東電原発事故 10年で明らかになったこと (966;966) (平凡社新書 966)

著者 :
  • 平凡社
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (231ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582859669

作品紹介・あらすじ

発生から10年、世界最悪レベルの原発事故は誰が引き起こし、どんな被害をもたらしたのか。検証や賠償の進展は。独自入手の事故調文書や裁判記録をもとに描く事故の深層と現状。

感想・レビュー・書評

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  • 話の内容の衝撃度が大きい。

    一体なんのためのエネルギー生産。一体なんのための予算。なぜ止められない!闇の莫大さを前に考えたくもない。っていう気分。
    でも、この本を読んで、思考停止にはなりたくなくなる。この時期に出版されたことも、ものすごく意味があると思う。

    3.11が起こる前に、あの場所で大きな地震が起こり得ることを表明し続けた科学者たちは、本当に本当に悔しいだろうな。教訓にしていかなければ報われないでしょう。

  •  いい本だ。ジャーナリズムとは、権力やエライヤツの嘘を暴くことだ。朝日新聞にいては、本当のことが伝えられないと思ってやめたのだと思う。朝日新聞の劣化はひどいと思う。
     福島の地震・津波と原発メルトダウンについては、私はその当時中国の雲南省昆明市にいて、映像をネットで見て衝撃を受けた。そして、あまり情報がなかった。こうやって、10年経って本を読んでみるといろんなことがわかってきた。私の知識の範囲内では、非常用発電機が地下にあること自体、津波で浸水したら一巻の終わりで、明らかに設計ミスだと思っていた。そして、「想定外」ということを言われれば、なるほどそういう言い訳が通用するのかと漫然と思っていた。私の中でも「想定外」という言葉が流行語になっていた。本書は、その想定外という言葉が、全く嘘だったことを完璧なまでに論破している。恐ろしいジャーナリストもいるもんだ。
    著者は、大阪大学大学院基礎工学研究科修士課程修了。90年朝日新聞社入社。東京本社科学部などで科学・医療分野を担当。原発と地震についての取材を続ける。東日本大震災と原発メルトダウンが起こってから、2011年5月からフリージャーナリストになる。
    東電の幹部の嘘を徹底して暴く。
    2011年3月13日東電の本社で清水正孝社長は、「津波そのものに対するこれまでの想定を大きく超える水準であった。極めて想定を超える津波。想定外」と言った。3月30日勝俣恒久会長は「これまで地震、津波については、過去に発生した最大限のものを設計基準に入れて、それへの対応を測ってきたつもりです」と言った。ところが、原発事故訴訟の中で、その嘘がどんどんと暴かれてきた。
    2002年に保安院が、津波地震の高さを計算しろという指示を無視し、逃げ切る。
    2007年に地震本部(文科省地震調査研究推進本部)が予測した津波地震が、7.7メートルだった。福島第一原発の設計想定は5.5メートル。しかし、それを真に受けず、土木学会の検討待ちにする。
    2008年には東電設計から、15.7メートルの津波が来ることの計算がきた。それは、1号機から4号機の広範囲に沈没する高さだった。しかし、武藤副部長は見送りを決める。
    2010年には、貞観津波(869年)の調査が進み、過去4000年間に5回大きな津波があることがわかった。貞観津波の大きさに想定すると福島第一原発には約9メートルの高さになると報告。
    つまり、何度も5.5メートルの想定では問題があると指摘されたにもかかわらず、先延ばしにしていたのだ。そして、2011年3月11日に襲った津波の高さは14〜15メートルで、東電設計の計算に合致していた。
    つまり、そういう指摘があったにもかかわらず改善せず、先延ばしにしていたことが明らかになった。まぁ。堂々と「想定外」と社長及び会長は言ったわけだ。
    明らかに、人災だったのだ。東電は資金力を背景に、学者に根回しをして、隠蔽工作をしたり、周りの意見を修正させて、津波の高さが5.5メートルで問題がないという意見を押し通したのだった。
     問題は、裁判である。国や東電を訴えても、勝つというのは至難の業だ。
    「想定外」「自然災害」だから東電には「責任がない」という論理は、鉄壁だ。
    つまり、津波の高さが、5.5メートル以上あることを、東電及び国が認識していたのか?ということなのだ。著者は、丹念にそのことを読み解き、その上で裁判での資料をきちんと読み切っている。失敗学の権威の畑村洋太郎が就任した政府の事故調査委員会も、「責任追求を目的としない」と言って、調査するのであるが、失敗の本質については、語らなかった。あぁ。失敗学で金儲けという感じなのかな。
    「東電には原発のプラントに致命的な打撃を与える恐れのある大津波に対する緊張感と想像力が欠けていたと言わざるを得ない」と言いながら、「防災対策に関する行政の意思決定過程を、行政の論理の枠内でみると、それなりの合理性があったことは否定できない」と結んでいる。なんじゃ。そりゃ。官僚の保身的作文に同意しているのが、失敗の本質だが。
     裁判で、裁判官がどう東電と国の嘘を暴くのか?司法の独立が守られるのか?
    まぁ。忖度する司法の実態が、明らかになる。本書を読んで、日本の劣化がどうやって起こるのかがよくわかる。

  • 国や東電、保安院は隠蔽・黙殺・忖度を重ね、何度もあったチャンスを逃し福島原発事故は起きてしまった。そしていまも責任の所在は曖昧にしたまま新たな安全神話を構築しようとしている様子が伝わってくる。人は記憶を忘却する。だからこそ本書のように事実を記録に残し続けることが大切である。

  • 元朝日新聞記者で、福島原発事故発生時から原発事故を追い続けフリーとなったジャーナリストが、原発事故発生から10年の間に明らかになった事実に基づいて、何があったかを明らかにしようと試みる。

    常に経済的利益のみを追求し、様々な戦略を駆使して、必要な事故対策を怠ってきた東京電力と、やはり経済の論理に支配される権力者に阿ることによって、事業者の監督を怠り、規制を捻じ曲げてきた国家の罪は非常に大きい。そして、福島原発事故は、防げた災害であった。

    いまも安全性よりも企業の利益を優先し、ルールを捻じ曲げ、経済的合理性が疑われると温暖化という切り札を持ち出しながら、原発の推進を図る原子力ムラの行動を野放しにして良いのだろうか?

  • 東2法経図・6F指定:543A/So21t/Ishii

  • 国や東電がなぜ原発事故を防げなかったのか。その真相に迫っている。

    数万年に一度の巨大地震の正確な予測を行うことは、いくら地震工学が進歩したといえど困難を極める。
    たかがモデルだとたかを括らず、適切な対応を打っていくことが重要だ。これは電力会社に限った話ではないだろう。

  • 東電は「責任がない」を繰り返してきたけど、正確には「責任感がない」んだな。

    2014年8月 福島地裁 事故当時福島県内在住の親子らが子どもたちに無用な被爆をさせた責任を国や県に問う栽培
    →福島の子どもに広く超音波検査を行ったことで、治療の必要なガンが見つかった子どもたちがいる。
    そのうちの約200名の子どもたちの手術を行った鈴木眞一福島医大教授は、そのほとんどすべては手術が必要なガンだったと2020年2月14日に福島地裁の証言台で証言している。

    過剰診断のために偽陽性のガンがたくさん発見されて、かえって子どもたちに負担がかかっているなら超音波検査の是非を問わなきゃいけなくなる。
    でも治療の必要なガンが見つかって、適切に治療されたと言うなら問題ないのでは。「スクリーニング効果」という言葉は、被爆によってガンになった被害を軽く見せかけるための言葉なんじゃないか?
    甲状腺がんは被爆によって引き起こされる可能性があるとチェルノブイリの経験から明らかになっていて、福島の子どもから一年に300人ほど甲状腺がんが見つかるということが続いて、なのにそれは被爆のためではなく「スクリーニング効果」のせいだと言うのは、病気と日々向き合わなければならない子どもたちの人生を無理やり矮小化しているように感じる。

    311当初から現在まで、原爆に関することになると、誰が科学的根拠のある話をしていて、誰が政治的な動機で話をしているのかを見分けるのが難しい。難しいどころか、ほとんど不可能に感じる。

  • 裁判を通じて明らかになった霞ヶ関と電力会社の怠慢や偽りをコンパクトにまとめてくれています。原発再稼働させるには、こうした有耶無耶になっていることを明確にすべき。

  • 前半のパートは飛ばして、後半の方の訴訟の状況らへんを読んだ。原発事故の責任の所在を明確化するために裁判は不可欠であり、その現在地を知ることができるので有意義であった。

  • 10年経てばヨソの人には記憶から消えること。被害を受けた当事者は永遠に当事者。でも、被害を与えた側はもう忘れてしまっていてもおかしくない、そんな今。

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著者プロフィール

添田 孝史:科学ジャーナリスト。1964年生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科修士課程修了。90年朝日新聞社入社。大津支局、学研都市支局を経て、大阪本社科学部、東京本社科学部などで科学・医療分野を担当。原発と地震についての取材を続ける。2011年5月に退社しフリーに。東電福島原発事故の国会事故調査委員会で協力調査員として津波分野の調査を担当。著書に『原発と大津波 警告を葬った人々』『東電原発裁判』(ともに岩波新書)などがある。

「2021年 『東電原発事故 10年で明らかになったこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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