列仙伝・神仙伝 (平凡社ライブラリー)

  • 平凡社
3.52
  • (5)
  • (5)
  • (19)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 137
感想 : 6
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (462ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582760194

作品紹介・あらすじ

時間を超えて永遠の若さと生命を保ちつつ無限の自由を求める仙人は、人類の根源的夢想の体現者である。彼らのまことに自由でユニークな姿を活写する、中国仙人伝の双璧。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • スリリングな短編『唐代伝奇』や東アジアの歴史・文化の礎ともなっている道教の本をながめてみると、古代中国の神仙思想ははずせない気がしてくる。
    神仙は修行して神通力を得た不思議な人々で、一見するとファンタジーや幻想譚のように思われるけれど、そう簡単に割り切れるものでもなさそうだ。永遠の命を尊ぶ神仙思想は、紀元前3世紀の周の時代ころに広まり、後の秦・漢時代には老子の道家思想と結びついてさらに広がる。

    本書の『列仙伝』は劉向(りゅうきょうB.C79~8年前漢)の作で、70人余の不思議な仙人たちを数行で紹介している。まるで実用書のテキストのようで、淡白すぎて面食らった。
    それに比べると『神仙伝』(葛洪 かつこう・283~343東晋)はだいぶ伝奇風(短編小説)になっていて笑えて楽しい。とはいえ人物伝なので、まったくの虚構というわけでもなく活きいきとしたものになっている。

    ちなみに哲学者の老子はこんな感じで紹介されている。
    「老子」は、名は重耳(じゅうじ)、字は伯陽(はくよう)、母が大流星に感じて身ごもり、李氏の家に出現。母の左脇を割って出た。生まれながらの白髪なので老子と。神霊のなかまであろう……とつづく。

    およ~まるでギリシャ神話のアテネや聖書のイエスのようではないか。老子の道家思想は漢の時代あたりから流行したようだが、いつしか仙人とされ、伝説上の始祖「黄帝」と並んで黄老と称され、仙人の始祖として祀り上げられているのはちょっぴり笑えた。

    また「左慈(さじ)」という男の伝奇では、彼は星占(星気)に通じ、五経に明るい人物だったらしい。魏の曹公(曹操)は彼を呼び出してさんざん試してみるも、してやられてばかりの痛快譚。わずかな酒と乾肉から1万人分の食べ物を湧かせ、食べても食べても尽きないというから、これはまるで聴衆や祝宴で魚やらパンやワインを湧かせた、あのミラクルな御人のようでおもしろい。

    神仙思想の最大のパトロンといえば、秦の始皇帝や漢の武帝で、『史記』にも仙薬をえるために大奮闘した彼らの様子が紹介されている。不老長寿・永遠の命を求める姿は微笑ましいやら涙ぐましいやらで、洋の東西問わず今も昔も人間くさくて愛おしくなってくる。
    仙薬を服用し、永年の修行を経ると、肉身は錬磨されて変幻自在となるらしい。隠形の術を体得して「坐在立亡」(座すれば見え、立てば姿は消える)の境地になり、さまざまな奇跡を見せるそう。

    葛洪によれば、神仙になるためには鉱物性の仙薬「金丹」の服用が必要で、植物性の仙薬では不老長寿にはなれても不死にはならない。なるほど、では肝心の「金丹」のレシピは? それを得るのが大問題。まずもってすぐれた師匠を見つけ、長年の修行をおこない、さまざまな通過儀礼を経なければならないからだ。金丹とはいわゆる錬金術のことで、古い西洋世界にも盛んにおこなわれていたことを思うと、その類似性に興味はつきない。

    神仙思想を健康幻想だと言ってしまえばそれまでだけれど、肉体をかぎりなく純化して自らを高めることで、人体の内部の神々と自己を一体化させることができ、ひいては永遠の命・不老長寿を得られる……という人々の尽きない羨望や憧れをひしひし感じる。

    自然の生命力を得ること、だれもが命を慈しむこと、こうした根本思想にさまざまな教義や思想が形成されたり取り込まれたりして、東洋医学、鍼灸、漢方、本草学、風水、陰陽、気功などなどの叡智や文化が2000年以上も脈々と伝わっていると想うとため息がでる。

    『神仙伝』は短編小説として読むのも楽しい。のちの『唐代伝奇』にも、また奈良・平安時代からはじまり、『杜子春』芥川龍之介や中島敦の作品にも影響を与えているから興味はつきない。

    古今東西の世界は意外に身近なところに繋がっていて、けっして疎遠なものではない。本はやっぱりいいな~青い鳥は近所の図書館あたりをふつ―に飛んでいるのかもしれない(2023/12.17)。

    • 地球っこさん
      アテナイエさん、おはようございます!

      道教の本、読んでくださったのですね。ありがとうございます。
      そうそう老子って仙人になっているのを何か...
      アテナイエさん、おはようございます!

      道教の本、読んでくださったのですね。ありがとうございます。
      そうそう老子って仙人になっているのを何かの本で知って、私もびっくりしました。
      たしかにこの辺りの本を読む(ぱらぱらと眺める)と、古代ギリシャなどの話を引用しながら解説されているものが目に付くときがあって、やっぱり共通点があるのですよね。そして私は古代ギリシャなどが出てくるとアテナイエさんを思い出します(⁠•⁠‿⁠•⁠)
      私は今、『中国の神話伝説』上巻(著:袁珂)をちょっとずつ読んでます。これ、けっこう面白いです。盤古から秦の始皇帝までの道教や仏教によって改竄された神話を、本来の姿に戻して描かれてるんです。
      もしかしたらアテナイエさんも気に入ってくださるかもしれません。
      2023/12/18
    • アテナイエさん
      kuma0504さん、こんにちは♪

      コメントいただきありがとうございます。
      わたしは「十二国記」作品を拝見したことがないので残念です...
      kuma0504さん、こんにちは♪

      コメントいただきありがとうございます。
      わたしは「十二国記」作品を拝見したことがないので残念ですが、天帝や西王母は、中国神話の古代の神々ですよね。聖なる崑崙山に住むという。その後、いつのまにか仙女になっていたりして、少々混乱しております(笑)。この本には詳しくはなかったと思いますが、図書館に返却してしまったので残念ながら確認がとれません。

      >日本の古代を考える上でも目を通しておくべきものだと思います。

      はい、わたしもそう思います。kuma0504さんはとりわけ古代日本に詳しいので、きっと楽しめると思います。
      道教の本には西王母と桃のいつわがあって、桃は聖なる果物となっているらしく、おお~これは『古事記』で黄泉の国からほうほうのていで逃げるイザナギがイザナミに投げつけた桃ではないかと思い出して感動しました。なんで桃なのよ?とそのときは思ったものでしたが、なんだか繋がったようで嬉しくなりました(笑)。

      ちょうど、あらためて道教が広まる以前の、中国神話をながめてみる必要があると思っていたところで~す。

      2023/12/18
    • アテナイエさん
      地球っこさん、こんにちは!

      そうなんですよ、先日の地球っこさんの『道教の世界』レビューをながめて、図書館でよりよせて楽しみました。巾広...
      地球っこさん、こんにちは!

      そうなんですよ、先日の地球っこさんの『道教の世界』レビューをながめて、図書館でよりよせて楽しみました。巾広く勉強になりました。つくづく日本に大きな影響を与えていることもわかりますね。これからも少しずつ積み増ししていくとパズルピースが繋がりそうで楽しみです。

      いやいや、たしかに古代ギリシャの雰囲気や作品が好きですが、とくに詳しく勉強したわけでもなくて中途半端です。でもなにやら古代の教えは道家的思想(のち仏教とも融合)と似通っていて不思議なのですね。いまのように瞬時にネットで世界中と繋がるわけでもないのに……。

      >私は今、『中国の神話伝説』上巻(著:袁珂)をちょっとずつ読んでます。これ、けっこう面白いです。盤古から秦の始皇帝までの道教や仏教によって改竄された神話を、本来の姿に戻して描かれてるんです。

      これはすごい! 以心伝心といった感じです。ちょうど中国神話をながめてみたいと思っていたところでした。ありがとうございます!
      2023/12/18
  • (後で書きます)

  • B1F
    080、37、F96t
    0096020557

  • ●未読
    2009年7月11日(土)〜9月6日(日)
    特別展 知られざるタオの世界
    「道教の美術 TAOISM ART」
    −道教の神々と星の信仰−
    http://www.mitsui-museum.jp/exhibition_01.html
    で紹介

  • 村中の竃を使えなくしたりする仙人とか、
    壁に大穴あけてゾロゾロ入ってくる仙人の仲間たちとか。

  • 笑えます。

全6件中 1 - 6件を表示

著者プロフィール

字は子政。前79年に生まれ、前8年に卒した。前漢時代の大儒。学問の幅広さ、博識の点で中国史の中でもトップクラスの碩学。

「2019年 『説苑』 で使われていた紹介文から引用しています。」

劉向の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×