- Amazon.co.jp ・本 (427ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582768657
感想・レビュー・書評
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戯曲2本立て。まずは「額の星」
博識で裕福で骨董品集めが趣味の紳士トレゼルは、両親を失くしたので養女になった姪のジュヌヴィエーヴ、その婚約者のクロード、そして10年前にインドの領地(農園)に視察に行った際にシヴァ神の生贄にされようとしていたところを助けて引き取ったインド人の双子の姉妹らと毎日愉快に過ごしている。しかしインドの姉妹はシヴァ神への生贄を求める一派から今も付け狙われており、インド人とフランス人のハーフであるメイドの幼馴染がその追手として現れる・・・。
当然、双子をめぐるスリリングな展開が待ち受けているかと思いきや・・・そこはどうでもええんかーい!!関西人ならずとも「なんでやねん」と突っ込みたくなるこの無駄設定、うんでもそうですよね、だってこれレーモン・ルーセルですもんね。結局大事なのは登場人物たちの動向ではなく、それぞれが語る骨董品にまつわるさまざまなエピソード。素人にはどこからホントでどこから作者の創作かわからないけれど、とにかく虚実入り混じった豆知識的無駄エピソードが盛り沢山。ひとつひとつが面白いので退屈はしないけれど、これ舞台で見せられたらちょっとキツい気がする・・・。
解説によると案の定、上演当時観客からは大ブーイングだったらしい(でしょうね)そしてルーセルを擁護するシュルレアリストたちの一派と乱闘騒ぎまで起こったそうで。いやはや。
「無数の太陽」
南米ギアナで死んだ叔父の遺産を受け取りにやってきた退役大佐のブラッシュと娘のソランジュ。しかし叔父の遺産は邸宅他わずかで、妻子を病気で亡くしてから人間嫌いとなった彼は財産のすべてを宝石に代え、その隠し場所を暗号にして残していた。地元の高利貸しズメラナーズは、この宝石を狙ってブラッシュの邪魔をしようとするが、ブラッシュは元部下マルスナックと通訳レアール、占い師クレオッセムとブルクシール、さらにズメラナーズを恨んでいるガリオとそのしもべアンジェリクスらの協力を得て叔父が残した暗号解読に乗り出す。
こちらはベースが宝探しのようになっているので「額の星」より素直に楽しめました。ひとつ謎を解くと、次のヒントの場所(物)が示され、さらにそこで謎を解いてもまた次のヒントが・・・と数珠つなぎで謎を解いていくのがゲーム感覚で面白い。ただやはり毎度、そのヒントになる美術品や骨董品のひとつひとつに無駄エピソードがちりばめられてはいます。うん、まあその部分こそが作者の本領発揮なわけですし、勿論その入れ子の物語も面白いのですけどね。
最後は無事宝石をゲット、悪漢は逮捕され、娘の恋も成就の大団円。なんの破綻もなく幕を閉じるわけですが、解説によると「額の星」同様ブーイングする気まんまんだった観客は物語が「破綻していない」ことに「幻滅」し、その凡庸さを嘆いたという・・・。なんとも皮肉。叩かれるから大衆に妥協したのに、キテレツ期待してたら普通でガッカリとかまた叩かれちゃうルーセル。現代なら炎上作家間違いなし。気の毒だけど商業作家じゃなくてブルジョワの道楽みたいなところもあるので、できれば媚びずに破天荒貫いてほしかったですね。とはいえ私はこれ十分面白かったです。
巻末に翻訳者による「額の星/無数の太陽小事典」も収録。こちら戯曲内に出てきた人物やエピソードの数々の訳注的なものを事典にしてあって、これって史実なの?創作なの?とよくわからなかった部分を補足してくれていて助かる。詳細をみるコメント0件をすべて表示