- Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
- / ISBN・EAN: 9784591151419
感想・レビュー・書評
-
一日百円で何でもあずかる<あずかりやさん>。
料金は前払い。予定日より先に受け取りに来ても良いが返金は出来ない。予定日を過ぎても受け取りに来なければ預けたものは店のものになる。
物でも、時には生き物でも、時にはゴミとしか思えないものでも大切に預かり保管する。
盲目の店主が何故こんな商売を始めたのか。
先日うっかり読み落としていることに気付いて慌てて借りてきたシリーズ第2作。
サブタイトルである「桐島くんの青春」という通り、若き日の店主の日々が第一話と最終話に収録されている。
第一話で店主の桐島がこの商売を始めたのが若干17歳であったこと、質屋と間違えてやってきたおかしな客の思いつきのアイデアで上記のルールが定まったことを知った。
そして最終話では高校時代の桐島のエピソード。
これまでの話で何となく分かってはいたものの、一時は東大法学部の一般受験を目指すほど桐島くんは賢かったし、さらに走り幅跳びの全盲高校記録を持つほど運動も出来る文武両道の少年だった。
だが大人になった店主とは違って少年らしい感情的な部分も大いに持ち合わせていて、仄かな恋とも呼べないほどの可愛らしい交流もあったのが分かってちょっと安心した。
店主は全盲だが生まれつきではなく事故により子供の頃に視力を失ったことが分かった。
だから物の位置や場所を記憶するのが得意なのかも知れない。だが一方で途中で視力を失うということはそこで自分も含め家族の人生も大きく変わるということでもある。
当たり前に見えていた世界がいきなり見えなくなるというのは想像もつかないショックだろうし絶望も悲しさもあっただろうが、そこを敢えて描かず淡々とその日々を綴っているのが返って辛かった。
預けられたまま店主の元で暮らしている文机の何とも奇妙な持ち主の話、アンティークオルゴールの流転の物語も良かったし、盗まれた鉛筆をめぐる二人の少女の物語も良かった。
この方の話は安直なハートウォーミングで終わらないのが良い。苦さと暖かさ、人と人との距離感、その絶妙なバランスが上手いなといつも感心させられる。
第一作を読んだときは、奇妙な商売を設定して狙いすぎで微妙かと思ったが、第三作まで来てこんな素敵な物語になるとは思ってもみなかった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
あずかりやさんシリーズ第2作。
本当は(多分解説があるとおもわれる)文庫版で読みたかったのだが、図書館の蔵書が単行本のみだったため、こちらで読破。
単独でも読めるお話だったが、第1作に登場するオルゴール誕生秘話もあるため、できれば第1作から順番に読むことをオススメしたい。
前作に続きじんわり温かくてせつない物語ばかりだったが、特記すべきは最後の「海を見に行く」だろう。
この本は副題が「桐山くんの青春」となっているが、そのタイトルのお話はない。
だが話の内容からみると、「桐山くんの青春」に当たるのは「海を見に行く」だとおもわれる。
なぜならこのお話は、主人公・桐山の高校時代のお話だからだ。
前作でも主人公だったあずかりや店主の桐山、しかし前作では桐山は脇役ののようでもあった。
なぜなら前作の語り役はすべて、桐山以外のキャラクターだったからだ。
そのため前作では、桐山の立ち振舞いはわかってもその心情までは推測でしかわからないところも多かった。
しかしこの「海を見に行く」はおもいっきり桐山目線で話が進む。
物静かで落ち着いた人物に見えていた桐山が、その内では様々な葛藤を抱えていることがよくわかるお話だった。
ほとんどのことを卒なくこなしているように見えていた桐山もまた、当たり前だけれでもひとりの迷える人間なのだということをひしひしと感じ、より桐山のことを見守り応援したくなった。 -
「あずかりやさん」の2作目が出ていたとは!一日百円でどんなものでも預かる、ちょっと不思議な「あずかりやさん」ワールドにどっぷり浸ることが出来ました。
自分ではすっかり忘れていたのだが、このレビューを書くにあたり1作目の自分のレビューを読み直したら、「スピンオフでいいから、また『あずかりやさん』シリーズが読みたいな。」とのたまっていた。思いが叶ったじゃないか!その通り、今回はスピンオフっぽい作りで、店主の桐島透君の若い頃が描かれている。少年の桐島君、瑞々しいわ~。今回も連作短編の形を取り、文机、女子中学生、オルゴールが語り手となってドラマを紡ぐ。なんだか、前作より世界観が深まった気がする。オルゴールなんて、生まれは海外だし!そして、1作目では描き切れなかった部分も色々明らかになる。最終話は桐島君の学生時代だ。こんな青春時代があって、今の「あずかりやさん」としての彼があるわけだな…。今回は『鎌倉』『トロイメライ』がキーワードか。
勿論、本作から読み始めても問題なし。どの章も決してただの「心温まるいい話」で落としていないのがいい。それなりにほろ苦く、起承転結の「転」を結構捻っているので、「えええ!?」と驚くことも。どのエピソードも素敵だけど、印象的だったのは「青い鉛筆」。女子中学生が友人や家族に抱く、思春期特有の複雑な思いが繊細に描かれていて、ものすごく胸に沁みた。
プロローグで、学校の先生が授業であずかりやさんの話をし、生徒に問いかける。
「さて君たちなら何を預けたい?」
なかなか深い問いだなぁと改めて思う。じっくり考えながら、次作を楽しみに待ちたいな。 -
良いねぇ、大山さんの書く文章。決して軽くない内容なのに、何の引っ掛かりなく、そよ風に吹かれているが如くサァーッと進んでいく。で、なんだか温かいんだよね。
短編集みたいなのに、それぞれのお話が関連している、こういう形態って、何か名前があるのかな?他の作家さんでもよく見かけるけど。結構好きだな。 -
前作を読んだのは1年くらい前になるので、少しお久しぶり。過去の話がメインかなと思ったけど、そんなでもなく。鉛筆をあずけた中学生の話は、仕事柄なんだかいろいろ複雑な思いになる。理解してくれるって当たり前じゃない。オルゴールの話もすごく深くて、前作を読み返したくなる。最後の店主の話は、つらい。前作でも店主は家庭にいろいろあって暗い過去があるって匂わせがあったけど、想像以上につらいなあ……。お父さんが自分だったら猫を轢いていたって台詞が痛い。
いつか文机でオルゴールを聴いた時、あのピアノの「トロイメライ」を思い出せたら素敵。 -
音や情景や心情が、前作よりとても丁寧に伝わる。ずっと読んでいたい気になった。
最後の章は泣けるくらいに音や匂いが伝わり、良い主人公に出会えて良かったと思えた。 -
ずっと読んでいたい。
-
「猫弁」を書いてる作家さんですが、そちらは読んだことなく
「あずかりやさん」第二弾。
何でも一日百円で預かってくれるあずかりやさんは
料金前払い。
店主の目は見えません。
今回も優しい話でとてもよかった。
目が見えない桐島くんが
どうしてお店を始めたのか。
「あずかりやさん」のエピソード0という感じ。
とてもよくできた人という感じの桐島くんにも、
穏やかでないことがあったのだな。
よくできた人でないこともあるのだ
と思うとちょっと嬉しかった。
お店を始めることは、
実は彼が初めていう本人の心からの希望だったのだろう。
いつか、お母さんがお店を訪れるといいね、と思う。 -
1作目?を読んで面白かったので、続きで。単独で読むと多分ちょっと微妙な気がするなぁ。ちゃんと順番に読んだほうがいい気がする。主人公の過去がちょっと見えたりするので前の話を知らないとちょっとわかりづらいかも。とはいえ読み進められないわけじゃないけど。3作目も読んでみたいなぁ。
人間描写も良い意味で相変わらずだし、話のテーマが結構難しいものがあったけど、やっぱり丁寧だし、テーマの選び方?も面白いな、と。