人生100年時代の年金制度: 歴史的考察と改革への視座

  • 法律文化社 (2021年1月20日発売)
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全13章中の一部(1章、2章、5章及び7章)だけですが、とりあえず最も関心のある箇所は読んだ。他にも読んでおきたい章はあるけど、全論文を読破するのが目的ではないので、いったんここで「読み終わった」に移しておきます。
以下、各章の軽い振り返り。

第1章「不確実性と公的年金保険の過去、現在、未来」。
「不確実性」というレンズを通して見た年金制度史。年金の勉強の中でも、財政検証は「必要性を理解していながら手を付けられていない苦手分野」なので、この稿を補助線にしながら、2014年や2019年の検証に挑戦してみようかなと。……時間が出来れば。

第2章「長期就労と年金制度」。
年金制度の機能維持には長期就労支援が有効であるとして、そのための案を提言する論稿。制度の発想転換を促す提案も多いですが、非専門家である被保険者・受給権者・経営者が、その転換に「ついて来られるか」という点で、少々疑問の余地もある。また、制度をより一層複雑化させる案もあり、実務の観点(本稿が論じた日本社会と同様に、日本年金機構も職員の半数近くは非正規であり、長期的な人材育成には弱点を抱えている)にも目配りが欲しい気がした。

第5章「女性と年金」。
女性の年金権確立を謳った3号制度の実態は、旧来的な夫婦単位(世帯単位)の発想のままである(のみならず、性別役割分業を再生産している)として、家族関係や労働形態が多様化する中で、婚姻を前提とした年金制度の設計を見直すべきと主張する内容。厚生年金保険の適用拡大に関しては、女性従業者への適用が進んでいることを示唆する調査もあり、最新の(あるいは、もう少し動向を注視したうえでの)データに依れば、多少議論の軌道修正があるかもしれない。

第7章「公的年金制度への共感を高める年金教育の在り方」。
若年層の年金教育を学校、地域、広報政策の三位一体としたうえで、特に学校授業におけるノウハウを提言している。正しい理解を効率的に伝える方法論の追究にも意義はあると思いますが、意識付けのために最も重要な“繰り返し学ぶ機会を設ける”点は章末で広報政策にほぼ丸投げしており、あまり言及がなかった。
2015年SSM調査の研究(永吉希久子,2018,「年金制度への支持に対する職歴の効果――制度の階層化の影響に着目して」吉田崇編『2015年SSM調査報告書3 社会移動・健康』2015年SSM調査研究会: 39-57)は、「年金制度への態度の一部は、現行の年金制度の給付水準や負担水準の在り方によって方向付けられていると考えられるものの、その他の要因による影響を大きく受けており、規定のメカニズムはより複雑である。」(永吉 2018: 54)としている。
これって個人的には意味のある指摘だと思っていて、年金制度への態度(たとえば「拡大」「現状維持」「縮小」といった方向性のうちのいずれを志向するか)は、制度以外の要因の影響も強く受けるという。
SSM調査はアンケート形式の調査であり、被験者は必ずしも社会保障制度に関心を持って回答を選択しているわけではないけれども、「複雑な要因」によって一定の傾向が現れているということは、その相関性の奥の方に、年金制度への態度を方向付ける何らかのトリガーがあるはず。そういう所を模索して、効率的に効くような社会保障教育システムが構築できないものか。――まあ、それこそ一度で効く「特効薬」ではなく、繰り返し同じ事を考えるプロセスによる内面化である、という結論になることは想像に難くないのだけれども。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年4月5日
読了日 : 2021年4月5日
本棚登録日 : 2021年4月5日

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