十津川警部 スーパー北斗殺人事件 (双葉文庫)

著者 :
  • 双葉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784575524659

作品紹介・あらすじ

特急スーパー北斗で札幌に通学する関口透は、車内で出会った鎌谷理佐子に興味をいだく。その後、理佐子は行方不明になり、上京した関口は、浅草の祭りで理佐子にそっくりの料亭〈まつだいら〉の娘、松平かえでにめぐりあった。しかし、松平かえでは毒殺され、十津川警部が捜査に乗り出す。十津川は、事件の背景にある松平家にまつわる黒い野望に気がつくが……。

感想・レビュー・書評

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  • 謎の投書を捜査に組み入れたい気持ちはあったものの、上層部などの関係者は早期解決のため、投書を無視しようとするのは、きちんとした解決にはやめた方がいいかもしれません。

  • トラベルミステリーではなく歴史ものだと感じた。

  •  2019年作。
     先日西村京太郎さんが亡くなり、そういえば昭和の頃から大量のミステリーを書き続けてきたこの作家の本は読んだことなかったかもしれない、と何か読んでみようと思ったが作品が膨大すぎて何を読んだらいいか分からない。有名な十津川警部シリーズの中から、北海道ゆかりの「スーパー北斗」をタイトルとした本書を手に取った。
     冒頭の部分(A)は関口という大学生の視点を追ったストーリーで、その後の大半の部分(B)は事件が起こり、十津川警部の視点で物語が進む。この構成は松本清張も多用したが、ミステリの常套でもあるのだろう。
    (A)部分で早速、北海道新幹線はやぶさに次いで、北海道の函館から札幌を結ぶスーパー北斗が詳しく紹介される。道民にはすこぶるおなじみの特急だ。太平洋側を苫小牧まで走った後北上するこの鉄道の沿線の街々は、どれも私にはなじみ深い土地である。
     主人公の学生関口は洞爺湖町に住み、毎日スーパー北斗に乗って札幌市内の大学に通っているという。それは莫大な費用がかかるだろう。洞爺湖畔のホテルならぬ「旅館」を両親は経営しているそうだが、さほど流行っているわけでもないらしいのに、そんな通学費用を、学費の他に用意できるものだろうか。
     更に、この大学生はちょっとした思いつきで頻繁に東京に鉄路で渡り、おまけにホテルにもよく泊まるのだが、どれだけ金持ちなのだろう。新幹線部分で4時間、洞爺湖から函館もたぶん2時間くらいはかかるだろうから、片道合計6時間。「思いつき」でフラフラと出かけるような路程ではない。どうもこの辺がリアリティを欠いている、と感じた。
     が、(A)部分を読み始めてすぐ、ああこの文章は読みやすいな、とも感じた。決して完璧な文章というのでもなく、東野圭吾さんの文体の方が上だと思うが、そこそこよく流れる。ただし、たまに変な文がないでもない。
     第3章(B)部分に入ると、突如文体が変わる。それまでは「段落」構成があったのに、いきなり「ほとんど全改行」になるのだ。それだけスピーディーに話が進む。忙しいサラリーマンがちょこっとだけ読むのにはこういう文章を呈さなければならないのか。
     このスピーディーな文章ストリームは、実のところ、「情報」ストリームである。インターネット時代の、わけもなく焦燥に駆られ次々と膨大な「情報」の断片を囓っていくライフスタイルにふさわしい、「むやみな」ストリームなのだ。
     若い人がマンガを読むのを見ていると、もの凄いスピードで、描き手側が大変な労力と時間を費やしていく一コマ一コマは、ごく瞬間的に駆け抜けていく。徹夜して描き上げた1話はたぶん1,2分で読まれ、捨てられていく。この情報摂取速度は凄まじく、一つの絵・一つの台詞をじっくりと噛みしめるような「意味」のコンテクストは最初から捨象され、ただ漠然とした刹那の印象として吸収されてしまうだけなのだ。この激しい情報ストリーム戦争を生きる現代人には、文章なんて噛みしめるほどのものではないだろう。
     本作も、登場人物の風貌なんてほとんど描写されないし、おおよその年齢すら示されずに終わるのが大半である。いちいち当の「人間」の生きた質感を把握し探索する時間はなく、すべては記号の網の節々でしかあり得ないのだ。
     このような「スピード」に乗せられて本書は一気に読んだが、たぶん、後には何の記憶も残らないのではあるまいか。
     それに、「トラベルミステリー」という標語のイメージで読み始めたのにこれはほとんど裏切られた。北海道在住の人物が複数出てくるものの、第1の殺人事件や多くの登場人物は東京だし、鉄道についてずいぶん詳しく書かれているにもかかわらず、「スーパー北斗」ではやっと第2の殺人が車内で起こる程度だ。北海道ならではの舞台設定が活用されてもいない。東京と、「どこか別の県」が舞台になっていればいいというレベルで、全然北海道にする必然性はない。
     北海道とか鉄道とかいう主題よりも、途中から「あれれ?」と思うくらいに、「歴史もの」と呼ぶべき展開になる。幕末の内戦の話が後半のメインになって、もはやトラベルもクソもない。おまけに、せめて『点と線』のようにトリックに時刻表とかが使われるのかと思っていたら、全く出てこなかったのである。
     うーん、まあ、「スピーディーさ」を体感は出来たけれども、こんなものなのかな、と思った。西村京太郎さんの十津川警部もの、もっと優れた作品もあるのだろうか。

  • 2021/06/19 74読了

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著者プロフィール

一九三〇(昭和五)年、東京生れ。鉄道ミステリ、トラベルミステリの立役者で、二〇二二年に亡くなるまで六〇〇冊以上の書籍が刊行されている。オール讀物推理小説新人賞、江戸川乱歩賞、日本推理作家協会賞など、数多くの賞を受賞。

「2022年 『十津川警部と七枚の切符』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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