わたしをみつけて

著者 :
  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591135365

感想・レビュー・書評

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  • 本を読むのと同じくらい、おままごとが好きでした。
    それも、「おかあさん」「おとうさん」と呼び合うおままごとではなくて
    「今日の私は、エリザベス♪」と、金髪巻き毛の女の子になり切って
    小さなティーポットでしずしずとお茶を淹れるような。
    おままごとそのものよりも、「今日の私の素敵な名前」を考えるのがうれしくて。

    そんなふうに、名前に込められた意味やイメージについて想像するのが大好きなので
    初めてピアノのレッスンに来た生徒さんには、必ず「お名前は?」と訊いて
    「うわあ、きれいなお名前ね!」と盛り上がったり
    「あ、そのお名前の入った曲があるよ!」と弾いてあげたりするところから始めます。

    。。。だから、ショックでした。
    名前の由来を訊かれること、言い当てられることを苦痛に思う人がいると知って。

    三月に捨てられたから、弥生。
    三月に生まれたから、ではなく。

    たぶん生まれ月は二月なのに、捨てられ、拾われた月の
    「弥生」という名前を背負って彼女は生きている。
    施設は18になったら出なくてはいけないから、准看護士の資格しか取れない。
    院長がアパートの保証人になるのは一回きり、という規則のせいで
    天涯孤独で他に保証人の当てがない彼女は、
    勤めている病院でどんなに理不尽な扱いをされても、職場を変えられない。

    いい子でなければ、欲しがってもらえなかった。
    いい子だから、と引き取ってもらった家では、
    わるい子でも変わらずに愛してもらえるのか確かめたくて
    ことさらにわるい子を演じ、案の定突き放されて。

    『きみはいい子』で、通りすがりだろうが、ちょっとした顔見知りだろうが
    誰かが「きみは、ほんとはいい子だよ」と語りかけ、見守ることで
    救われるこども(もちろん大人も)がいることを、丁寧に描いた中脇初枝さん。
    でも中脇さんは、ちいさな救済のその先を、ずっと考え続けていたのですね。

    いい子でもなく、わるい子でもなく、わたしはわたし。
    誰でもいいから、「わたしをみつけて」と心の中で叫んでいた弥生が
    「わたしをみつけて、さあ、それからどうする?」と
    人の顔色を窺うばかりだったまなざしをすうっと上に向けるとき
    ああ、このタイトルは、ラストシーンは
    悲痛な叫びじゃなくて、思わせぶりな尻切れトンボでもなくて、
    未来へと繋がっていたんだ!と、ただただうれしくなるのです。

    • だいさん
      >小さなティーポットでしずしずとお茶を

      薔薇乙女ですな!
      >小さなティーポットでしずしずとお茶を

      薔薇乙女ですな!
      2013/09/03
    • まろんさん
      だい▽さん♪

      だいさんもローゼンメイデンを読まれるとは!
      いつもとても難しそうな本を読んでいらっしゃるので、意外です。
      でも、ひそかにうれ...
      だい▽さん♪

      だいさんもローゼンメイデンを読まれるとは!
      いつもとても難しそうな本を読んでいらっしゃるので、意外です。
      でも、ひそかにうれしいです♪
      というわけで、この歳になってもまだ、レースやフリルやお茶会が大好きな私なのです(*^_^*)
      2013/09/04
  • 中脇さんの作品「きみはいい子」を借りようと思いましたが、タイミング
    良く先に返却された「わたしをみつけて」を借りることができました。

    中脇初枝さんの著作は初めてですが、前作の「きみはいい子」で扱っ
    た虐待のテーマは重く、本作はどうかと期待しておりました。

    生まれて直ぐに捨てられた子供、3月に拾われたので名前は弥生。
    心の奥底になぜ自分は捨てられたのか、良い子であれば捨てられな
    かったのか、深い傷を抱えて生きていきます。自分の自然な感情を表
    現することを畏れ、再び捨てられないためのいい子を演じ続けます。

    「わたしがほんとはいい子じゃないとわかっても、お父さんとお母さんは、
     私を捨てないでいてくれるだろうか」
    「いい子じゃなかったら、お父さんとお母さんの子供にしてもらえなかった」

    その後の生き方を決定づける言葉ですが、絶えず自分の中の”本当の
    わたし”はそうじゃないという思いが深く流れています。

    やがてありのままの自分を受け入れてくれる存在に出会い、本当のわた
    しを表に出すことができた時、どのような新しい世界になっていくのか、
    期待は我々読者の想像の中にあります。

    大変面白く、夜の更けるのも忘れ一気に読み終えた作品でした。

    香山リカさんの 「いい子じゃなきゃいけないの」 とも通じます

  • 「いい子じゃないと、いけませんか。」
    この問いかけに、はっきりNOと答えたい
    でも自分自身にも「いい人」と言われたいという気持ちが根強くある

    前作の「きみはいい子」も好きだった
    これは長編、一気に読んだ

    ≪ どこにいる? ほんとのわたし つくるもの ≫

  • いい子でなくても捨てられないことを自分でたしかめるために、どこまでゆるされるか親をためす。いい子でなければまた捨てられてしまうという絶望。もう二度と絶望しないように、いい子の仮面をかぶりつづける。いい子もわるい子も自分なのに。
    看護師になった主人公は、いろいろな大人が子どもたちを見守っていることを知る。見守ってきた人は見守られることを知る。自分が見守られてきたことに気づき、見守る人になろうとする。看護師のかぶる仮面は自分を守るための仮面ではなく、他の人を守るための仮面だった。

  • 「きみはいい子」がとても良かったので、中脇初枝さんの「わたしをみつけて」も借りて読んでみました。
    「好き嫌い」がハッキリ別れる本だと思います。
    『小説新潮』7月号・山本周五郎賞の選評を事前に読んだので、・・・どうかなー・・・「きみはいい子」のほうは良くて、こっちは全然ダメなのかな?と、あまり期待していなかったんですが、とても良かったです。
    読んで良かった。


    「きみはいい子」同様に、虐待が根本を流れています。
    親に愛されているか、愛されていないか。子どもが愛されていることを実感しているか・・・。まだ2冊しか読んでいませんが、きっと中脇氏の「描く原動力」というか、著作テーマなんだと思います。なので「虐待」とか「愛されていないかもしれないという不安」とかいうテーマに、まったく共感できない方は、中脇氏の本は全然面白くないだろうな。と。

    人は愛されていることを自覚して育ったタイプと(経済的なものは関係なく。)、
    程度の差こそあれ、(たとえ虐待とはいえないものだったとしても)家庭での立場にすごくさみしさを感じていたり、愛されていないかもと感じたりした子ども時代を経たタイプの人がいて、
    両者はこの本をどう感じるか、まったく違うと思うのです。
    あるいは「子どもが可愛くて可愛くて仕方ない、育児は天職だ」と思えるタイプは読まなくていいかな。「子どもは可愛いんだけど、仕事から疲れて帰ってきて、自分の思うようにいかずに子どもを叩きたくなった、怒鳴りたくなった(実際に叩いてなくても)。悲しい。」と思うような(これすなわち私)母親ならm共感できるかもしれない。


    「児童養護施設」「病院の現場」あたりのリアリティは低いです(どうしてわかるかというと、かつての職場だから。苦笑。でも、中脇氏も児童養護施設等に思い入れがあるのかもしれません。)でなければ、数十年前の現場の姿なのかな。現代の病院の問題点にメスを入れる!とか、そういうテーマではないです。そもそもこれは、この物語の主要軸ではない感じがする。


    主人公・弥生の成長物語。
    本屋でこれを見かけたら最初のページだけでも読んでみて、もし物語に入っていけそうだったら読んでみることをオススメします。
    (主人公が自分を一番憐れんでる、とか、かわいそうな自分に酔ってる、とかいう評をいろんなところで見ましたが、もし私自身が弥生だったら、そうやって自分自身を憐れまなければ(実際、弥生はかなり自己評価低いし)生きていけなかっただろうなあと思います。)
    「わたしは自分ひとりで生きて育ってきたわけではなかった」と、師長とのやりときで気付き、前を向いて生きていこうとするあたりは感動します。弥生は、痛みを乗り越えたんですね。
    私は師長と弥生の、「笑顔についてのやりとり」を見てから、仮面でもいいから「笑顔のおかあさん」をやろうと思いました(笑。30年続けたら、きっと「いつも笑顔のお母さん」となるでしょう。

    「僕が悪い子だから、うちにはサンタさんが来ないんだ。」と言っていた、
    「きみはいい子」の神田さん、こちらにも。(実際にこの子は登場しないんだけど)
    幸せになってね、神田さん。

  • やっぱり好きだな、中脇初枝さんの作品。

    捨て子だった山本弥生が、藤堂看護師長、菊池さんとの出会いによって、人として、看護師として成長するお話。

    「自分ひとりで大きくなったわけではなかった」と気づくまでの道程。
    「わたしはわたし」だという心持ちにまで至る。
    その過程の描き方が良かった。
    シンプルで、淡々とした印象を受ける文章がまた効果的。

    優しくて強い人の話はとても好きだ。

  • この作家さんの本は初めて読みました。
    途中、何度か泣きそうになりながら
    一気に読み終えました。
    良かった〜。
    続編ないかなぁ。

  • プロ意識と人間性は切っても切り離せない。
    日頃自分がどんな仕事でもプロ意識を忘れずに
    一生懸命やってきたことを肯定された気がして
    とても嬉しくなりました。
    医療機関は患者には見えない上下関係があり
    権力関係がある。
    でも患者を前にしてその権力は果たして必要だろうか?
    と不満に思っていた私に、
    とても刺さる内容でした。

  • とても素敵な師長で良い本でした。

    この顔はね、仮面なの。
    看護師の仮面。病院に着いたら、仮面をかぶるの。
    よく、若いひとが、自分探しとか言って、ほんとの自分を探して旅をしたり、転職してみたりするでしょり
    ほんとの自分がどこにいると思ってる?
    ほんとの自分なんてね、なんだっていいのよ。そんなのないと言ってもいい。仮面をかぶって30年もたてば、それが、ほんとうの自分。

    印象に残っています。

  • 『施設のものはみんなのものだった。
    そんなこと知っていた。一度だけ、ほんとの気持を言ってみただけだった。
    その一度きりで、自分がいい子じゃなければ、受け入れてもらえないことを知った。
    だからこわかった。』

    「名づけは親の最初の暴力みたいなものだし。 - つけられた名前で生きていかなきゃいけないんだから。」

    「心臓のことはいつもほめてたわ。よく何十年も休まずに動いてるよねー、えらいねーって。彼女の話をきいていると、なんだか、自分の臓器が動いて、自分が生きているだけで、自分がえらいような気がしたものよ。」

    「人生の総決算よね、入院と葬式は。 - そよひとが今までやってきたことがみーんな出る。」

    『それまでのわたしは、一日三回、三百六十五日、毎日だれかにごはんを作ってもらって食べていた。そんなこと、それまではあたりまえすぎて、なんとも思っていなかったけれど、実はすごいことだった。』

    「看護師は患者のためにいます。それだけは、みなさん、忘れないで。迷ったら、患者のためになるかどうか、それだけを考えて。そうすれば、答えは出ます。」

    「大丈夫よ。正しい答えを探す必要はありません。答えはどこかに転がっていたりはしません。答えはいつも、あなたがたの中にあります。」

    『もう、わたしにはわかっていた。
    今、立っているのが自分の場所。それは、たとえどんな場所でも、こんなところまで来てしまったと嘆く場所じゃない。』

著者プロフィール

徳島県に生まれ高知県で育つ。高校在学中に坊っちゃん文学賞を受賞。筑波大学で民俗学を学ぶ。創作、昔話を再話し語る。昔話集に『女の子の昔話 日本につたわるとっておきのおはなし』『ちゃあちゃんのむかしばなし』(産経児童出版文化賞JR賞)、絵本に「女の子の昔話えほん」シリーズ、『つるかめつるかめ』など。小説に『きみはいい子』(坪田譲治文学賞)『わたしをみつけて』『世界の果てのこどもたち』『神の島のこどもたち』などがある。

「2023年 『世界の女の子の昔話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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