ジャックとまめのき (キンダーおはなしえほん傑作選)

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  • フレーベル館
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  • Amazon.co.jp ・本 (32ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784577002223

感想・レビュー・書評

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  • この前読んだ、「絵本のつくりかた 1」で知った、「武井武雄」さんが絵を描かれた本書は、「キンダーおはなしえほん傑作選」の改定版であり、オリジナルではありませんが、いつもの図書館にあったので借りてきました。

    早速、扉絵を見てみると、手のひらに載った色取り取りの豆を中心とした構図に、その回りは、これまた色取り取りの石畳風のデザインとなっており、芸術性の高さも然る事ながら、お洒落な雰囲気もあって、惹き付けられます。

    ところが、物語が始まると、一転してその絵柄は、何かデフォルメしたような、ザックリとした感じへと変わり、内容は、おとうさんが亡くなり、ジャックとおかあさんの二人きりで貧乏な生活を送る悲しさが漂うはずなのに、二人と雌牛の間で交わす、お互いの表情には笑顔すら浮かんでいる、のどかさに加えて(この後、雌牛を市場に売りに出すというのに)、二人の住むお家は、見るからにオンボロを絵に描いたような、笑っちゃいけないのだろうが、思わず笑ってしまいそうな佇まいで、更に、外にある花たちには、それぞれ違った表情があって、これまた楽しい雰囲気です。

    これらを見て思ったのは、まずは感受性豊かな子どもたちに対して、シリアスな雰囲気というよりは、明るい雰囲気を絵全体に醸し出した方が、物語の世界にすんなりと入れるのではといった、武井さんの配慮があるのではないかということで、確かに、どこかユーモラスな感じは、子どもたちの視線を釘付けにするような愛嬌さがいっぱいです。

    そして、次のページでは、雌牛を連れたジャックと肉屋の出会いが描かれておりますが、ここでは肉屋の外国人風を(ここではイングランド風か)、思いきり強調したかのような、インパクト抜群の表情が印象的で、よく見ると、雌牛の顔も豚がブレンドしたような感じになっていたりと、豆を見せる場面よりも、私はそれらに注目がいってしまいますが、果たして子どもたちは、どこに注目がいくのか楽しみです。
    読み聞かせなら、やはり豆に目がいくのかな。
    しかし、武井さんの絵柄は、何かレトロな面白さだけではない、独特な味があって、雌牛の尻尾に向かっていくトンボも、「この場面で何故?」みたいな面白さがありますし、これらは子どもたちへのサービス精神の表れかもと思いました。

    更に、その次のページでは、ジャックが雌牛と豆を交換して帰ってきたことに、おかあさんは怒り、豆を投げ捨ててしまうのですが、ポーズとしては蹴っ飛ばしているようにしか見えないのが、また面白く、それらの放物線を目で追っている花の表情も楽しく感じられますが、本来なら絶望の一歩手前の心境ですよね。

    でも、そう感じさせない雰囲気には、さあ、この先から、いよいよジャックの反撃開始となりますよと、御膳立てもバッチリといったところで、子供たちのテンションも上がることでしょう。

    そして、あの有名な、庭に落ちた豆から芽が出て、空高く伸びているシーンが訪れて、ジャックは止めるおかあさんを振りきって、昇っていきました。

    辿り着いたのは天の国で、そこで出会った女神が、この先にあなたのお父さんを殺して三つの宝を盗った大男が住んでいるから、勇気を出して行ってごらんとアドバイスしてくれて、ジャックが行ってみると、大男は留守で、そこにいたおばさんに協力してもらい、隠れさせてもらいながら、帰ってきた大男の寝た隙をついて、宝を一つずつ取り返していくというお話で、この辺の展開には、「かしこいモリー」を思い出すような、スリリングさもあり、特に最後の宝を持って逃げるジャックと、それを必死な形相で追いかける大男の場面は、周りの夜空の美しさと相俟って、迫力満点でした。

    また、武井さんの子どもの目線に立った絵柄とは対照的に、装飾品の美しさがまた印象的で、大男の部屋にある、アンティークなシーリングライト(しかもライトが上向きなお洒落さ)に、裏表紙にもある竪琴は、それぞれ隅から隅まで丁寧なタッチで、きめ細かく描かれており、そこには子どもの絵本だからこそ自分の全力を尽くす、武井さんの精神の表れが、そう感じさせるようで、私には胸を打つものがありました。

    というわけで、私はとても楽しめたのですが、後は、今の時代感覚に、この絵柄が合っているかどうかでして、こればかりは、子どもたちそれぞれに、実際に読み聞かせしての反応次第ということになると思います。

    最後に、見返しに描かれた武井さんのアーティスティックな絵柄は、「本の芸術」と呼ばれる刊本作品に似たものを感じて、「あっ、これだ!」と嬉しくなり、二人の立つ家(左下)から道が繫がっていて、その辿り着いた先(右上)には、鮮やかに咲き誇った美しい花があり、一本だけある木も、太陽も(それとも満月?)、右下にいるトンボも、それぞれに存在感がしっかりとあって、これは、この作品だけの絵なのか、それともシリーズ全てに共通するものなのか、それが無性に気になってしまいました。

  • 平成24年6月29日 2年生

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