- Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
- / ISBN・EAN: 9784575524611
作品紹介・あらすじ
もう一人の自分を目撃したという人妻。”消失狂”の画家。「あんたは一週間前に事故で死んだ」と妻に言われる葬儀屋。妻が別人にすり替わっていると訴える外科医。四人を襲う四つの狂気の迷宮の先には、ある精神病院の存在がああった……。緻密な構成と儚く美しい風景描写。これぞ連城小説の美学、これぞ本格ミステリの最高峰!
感想・レビュー・書評
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流石の’連城節’、文章の美しさや品の良さは折り紙付き。
とある精神科の病院を中心に織りなされる群像劇。
複数の奇妙な事件が絡み合うカオス&ラビリンス。
しっとりと漂う詩情と余韻。
特に最序〜中盤までの謎と不気味さに満ちた空気はまさに『暗色』。とりわけ鞍田夫妻のエピソードは凄い。狂っているのは相手なのかそれとも自分か。更に、惣吉が妻の身体に写経を施すシーン(p105〜p109)は妖しいエロスまでをも醸し出す。香る白檀。
てんでバラバラの出来事が果たしてどう結び付いていくのか全く予想がつかないままに、やがて銀座四丁目交差点で発生するある事件。哀しき男の胸中に流れるのはフォスターの「スワニー河」(p340〜p345)。知らず郷愁を誘う旋律であり、男の眼に映っているのは季節外れの桜の樹だろうか。
と、大変に雰囲気ある物語の一方で、いくつかのトリックというか謎明かしについては、申し訳ないが個人的には割と台無しというか’そんなんあり?’と言わざるを得ないものがあった。
その最たるものは「団地の窓の光」(p379)のトリック。こんな不確実かつ汗臭い手法をよくもまあ…。どこか一軒でも留守にしてたらどうすんの。
他にも割と’偶然や幸運にも’みたいな要素が多くて何か落ち着きがない。
火曜サスペンス劇場感が強い、人間ドラマに重きが置かれて美しくもなんかどことなくひょうきんなミステリ。\テレレッテレレッテーレー♪/のアイキャッチが似合うと思う。
1刷
2023.6.17詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
もう一人の自分を目撃した女。消失狂の男。 事故で死んだと妻に言われる男。 妻が別人にすり替わったという男。4人は共通の精神科医の患者だった。
奇妙なミステリを読んでしまった…っていうのが1番の感想。物語の終着点が全く見えず、読了後も消化不良…。でも続きが気になって気になって、どんどん読めた。おもしろかったー。
登場人物がとにかくキャラが濃くって。クセが強すぎるし怪しすぎる。
妻に「あなたは1週間前に死んでる」と言われた葬儀屋の男の話が気に入った。 -
ひとつの精神病院を中心に四つの狂気が絡み合う、連城三紀彦のデビュー長編。パズルのように緻密で複雑な構成。
連城三紀彦の短編集はいくつか読んだことがあるが、長編は初めて。バラバラで複雑に入り組んだ群像が見事に収束していくんだろうな、と思っていたら、爽快なカタルシスとまではいかず、何とかつなげました、という感じの印象を受けた。これは2読3読してこそ、パズル的な思考を楽しめるようになるのかも。誰が狂っていて、何が本当にあったことなのか、わけがわからなくなるあたり、読者を翻弄するという意味では成功しているのでは。美しい風景描写と叙情的な男女の心情が描けているのは変わらず素晴らしい。作者の凄みは感じるが、賛否や好みは分かれるかも。 -
自分が自分ではない、あるいは身近な人物が他人にすり替わっている、という考えに憑りつかれた4人がとある精神病院に集合し、程なくして失踪と殺人事件が起きるという、ひとつ間違えばバカミスと呼ばれかねない突飛な設定で、どこに連れて行かれるか分からない展開に読み始めは不安を覚えたのですが、読み終えてみたら全て納得しました。なるほど、伊坂さんが本作を好きというのはすごくよく分かります。
リアリティ云々で言ってしまうと正直無理があるとは思いますし、真犯人が誰かという点もミステリーを読み慣れている読者であれば恐らく薄々予想はつくので、そのあたりの驚きはそれほどでもないです。また本作で描かれている個人のアイデンティティをめぐるあれやこれやに関しても、精神に異常をきたしているという前提があるので個人的にはそこまで響きませんでした。
では本作の魅力はどこにあるかというと、雰囲気は似ているものの全く異なった方向を向いた複数の怪奇話を、最終的に全て論理的に纏め上げて解決に導いた点に尽きるでしょう。このアクロバティックな手腕は率直に見事だと思いました。初版が40年以上前なので当時これがどう評価されたのかはよく分からないのですが、文体の古さを気にしなければ現代でも十分楽しめます。ようやく連城さんの魅力の一端が垣間見える作品に出会うことができました。 -
1979年の作品ですが、文章は読みやすいです。
ただし、精神病患者の描写があり、現実と妄想が入り組み、また、トリックも複雑なので、ちょっと難しかったです。 -
この小説が何十年も前の作品だということがまずおもしろさの第一点だと思う。
精神患者たちの不可思議な物語を読み進めて行くと、あれこれ松本清張?京極さんだったっけ?思うような、物語が混戦を極めるのだが、終着点は見事に一点にまとまる。そのまとまり方がまた、松本清張とも、京極さんとも違う。連城さんならではの着地点。
これから『ラッシュライフ』が生まれたというのは、ちょっとわからないが、人生が交差する点では同じく、改めて読み直したくなった。 -
解説で有栖川有栖氏が書かれているように「爽快なカタルシスではない」というところが連城三紀彦作品の特徴で魅力なのかも
萎びた朝顔を「老人の小指のように」と形容するなど、多彩な比喩表現が素晴らしい -
最後に話がまとまったような、まとまらなかったような、スッキリしない結末だった。短編であれば、スッキリしない結末も余韻を残した終わり方ということで、それはそれでよい。しかし、それなりの長編だと、もう少し物語のカタルシスが欲しい。