取り巻く社会の変化もあり、彼らの後継者の育成もままならなかった。I編集長は去り、著者も一旦は去る。そして廃刊。

    「マット界はファンを含め共通の連帯感をもち、そこから暖かさや感動が生まれている。」
    「逆に“あれだけエラそうに言って辞めていったくせに”というような冷淡な言葉や態度を取られ、嫌な思いをしたことは皆無だった。」

     暗い、悲しい話で終わるのかと思いきや、最後は温かい話で終わる。最後の前田との対談も終始和やかな雰囲気であることが垣間見れる。前田の著者への信頼の証だろうか。

     マット界の温かさを創って行ったのは?レスラー・企業そしてファンはもちろん、どんなに批判されても、書かれても、正面から扱うメディアの存在、つまりは週刊ファイトの存在が大きいのではと思う。

  • 時系列があっち行ったりこっち行ったりして、更にイニシャルトークばかりで関係者にしか分からない人間関係が多いので分かりにくいことこの上ない。

    当時の業界の特殊さと独特の緊張感は懐かしかった。

    まあしかし、一番面白かったのは巻末の前田日明と作者の波々伯部哲也(ほおかべてつや)氏の対談だったというね。

  • 地味でストイックなイメージの『週刊ファイト』の、今や業界にさしたるしがらみも無いように見える元記者の回顧録なので、素朴に信ぴょう性を感じた。ただUWFの振り返りというより、週刊ファイト自体の振り返り書として評価すべきだろう。

  • UWFについて週刊ファイトの波々伯部記者が綴った一冊。

    UWFの選手については元より、週刊ファイト編集部について詳しく書いてあるので、その手の業界裏に興味がある人にとっては楽しめる一冊。

  • 123-11-8

  • 1984年、新日本プロレスのクーデター騒ぎの渦中から、日本の総合格闘技のルーツの一つであるプロレス第三団体「UWF」が産声をあげる。

    前田日明、藤原喜明、初代タイガーマスクの佐山聡、高田延彦らが集結し、前衛的なプロレスリングのスタイルを築き上げていく。しかし一年足らずで経営が行き詰まり、佐山以外の選手達は古巣新日本プロレスへ。

    かつての同僚との試合は殺伐としたものに。その中で今でも語り継がれる名勝負も繰り広げられた。

    しかし、別れは突然に。
    試合中のアクシデントから前田日明は、新日本プロレスを去り、第二次UWFを旗揚げ。

    旗揚げ戦のチケットはわずか15分で売り切れるなど、空前絶後の大ブームとなっていく。

    そんなUWFを、大阪に本社を置くプロレス専門紙「週刊ファイト」の記者であった著者が、当時の熱を余すところなく伝えている。

    巻末には著者と前田日明との対談も収録。
    「『 ファイト』の人はみんな真面目に真剣にプロレスを見ようとしていた。その熱が読書をひきつけたんですよ」(前田日明)

  • NumberでUFCの連載始まったことを受けて、関連の本を読んでみたというところ。
    いろいろな関連本読まないとダメだな、と思いますね。自分自身の経験がないので。これがPRIDEやK-1ならば、この時の試合の状況が・・・とか肌感覚として理解できるところもあるのだけどね。
    内輪で何が起きているかはわかないし、こういう風に何十年後に語られることもあるけれど、それを楽しむためにも、現在進行形の戦いは見ていきたいな、と思います。

    明らかに、制作サイドの思惑あっての因縁関係もありますが。年替わりで現れたマサトのライバルとか。
    話題性を自然発生よりも、与えようとする手法は、プロレスから引き継いだものなのかと感じました。

  • 2016/4/24購入
    2016/5/7読了

  • 以前読んだ『痛みの価値 馬場全日本「王道プロレス問題マッチ」
    舞台裏』に続くプロレス激活字シリーズ第二弾。今回の著者は
    波々伯部哲也という聞き慣れない作家さんだったのだが、読み始め
    てすぐ謎が解けた。我々の間では既に伝説となっているタブロイド、
    週刊ファイトの元副編集長にしてI編集長の懐刀であった人。
    こりゃあすげぇ、ということで一気に読んだ。

    いわゆる第一次UWFから三派分裂後、そして最近のカッキーエイド
    のトピックまで、UWFにまつわるエピソードが多々。かなり踏み込
    んだ内容なのにもかかわらず、最近出版されるプロレス本にありが
    ちな暴露系の匂いは全くしない。その硬派で誠実とも言える文章は
    正しく週刊ファイトスタイルであり、読んでいて懐かしさすら感じ
    たほど。

    特に第一次UWFという現象を実体験している僕には、当時知り得な
    かった事実に心が震えた。あれからもう30年が経過しているにもか
    かわらず、である。UWFという運動体のインパクトはそれだけ凄か
    ったのだ、と改めて感じた。

    しかし、だ。
    良いか悪いかはともかくとして、この本で印象に残ったのは「UWF」
    ではなく、「週刊ファイト」という恐るべき媒体であった。ファイト
    は著名な編集者を何人も輩出しているが、ほぼ全員が良い意味でも
    悪い意味でも”クセ者”(^^;)。しかし波々伯部哲也なら、ファイト
    の正しい回顧録が書ける気がする。

    是非とも次はファイトのみにフォーカスした作品を。
    懐かしいなぁ、喫茶店トーク(^^;)。

  • 週刊ファイトが廃刊になって間も無く自分もプロレスを見ることから離れていきました。「キラー猪木」「底が丸見えの底なし沼」「風車の理論」
    幻惑的な、意味深な、レトリカルなキーワードのが飛び交うI編集長の喫茶店トークなしには、リングの上の出来事は、ペラペラの紙芝居に見えていたのかもしれません。当時は、I編集長の言葉でさえ、総合格闘技の前には、言葉のための言葉に感じていたのも事実。でもバーリトゥードがプロレスを丸裸にしてしまった後、残ったのは人生を賭けて活字プロレスを成立させたI編集長のガチンコのリアルだったような気がします。自分の脳の中の妄想こそが真実というメビウスの輪の上に成立する表現、それが彼に教えられたプロレスでした。すごい人でした。

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