新訳 東洋の理想: 岡倉天心の美術思想

  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (477ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582288162

作品紹介・あらすじ

1903年英国で刊行された岡倉天心『東洋の理想』。近代美術研究の第一人者である著者が、40年ぶりの新訳とともに、岡倉が示した世界における日本美術の歴史的位置を読み解く。

 岡倉天心の英文著作“THE IDEALS OF THE EAST WITH SPECIAL REFERENCE TO THE ART OF JAPAN”は1904年にロンドンで刊行された。「アジアはひとつである」という冒頭語によって、日本でも広く知られた著作である。翻訳は戦後のものに限れば富原芳彰訳(筑摩書房)、夏野広・森才子訳(中央公論社)、佐伯彰一訳(平凡社)などがあるが、1980年の佐伯訳以来、新訳がない。

 本企画の趣旨は、いま岡倉の『東洋の理想』から学ぶべきものを指摘することにある。そのためには、原文を著者自身の言葉(新訳)に置く必要があるという。『東洋の理想』から学ぶべきものとは、世界の中で日本美術(史)はどのような位置を持つのか、岡倉の時代、すなわち近代化の時代が抱えた矛盾と展開、グローバル時代の日本美術の行く末など、多岐に及ぶ。

 岡倉の原文を丁寧に読み進め、さらに現代的解釈を付け加えることによって、いま芸術・美術が直面する問題を解くヒントを求めることを狙いとする。そのことは、それらに対峙する私たち自身が抱える問題をも、浮かび上がらせることになるだろう。

感想・レビュー・書評

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  • 本書を読み始めたきっかけは、尾崎秀実について取り上げた竹内好編著『現代思想体系 9 アジア主義』(筑摩書房、1963)の中で、最初に取り上げられていた論文だったから(訳者は富原芳彰。現在、講談社学術文庫で読むことができる)。
    新訳が出たばかりならそちらをと手に取ったのだが、正解だった。原著は註も少なく、絵画や彫刻などの美術作品を論じてはいても、図版は皆無。
    抽象度の高い美術論や哲学的考察が頻出するので、理解するのが容易ではない。
    詳細な解説と訳註に加え、適宜図版を挿入してくれているので、大変読みやすく仕上がっている。
    ただ、終章「『東洋の理想』はどう読まれてきたか」での竹内好についての記述は納得できない。

    竹内好が「天心はあつかいにくい思想家であり、また、ある意味で危険な思想家でもある」と始める論文「岡倉天心―アジア観に立つ文明批判」(竹内1962)を端緒として、むしろ『東洋の理想』そのものを読み直すことを忌避し、岡倉の思想を総じて危険なものと留保しておくことで先送りしようとする傾向が高まった感がある。
    (p.445)

    これは竹内だけを論じているわけではないにしても、竹内評としては間違っていると思う。

    先の『アジア主義』では天心をこう評している。

    この「アジアは一つ」という命題は、のちに日本ファシズムによって『大東合邦論』におとらず悪用された。天心が「アジアは一つ」と言ったのは、汚辱にみちたアジアが本性に立ちもどる姿をロマンチックに「理想」として述べたわけだから、これを帝国主義の賛美と解するのは、全く原意を逆立ちさせている。帝国主義は、天心によれば、西欧的なものであって、美の破壊者として、排斥すべきものなのだ。
    (p.43)

    本書を読み終えた後でも、竹内の天心についての論考は時代的にも先駆的なものだったと断言できる。おそらく天心も含め、竹内好自体も読まれなくなっているというのが実相だろう。

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