ジェロ-ム神父 (ホラー・ドラコニア 少女小説集成 1)

  • 平凡社
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  • Amazon.co.jp ・本 (109ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582831733

感想・レビュー・書評

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  • ホラー・ドラコニアの第一弾。翻訳はもちろん澁澤龍彥。挿画は会田誠。同じシリーズの『菊燈台』の山口晃の挿画はたしか描き下ろしだったと思うのだけど、こちらは既存の絵を物語の間にうまく挟み込んである。ストーリーと全く関係ないにも関わらず、違和感ないのが凄いな。可愛い女の子が食材扱いされている「美味ちゃん」シリーズ、表紙絵にもなってる犬のシリーズなど、どの女の子も笑顔で「提供」されており、この容赦ない搾取加減がサドの哲学と通じるからだろう。

    抄訳なのでストーリーはより過激な部分の抽出と、登場人物が語る犯罪哲学の部分のみがクローズアップされている。内容も絵もフェミ団体が発狂しそうな内容だけど、つまり「自分がされたら嫌なことは他人にしてはいけません」という「道徳」が通用しないのがサドの登場人物たちだから、そこはもう諦めるしかない(※あくまで読書なので)共感するか否かではなくて本としての完成度の高さ(装丁が美しい)は素晴らしい。

  • 「ソドム百二十日」抄訳を読んでから約1年、またサドを読む機会がめぐってきました。今回も抄訳です。

    やっぱり胸くそ悪いことこの上なしの愚劣な性格の男が主人公。本作は彼の一人称でお話がすすむ。
    トリエントの森で偶然見つけた美少女を手始めに、イタリアを縦断しながら次々と犠牲者を増やし、シチリアに至って地主におさまる。それをあがなった金はもとはといえば犠牲者たちのもの。
    そこで彼はまさにソドムと化した教会と結びつき、更に犠牲者を増やしていくのであった。
    主人公は犠牲者たちの肉体を蹂躙し、精神を切り刻み、財産も掠め取る。
    そうしてこう言い切る。
    「他人を苦しめるよりも他人を幸福にする方が善いことだと、おれに証明しうる人間がいるのか?」


    表題作のほか「正常と異常」という澁澤のエッセイをセレクトして、あとがきがわりに据えてある。
    性的嗜好なんて人間の顔がすべて違うように、ひとつとして同じ物なんてないのである。であるからして、「異常」とはものを知らない無知な「常識人」的基準であり、宗教の原理的解釈による狭義な規範の押しつけなどでもあるだろう…
    とそのじつの解釈ではそのような論旨があった。
    この訴え自体は現代ではかなり浸透しているものといえるだろう。(エッセイの発表は1967年)

    こんにちでは、多様な嗜好が公の場で表明され、あるいは趣味的に、あるいは商業的に、社会に世界に広く頒布している。
    この流れを否定するつもりはないが、エロティシズム=芸術至上主義みたいなものには反射的に反発を覚える。
    特にこの澁澤の言葉。
    「おろかなフェミニズムの闘士はしばしば次のように断言してはばからない。すなわち『ポルノグラフィーは女を物として扱うから差別的であり非人間的である』と、これほど次元の低い、これほど見当ちがいな意見もないだろう。みずからすすんで客体になることが、どれほどの自由を消尽せしめる行為であるかは、多少なりともエロティックの機微を知ったものには自明の理だからだ。」植島啓司「分裂病者のダンスパーティー」に寄せた序文のことば

    ちゃうねん!客体とか主体とか区別してへんねん。ポルノグラフィーの中の女の痛みを自分と他人に分けられへんだけなんや。男の快楽を女の身体では受け止められへんだけなんや。澁澤はんの言葉が男にのみ向けられたんやったら、この文句はお門違いやけど・・・と女の身としては一言文句を言いたくなった。
    (修正。文句を言いたいのは、この澁澤の言葉を自分が編集した本の後記に持って来た、高丘卓へ。)

    そういう意味では、本書で澁澤×サドとコラボレーションした現代作家の会田誠の作品など激痛!と言いたいところだが、あにはからんやそうとばかりも言い切れないのだ。
    表紙絵など18禁を越えていろんな所で「自粛」に追い込まれそうな破壊力!(見て嫌な気分になった方は申し訳ない…って私が謝るのも変かな)
    この衝撃的な作品「犬」をweb上の不鮮明な画像で見ると不快感の方が勝っていたのだが、実際本を手に取って絵をよく見ると、不思議と不快が薄れて情欲の抑制された静かな気配が勝ってくる。
    この空間は閉じておらず、この残虐なありさまは、公共の空間に公開されている気がする。
    私の場合、この私物化されていない被虐者から、世界のどこかの同じ境遇の人々に意識がうつっていく。

    この「犬」の他「食用人造少女・美味ちゃん」という作品も挿画として採用されているが、どれも同じ印象をもった。
    こうしたシチュエーションの他の作品ではありがちな、性的興奮を喚起する押し付けがましさが一切ない。
    このような絵を描いているのだが、このような状況を積極的に肯定している印象は受けないのだ。
    ポルノグラフィーの多くは消費される目的で作られる。
    この絵は「消費されてもかまわない」という構えのようだが、目的はそうではないようだ。
    作者はどいういうつもりで描いたのか…強いて知りたいと思わないが、会田誠に対して微かな好感を持ってしまった。

    そして山下裕二が折り込みの解説で語っていた言葉がオーバーラップしてくるのだった。
    「ジャスト・フィットしているのではなくて、会田の絵は澁澤的世界と脈絡を結びながらも、その表現の位相が完全にずれていることに、私は興味を持つ。」


    追記:
    本書には二つ折りの読み物がはさまれており、美術史家・山下裕二が澁澤龍彦についていろいろ書いていて面白かった。というか吹き出しながら読んだ。
    「流行の波の上でサーフィンをやりながら、“造形”だの“空間”だのと口走っている当世風の画家諸君には、私は何の興味も関心もない。ネオンやアクリルは、商業資本の丁稚小僧にまかせておけばよろしい。高貴なる種族の関知するところではなかろう。」(金子國義の個展パンフレット冒頭に寄せた文章の一部)
    ここだけ読むと、まったく嫌な貴族だ。こんな老貴族(澁澤が生きていたら七五歳である)が、会田誠展のレセプションにやってきて、杖を突きながら蘊蓄を垂れるのかと思うと、ぞっとする。(2003年版)
    と山下は澁澤を戯画化してみせつつ、やはりどこかの美術評論家のように蘊蓄を垂れたりしないだろう、とその像を修正している。澁澤龍彦で遊ぶとは命知らずな…さすが山下裕二。

  • 絵:スゴ!幼艶
    文:名文(名訳?)

    ぜひ読むべし!
    (大きいサイズが迫力アリ)

  • 日本の犯罪も目じゃないくらい邪悪な世界が展開されている。

    バタイユレベルの倫理破壊。さすが、サドという感じ。

    本来不愉快だし、自分が当事者になったら、ということを想像すると吐き気を催すのは200%確実なのに、振り切っているからだろうか、支持したくなるのはなぜなのだろう。

  • この本の魅力は、小説としての官能美、描写の繊細さ・巧妙さでは全く無い、ということをまず明示しておきたい。
    会田誠(本書の表紙・挿絵の画家)の存在を知り、此の本を知るに至ったのだが、ふんだんに挿絵が使われて居るのは、画集としての価値もあると言えるだろう。 何より此の本の中で、会田誠の奇抜な倒錯的な絵を使う、というもの―謂わば本文に直接的な関連性が無いのだ。―は、それ故に歪曲された世界、究極のエロシティズムを感じさせる。
    何より此の本の魅力は、訳の澁澤龍彦の哲学だと言える。会話、思考、を哲学的に語る。既存の道徳を覆す、定説を見事なまでに一蹴する、―その聞けば尤もだと感服せずには居られない、人間の欲望を自然物として眺める、その視野の鋭さ、広大さ、が、定説に付加、理屈を並べたて、難解語や造語を使った哲学書なぞよりも、ずっと魅力あるものだと思う。
     ただ、やはり一冊の小説として、官能美を求めて居た為、その辺は残念に思った、のだが。

  • 後書きに代弁してもらった気分でした…正常と異常は紙一重。

  • 『ジェローム神父』本編は80ページ(それも、かなり抄訳してますね)くらいしかないのに、会田誠さんの絵をふんだんに使って、ここまで豪華にした本もなかなかないでしょう。正直、これで2000円は高すぎる気もしますが、私はその贅沢な感じがまさにサドの小説の気性にぴったりな気がして、かなり気に入っている一冊でもあります。『悪徳の栄え』もそうですが、サドの小説はめちゃめちゃ豪華な装丁の施された本にして、いかにも大義そうに重たいページをめくって読み耽りたいですよね。本書は少なからずもそんな私の願望を叶えてくれたので、値段には目をつぶることにするのです。

  • 伊勢BF.

  • 読了感はただただ吐き気をもよおすほどの憎悪のみです。普通の人は読まない方がいいと思いますが、SM好きなどたまらない人にはたまらない一冊だと思われます。

    九州大学
    ニックネーム:稲生平八郎

  • 2013年8月27日

    <SUITE DE L'HISTORIRE DE JE'ROME LA NOUVELLE JUSTINE OU LES MALHEURS DE LA VERTU4vol. 1794>
      
    ブックデザイン/鈴木成一デザイン室

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