書物に魅せられた奇人たち: 英国愛書家列伝

著者 :
  • 勉誠社(勉誠出版)
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784585390053

作品紹介・あらすじ

その魅惑的なモノは、時に人びとの蒐集欲を掻き立て、
さまざまな人間ドラマを描きだした。
蔵書票や蔵書印、書き入れは書物に残された人びとの欲望の痕跡である。
ことに書物文化が早くから花開いたイギリスにおいては、
書物に魅せられた先人たちの驚くべきエピソードに事欠くことがない。
エリザベス1世の魔術師と畏敬されたジョン・ディー、英国書物史の異端児ジェームズ・オーチャード・ハリウェル、書誌学探偵グレアム・ポラード、喜劇王チャールズ・チャップリンなど、16世紀から20世紀に至る英国で、書物とりわけ古書に取り憑かれた人物19人をピックアップ。
数々の人びとの手を経て伝えられてきた著者所蔵の貴重な書物を紐解きながら、
人と書物のひとかたならぬ愛の物語を読み解く出版文化史。
貴重な図版を100点以上掲載!

感想・レビュー・書評

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  • 〇かなり手強い学術書よりのエッセイ。ある程度の知識と興味が無いとかみ砕けない。
    博識で自分の知識をすべて手渡したいと考えている教授の講演会や授業のように、時代も人も思い出もエピソードもあちこちに飛びながら解説されていく。
    数行を何度も読み返した…が、お手上げな箇所も多数;出直します
    〇教授の掘り出し物をゲットしたときの喜び方がお可愛らしい
    〇紳士たるもの同一タイトル3冊の書を持て…には笑った。そうか英国の系譜だったのか

    ・本の所有者による書き込みや注釈、蔵書印、競売などの履歴

    ◎はじめに
    16世紀から20世紀に至る英国で、とりわけ古書にとりつかれた19人を紹介する。

    1:ジョン・ディー 女王陛下の魔術師
     「紳士たる者、本はすべからく3部所有すべし、即ち1部は見せるため、1部は読むため、1部は貸すために。No gentleman can be without three copies of a book, one for show , one for use and one for borrow's 」リチャード・ヒーバー(1757-1837)19世紀最大の古書蒐集家
     
     ハーディング『年代記』
      …諜報活動、イングランド→スコットランド
       ディーは本書を中心にブリテン帝国主義を探究した
     エリザベス1世とディー
     ディー蔵書 3000冊の印刷本と1000冊の写本
           多くの本が生徒などに略奪される
     オカルトと錬金術

    2:ローレンス・ノウェル 古英語学者のパイオニア
     英文学は、英雄叙事詩『ベーオウルフ』で始まる。
     ノウェルの自画像…パトロンにおねだり
              お財布空っぽ、犬に吠えられる
     現存する古英詩の半分を読んだと見積もられている。
     古英語研究 『サクソンの語彙集』
     ノウェルのスパイ容疑 木版地図製作?
     化学者マッソンとノウェル旧蔵書

    3:ロバート・ヘア 好古家、ケンブリッジ大学への篤志家
     ケンブリッジ大学トリニティ・ホール…古書の鎖付き図書館
     カンタベリー大司教マシュー・パーカー
     エルフリック『イースター説教集』
      アングロ・サクソン活字で組まれた最初の書
     エルフリック『古代の証言』
     カトリックと英国国教会

    4:ジョン・モリス 忘れられた収集家
     大英図書館とビレル教授
     収集家“I.M. ”とは誰か

    5:ピーター・ヘイリン 国王を立腹させた学者
    『ミクロコスモス』1621
     「フランスはイングランドより大きく、そして有名である」という一文がジェームス一世の怒りをかう
     謝罪を拒否、言い訳はした
     ←著者の正誤表の追跡

    6:ウォルター・チェトウィンド 先祖の家紋を精査した好古家
     「あらゆる面白い学問を扱う祖国の宝だ」
     「英国の紋章付き製本」トロント大学データベース
     
    7:トマス・ベイカー 愛する母校から追放された
     ケンブリッジを卒業、聖職者かつフェローとしてコレッジに所属するも、英国王ウィリアム3世への忠誠を拒否してフェロー職を剥奪される
     母校の歴史の著作がある愛校家で愛書家
     自校に寄贈した蔵書のサインを削除し、セント・ジョンズ・コレッジを追放されしトマス・ベイカーと書きこむ

    8:ラルフ・ソアズビー リーズの名士
     18世紀初めの好古家たちのネットワーク
     本への書きこみから想像するもの

    9:モーリス・ジョンソン スポールディング紳士協会
     田舎町の知的サロン
     コーヒーサロンで新聞を読んで討論するサークル
     …後年、文芸や科学をテーマにする会合に発展
      政治的な話はしない、商談はしない、握手や名刺交換をしない
     …最古の紳士協会の1つ
     …彼の蔵書にはキャクストン印刷が含まれていた
      サザビーなどで高額で落札される
     ジョンソンの蔵書票
     『イングランドの祭式文集』座右の書だった
      たくさんの注が書きこまれている

    10:マーティン 正直者トムの正体
     好古家であり、収集家であり、司書
     「読書用の自分と父の蔵書目録」
     50歳の博学の老人と13最高少年の友情
     スポールティング紳士協会のメンバー
     「正直者トム」は寡婦の蔵書を言葉巧みにまとめ買いして収集
     …胡散臭い、が好かれていた。
      魅力的な詐欺師?

    11:ジョージ・バラード 遅咲きの好古家
     16世紀後半から18世紀にかけては、イギリスは好古趣味の全盛期。
     ヘンリー八世の宗教改革…修道院の破壊写本や初版本の放出
     ロンドン好古家協会の再編成
     …学門が細分化されていなかった
     『著作で知られた英国女性たちの覚書』1752 
     唯一の著書
     バラードは女性の衣服の仕立て職人であり、高名な女性たちに知己を得ていた

    12:ジョン・ラヴディ コレッジの学長を驚かせる
     18世紀の好古家で旅行家
     子孫たちに敬愛を寄せられている

    13:リチャード・ファーマー ケンブリッジ大学副総長でシェイクスピア学者
     『シェイクスピアの学問論』1767
     18世紀 いくつかのジェントルマン・クラブの会員

    14:フィリップ・プリス 折丁記号Bの前にPを
     オクスフォードの好古学者で古書収集家
     各地の図書館でも勤務する
     オクスフォード関係の人物や書誌学的な古書、16~17世紀の英国詩人の膨大な蔵書

    15:ジェームズ・オーチャード・ハリウェル 書物史のジキルとハイド
     書物窃盗
     トリニティ・コレッジから中世写本を盗み、大英博物館に売り込もうとす?が失敗。
     妻の父との軋轢

    16:ジェフリー・ケインズ卿 二兎を得る
     外科医で書誌学者
     英文学と、英国の医学史の分野で活躍

    17:フローレンスとチャーリー・チャップリン 知られざる過去
     ※本文中の[図1]と[図2]が入れ替わっているかも
     古書店で手に入れたチャーリー・チャップリンの蔵書
     俳優で演出家で読書家で女たらし
     イーストマンとフローレンスとチャップリンの三角関係
     フローレンスからチャップリンへ
      『シュロップシャーの若者』
     ポーレッド・ゴダードとチャップリンと蔵書票
     チャップリンの蔵書の行方

    18:グレアム・ポラード 書籍商兼書誌学者
     日本の書店員・古書店員の地位の低さ
     英米では反対のよう
     書誌学者で書誌学的探偵
     ワイズの偽作への言及

    19:怪奇小説作家A.N.L マンビー
     書誌学者、ザザビーやクォリッチ書店にも勤務する怪奇小説家
     愛書家の遺言書…文芸執行人を使命感、蔵書の行方を指示させる

    20:愛書家よ、永遠なれ
     毛沢東(一方、焚書坑儒)と田中角栄、二人の愛書家
     愛書狂の時代、愛書家の育み肩

  • 好古家(antiquary)や愛書家(bibliophile)のなかでもコレクターの話だと聞くと、貧乏極まりないわたしには別世界のように思えるのだが、コレクターであることを抜かせば、全部飲み込んでしまいたいほど多くの書物を毎日借りて読んでいる者にとっても、あながち無関係とも言えない世界だなとも思うのだ。しかも、18世紀の専門書出版についてみると、前もって注文を聞いてから、400部ほどがようやく製本されるだけだったと聞くと、やはり泣けてくるのだ。現代の専門書の出版状況に通ずる、共感する部分が出てくる。きっと当時の著者たちも苦労したのだなと思うのだった。中にはブルームズベリーグループの話も出てくるし、ケインズが稀覯本を寄付したり、ケインズの弟も収集家であったなどの話も見られる。もっと若かったならば、本の虫が騒ぎ出すくらい、ボドリーやケンブリッジ図書館へ日夜通いたいと思ったものだ。

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著者プロフィール

慶應義塾大学名誉教授(中世英文学、書物史)。
1944 年生まれ。1966年慶應義塾大学経済学部卒業、1968年同大学文学部卒業、1970年同大学大学院修士課程修了、1973年博士課程単位取得退学、1978年ケンブリッジ大学博士課程修了。著作に、 Aspects of Malory, jointly edited with Derek Brewer (Woodbridge: Boydell & Brewer, 1981), 『西洋書物学事始め』 (青土社、1993年)など。


「2014年 『西洋活字の歴史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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