人生100年時代の年金制度: 歴史的考察と改革への視座

  • 法律文化社
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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784589041203

作品紹介・あらすじ

年金制度を取り巻く情勢の変遷や、歴史的経緯としての年金制度改革の展開を踏まえ、人生100年時代における年金制度の在り方につき、主要論点に絞り込み実証的かつ理論的に考察。公的年金制度7論考、私的年金制度6論考の2部構成。日本年金学会創立40周年記念論文集。

感想・レビュー・書評

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  • 全13章中の一部(1章、2章、5章及び7章)だけですが、とりあえず最も関心のある箇所は読んだ。他にも読んでおきたい章はあるけど、全論文を読破するのが目的ではないので、いったんここで「読み終わった」に移しておきます。
    以下、各章の軽い振り返り。

    第1章「不確実性と公的年金保険の過去、現在、未来」。
    「不確実性」というレンズを通して見た年金制度史。年金の勉強の中でも、財政検証は「必要性を理解していながら手を付けられていない苦手分野」なので、この稿を補助線にしながら、2014年や2019年の検証に挑戦してみようかなと。……時間が出来れば。

    第2章「長期就労と年金制度」。
    年金制度の機能維持には長期就労支援が有効であるとして、そのための案を提言する論稿。制度の発想転換を促す提案も多いですが、非専門家である被保険者・受給権者・経営者が、その転換に「ついて来られるか」という点で、少々疑問の余地もある。また、制度をより一層複雑化させる案もあり、実務の観点(本稿が論じた日本社会と同様に、日本年金機構も職員の半数近くは非正規であり、長期的な人材育成には弱点を抱えている)にも目配りが欲しい気がした。

    第5章「女性と年金」。
    女性の年金権確立を謳った3号制度の実態は、旧来的な夫婦単位(世帯単位)の発想のままである(のみならず、性別役割分業を再生産している)として、家族関係や労働形態が多様化する中で、婚姻を前提とした年金制度の設計を見直すべきと主張する内容。厚生年金保険の適用拡大に関しては、女性従業者への適用が進んでいることを示唆する調査もあり、最新の(あるいは、もう少し動向を注視したうえでの)データに依れば、多少議論の軌道修正があるかもしれない。

    第7章「公的年金制度への共感を高める年金教育の在り方」。
    若年層の年金教育を学校、地域、広報政策の三位一体としたうえで、特に学校授業におけるノウハウを提言している。正しい理解を効率的に伝える方法論の追究にも意義はあると思いますが、意識付けのために最も重要な“繰り返し学ぶ機会を設ける”点は章末で広報政策にほぼ丸投げしており、あまり言及がなかった。
    2015年SSM調査の研究(永吉希久子,2018,「年金制度への支持に対する職歴の効果――制度の階層化の影響に着目して」吉田崇編『2015年SSM調査報告書3 社会移動・健康』2015年SSM調査研究会: 39-57)は、「年金制度への態度の一部は、現行の年金制度の給付水準や負担水準の在り方によって方向付けられていると考えられるものの、その他の要因による影響を大きく受けており、規定のメカニズムはより複雑である。」(永吉 2018: 54)としている。
    これって個人的には意味のある指摘だと思っていて、年金制度への態度(たとえば「拡大」「現状維持」「縮小」といった方向性のうちのいずれを志向するか)は、制度以外の要因の影響も強く受けるという。
    SSM調査はアンケート形式の調査であり、被験者は必ずしも社会保障制度に関心を持って回答を選択しているわけではないけれども、「複雑な要因」によって一定の傾向が現れているということは、その相関性の奥の方に、年金制度への態度を方向付ける何らかのトリガーがあるはず。そういう所を模索して、効率的に効くような社会保障教育システムが構築できないものか。――まあ、それこそ一度で効く「特効薬」ではなく、繰り返し同じ事を考えるプロセスによる内面化である、という結論になることは想像に難くないのだけれども。

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著者プロフィール

慶應義塾大学商学部教授 博士(商学)
1962年福岡県生まれ。1985年慶應義塾大学商学部卒業、1990年同大学院商学研究科博士課程修了。嘉悦女子短期大学専任講師、慶應義塾大学商学部助手、同助教授を経て、2002年より現職。この間、1996年~1998年ケンブリッジ大学経済学部訪問研究員、2005年ケンブリッジ大学ダウニングカレッジ訪問研究員。
公務では、社会保障審議会、社会保障国民会議、社会保障制度改革国民会議、社会保障制度改革推進会議の委員や社会保障の教育推進に関する検討会の座長など、他にもいくつか引き受けたり、いくつかの依頼を断ったり、また、途中で辞めたり。
主要業績に、『医療介護の一体改革と財政 ―― 再分配政策の政治経済学Ⅵ』(2015年)、『社会保障の政策転換 ―― 再分配政策の政治経済学Ⅴ』(2009年)、『医療政策は選挙で変える ―― 再分配政策の政治経済学Ⅳ[増補版]』(2007年〔初版2007年〕)、『医療年金問題の考え方 ―― 再分配政策の政治経済学Ⅲ』(2006年)、『年金改革と積極的社会保障政策 ―― 再分配政策の政治経済学Ⅱ』(2004年、労働関係図書優秀賞)、『再分配政策の政治経済学Ⅰ ―― 日本の社会保障と医療[第2版]』(2005年〔初版2001年、義塾賞〕)(以上、慶應義塾大学出版会)、『医療経済学の基礎理論と論点(講座 医療経済・政策学 第1巻』(共著、勁草書房、2006年)、翻訳としてV. R. フュックス著『保健医療政策の将来』(共訳、勁草書房、1995年)などがある。

「2016年 『年金、民主主義、経済学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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