殺し屋 最後の仕事 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

  • 二見書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (461ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784576111216

感想・レビュー・書評

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  • 殺し屋ケラーシリーズ四作目。
    ケラーシリーズが一旦終止符を打つ本作。
    (実は三年後の2014年にもう一作出るのだが...)

    あらすじを追うと、今まで通り殺しの依頼を引き受けるが、実はその依頼はケラーにオハイオ州知事殺害の濡れ衣を着せるための罠であり、全国指名手配となってしまう。

    ここまで聞くと伊坂幸太郎ファンならわかるかもだが正しく、「ゴールデンスランバー」なのである。

    文句のつけようのない作品であり、ぜひ、殺しのパレードと共に読んでほしい。(欲を言えばケラーシリーズ全部読んでほしいが…)

    本作の最後の解説はなんと伊坂幸太郎さんであり、殺し屋ケラーシリーズの良さを表現してくれている。

    「『ストーリー』とは、読者を先へ先へ導くエンジンのようなものでもあるから、そういう意味では、ケラーシリーズはエンジンを積まないグライダーとも言えるかもしれない。(と譬えておきながら、僕はグライダーに乗ったことはないのだけれど。)上空からゆっくりと風を感じながら、旋回をし(はたして、グライダーは旋回をするものなのかどうかも僕は知らない。)、少しずつ降りてくる(これはたぶん、そうだろう。)。エンジンがないものだからいつ到着するのかもはっきりしない。ではつまらないだろうか?とんでもない!そのグライダーから眺める景色は、本当に素晴らしく、目的地につくことよりも(あらすじを堪能することよりも)、その飛行を堪能することが幸せで仕方がないのだ。そもそも、早く目的地に着くために、グライダーに乗る人なんているのだろうか。」

    本当に素敵な小説とローレンス・ブロックという作家に出会えたことに感謝しなければ。と思える作品です。

  • シリーズ集大成となる本格的な長編。依頼人の罠にはめられ、州知事射殺犯の濡れ衣を着せられたケラーが逃亡生活を余儀なくされるという本来ならエンタメサスペンスに成り得る筋書きだが、当然そうはいかない。味付け程度の緊迫感はあれど、内容自体はどちらかと言うとロードノベルの趣がある。終盤でケラーは因縁の黒幕と対峙するが、こんなシュールな最終対決ありなの?淡々とした作風がこのシリーズの特徴ではあるものの、今回ばかりは流石に間延び感が否めなかった。次作を以て完結らしいが、家庭を持ったケラーがどう仕事に臨むのか見ものです。

  •  前作あたりからもう引退するという話が出ていたケラーもようやく最後の事件に行きついた。これで無事に切手蒐集三昧の余生を楽しめる予定だったのだが、そう簡単には問屋が卸さない、というのは本書の厚みをみればわかる。最後の暗殺行に出かけて行って、まだ仕事をすまさないうちにまんまと罠にはまり、全国指名手配で追われる破目に。前半はその緊張感あふれる逃避行だ。頼りのドットも失い、読んでいてこれどうなるのと心配になるほどだ。後半は、一転思わぬ幸運から持ち直しての報復劇となり、最後はめでたしめでたしなのだが、連作でこれほど起伏に富んだストーリーは珍しい。特に後半は話ができすぎで、やることなすことそんなにうまくいくもんかと思ってしまうが、まあ前半の借りを返してもらったということなんだろう。終わってみればケラーとドットの会話ばかりが後に残る。ストーリーはおまけであって、結局この連作はこれでもっているといっても過言ではない。

  • 再読
    このシリーズは連作短編集の方が合ってる

  • ケラーシリーズでは珍しい、初っぱなから飛ばした展開。そしてそこから始まる緊張感溢れる逃亡シーン。ケラーの日常を知っていたがゆえに、それを壊され余裕を失っていくケラーを見るのが辛かった。そして、その果ての安住。ドットとの再会は本当に熱かった。そして全体的にゆったりとした構成。逃亡者みたいに、逃げ回りつつも犯人を追い詰めていく展開かな、と思ったら、意外とそうでもなくただ生き延びるのに精一杯で、安住してからはこんな生活もいいかな、なんて思ってしまう。それがケラーの魅力なのだろう。

  •  日頃どうも恵まれないとつくづく思い残念に思うのが、海外ミステリの書店ブースにおける取り扱いのあり方である。その中でも二見文庫の扱いなどはひどいものだ。扱っていればまだいい方と言えよう。

     いや、もちろんこの作品の存在を季節外れにぼくが発見しなければならなかったことの非をもちろん書店にぶつけようというものではない。冒険小説フォーラムをNifty Serve(パソコン通信)に開設していた頃は、二見書房含め、多くの新刊情報を取り寄せてメンバーの皆様に紹介していたものだが、インターネットの時代が到来してからはそうした情報発信はあまり意味を持たなくなり、ぼく自身情報s取り寄せるのをやめてしまっている現状では、二見書房から、大好きなローレンス・ブロックの新作が出たときにそこに対してアンテナを立てていない自分が悪いのは重々承知。

     アマゾンでの書籍購入を自分に封印して書店で必ず本を手に取り買うというアナログ手法を敢えて選択して以来、たまにこうした情報漏れが起こる。今頃になってこの大好きな殺し屋ケラーシリーズの作品を手に取ることになったのも自分の捜索意欲のなさといったところに起因するわけだ。

     そして書店で今回見つけたのが殺し屋シリーズのさらに新作『殺し屋ケラーの帰郷』。それなりにショックだった。本作『殺し屋最後の仕事』でケラーのシリーズはこれが最後と思っていた。なので上記のような理由があれ、手に入ったらすぐに読んだわけではなかったのだ。じっくりそのうちと考えていたのだが、次の一冊が出てしまったではないか。『殺し屋 最後の仕事』は『殺し屋』の最後の本ではなかったわけだ。

     そんな風に自分でシリーズ読書の興趣を損なうようなことばかり繰り返していながら、書店を批判することが誰にできる? 

     ……と、殺し屋シリーズのユーモラスな文体を真似てみたりするのも、実はこの一冊がなかなかに鋭い、カルト級の一冊だったからだ。切手の収集を趣味としつつ本職殺し屋というケラーが、何というか凄いピンチに陥る一冊。正体のわからない依頼人の仕掛けた罠にはまり、ケラーは州知事暗殺犯に仕立て上げられ、全米のメディアに顔写真を流され、その瞬間相棒ドットとも連絡が不能となり完全無欠の孤立状態となるのである。

     なんてストーリー性のあるドラマチックな展開なんだろう、しかもそれが殺し屋シリーズで実現されるなんて全然思わなかった。その意外と、しかしやっぱりゴルフ場のシーンのブラックさなどは、唯一無比の本シリーズらしさで絶妙なシーンとして記憶されそう。やっぱり巨匠ブロックの名は伊達ではない。絶望の底から一転して攻勢に転じる展開と言い、プロフェッショナルな殺し屋の内部の二転三転が変わりなく語られるところに喜びを感じてしまう。

     殺し屋ケラーの、いろいろな部分が語られる一冊であるが、これまでのこのシリーズはケラーが最初からプロのヒットマンとして描かれるところから始まったのだった。彼は突然降って湧いたようにわれわれ読者の目の前に出現したのだった。その過去や少年時代などまるでなかったかの如く、平凡な職業人のようにしか見えない殺し屋として。でも彼は当然、空気の中に一瞬で湧いたわけではない。彼のストーリーの中には過去も未来もあるのだ、ということを改めて驚きとともに思い出させてくれる点で、この一冊はとても愉快で興味深いものだった。

     その気持ちは、もちろんこのシリーズを順番に読んできた人にしか味わえない意外性であり、起伏であると思うので、どうか連作短編集で始まる一冊目『殺し屋』から順番にお読みくださるよう、オススメいたします。

  • 殺し屋ケラー最終巻"HIT AND RUN"。
    ケラーの切手収集から始まるシーンでいつも通りねーと読者に思わせた途端、
    シリーズ最大の罠にはめられてしまったことで展開は急転する。
    初っ端で飛ばす展開はブロック作品の中では珍しい。

    逃亡の果てでちょっとだれ気味と感じたが、
    そこからのドットとの再会がまた熱かった。
    これもシリーズ通してケラーとドットとの関係に
    愛着が湧いているからなのだろうと思う。

  • 他愛のない会話とストーリーだが、この作家が書くと恐ろしく味わい深い小品になる。チャンドラーとブコウスキーの中間点に立っているみたいだ。

  • 殺し屋の話だから、少し心に違和感を感じる。しかも殺しを中心にした話ではない。殺し屋ケラーはアルと名乗る男からの依頼でアイオア州デイモンにいる。ところが、テレビニュースでオハイオ州知事殺人の手配者としてケラーの写真が映った。罠にはめられた。警察と罠をかけたアルからの危険を感じ、細心に注意しながら逃げ惑う。アイオア州をようやく脱出しニューヨークの自宅に向かうが、自宅も危険。その逃げてゆく雰囲気が緊迫している。会話、状況描写もよくて、道徳的ではないが物語として面白い。

  • 最後までケラーに共感する事はなかったけど、シリーズ読んだ甲斐はあったかな。

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著者プロフィール

ローレンス・ブロック Lawrence Block
1938年、ニューヨーク州生まれ。20代初めの頃から小説を発表し、100冊を超える書籍を出版している。
『過去からの弔鐘』より始まったマット・スカダー・シリーズでは、第9作『倒錯の舞踏』がMWA(アメリカ探偵作家クラブ)最優秀長篇賞、
第11作『死者との誓い』がPWA(アメリカ私立探偵作家クラブ)最優秀長篇賞を受賞した(邦訳はいずれも二見文庫)。
1994年には、MWAグランド・マスター賞を授与され、名実ともにミステリ界の巨匠としていまも精力的に活動している。

「2020年 『石を放つとき』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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