夕焼けポスト

  • ポプラ社
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (158ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591164020

作品紹介・あらすじ

日没寸前の川沿いに、不思議なポストがあらわれる。それはあらゆる人間の願いや苦しみを受け止めるポストだった――。ポストの管理人である「私」は悩みを寄せる人々に返事の手紙を書き続ける、まるでなにかの贖罪のように。励ます側である「私」こそ、じつは出口のない苦悩にあえぐ傷だらけの人間だったのだ――。ぎりぎりからの反転、呆然とする耀き。様々な境遇にいる人たちの手紙によって織りなされるこの物語は、世界12言語に翻訳され感動を呼んだ『あん』の著者のもうひとつの原点である。

目次 

1 悩みの手紙 
2 人の国 
3 河の街 
4 樹の街 
5 命の本流 
6 チャンパの花

感想・レビュー・書評

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  •  日没前にだけ突然現れるポスト。そのポストには、あらゆる人の悩みや願いが記された手紙が入っている。主人公は、妻子を突然事故で亡くし、悲しみにくれて生きるうちに、そのポストの手紙に返信する、管理人の役割を担うことになる。

    主人公は長年返事を書き続け、相談者を励まし続けます。そのアドバイスの中で大切にしているある教えがあり、何とか続けていますが、人を救ったり励ましたりしていることが綺麗事で、なにより自分自身が全く救われず先に進めていないことに罪悪感を感じています。

    インドでの体験、仏陀の教えなどを交えながら、新たな境地を開いていく主人公。
    ただの綺麗事やポジティブシンキングとは違う、心を伴った結末に、こちらも新たな視点をもらいました。

    〜〜〜〜以下抜粋〜〜〜〜


    ○大人とは、人を見た目だけではなく、内側の、心のあり方も含めて、評価できる人のことを言います。大人になればなるほどどんな心を持ち、どんな温かさを持っているかということが大事になってくるのです。

    ○人として一番美しい手の使い方はどんなものでしょう。それはおそらく、手を差し伸べるということです。困っている人や転んでしまった人や、うずくまっている人がいたら、両手を差し出すということです。その手を握ってあげるということです。そしてその手は、本当は心の中にあるのですよ。

    ○角度によって、この観音様の顔はどんどん変わっていく。優しい表情に見えたり、怒っているようにも見えたり。・・物事をあらゆる角度で観るのは、人が苦悩から解放されされるための最も力強い方法だと思う。

    職業柄、今まで「手」というと、自分にとってはピアノを弾く手、ピアノをより上手に弾かなくてはならない手、というイメージがいつのまにか念頭にあったように思う。でも、誰かが音楽を楽しめるように差し伸べる手であっても良いのだ、と、ふと頭をかすめた。

  • 毎度毎度祈りのような本を書く人です。「あん」でブレイクしたにもかかわらずあまり売れていない所には、この内面に根差した真摯な姿勢が逆作用しているのでしょうか。
    特定の人にしか見えない夕焼けポストに届く時空を超えた悩み相談。チャップリンやリンゴスターからも届く悩みの手紙。何ともワールドワイドです。主人公は自ら娘を亡くした痛みに耐えながら、他者の悩みに真摯に答えようとします。娘の死を乗り越えられない自分が人の悩みに相談を受ける事の矛盾に苦しみます。
    直球では出てきませんがインドとブッダに基盤を置く寓話です。小説というより寓話という方がしっくりくる気がします。

  •  素敵な表現がたくさんでてきます。読後,今,生きているこの時間を大切にしたくなる,そんな本です。ドリアン,優しいな。
     著者は,ラジオ放送のパーソナリティーをつとめている時に,実際に,いろんな悩みを訴えてくる視聴者に,彼の言葉で応えるということもやっていたらしい。本作品は,夕暮れ時だけ現れるポストに入っている手紙への返事を通して,多角的に物事を見ること=観自在菩薩の助けを頂くことを教えてくれる。しかし,人には言うことができても,本人自身が感じている悩みには角度を変えてみることができない。これもまた,ドリアン助川の姿と重なってくる。「他人にエラソウニ言うけど,自分はどうなのだ!」と叫ぶ曲が,彼(語る詩人の会)の歌にもあったよな。
     あまり多くを語ると小説の中味がばれてしまうので,このくらいにしておきます。
     わたしは,最後の2人に返した返事をコピーして残しておきました。とてもいい言葉です。

  • ファンタジー調の優しく悲しく温かいお悩み相談物語

    主人公自体が悩みを持ちながら、他人の悩みに誠実に答えていくという構造が、奥行きを感じさせてくれる。
    人生や悩みに関して真正面に取り組まれていて、仏教やタゴールについて読んでみたくなった。

  • ひとには悩みや孤独に思う気持ちは尽きない。
    その思いを抱えながら、生かされている時間を、どういう心持ちで生き切れば良いかが示されている。

    死は身近だ。特別なことではない。
    それを日本人が感じる機会は、現代においては限らているため、悩む人が多いのではないだろうか。

    先日読んだ、中村哲先生の本や、たかのてるこさんからも、同様のことを教えてもらった。

    それが実践できたら、もっと生きやすくなるに違いない。

  • 自分が救われるためにお手紙の相談に答えていく

    「角度を変える」

  • 最後に会いたい人に会えたのかな…。
    後悔なんて山程あるよ。
    悩みや苦しみを聞いてくれるポスト、本当にあればいいのに

  • 美しい言葉たち。

  • 家族をなくした主人公がポストの管理人になり、届いた手紙に書いてある悩みに答えていく話。

  • 「角度を変えて物事を見る」ことの重要性に気づくことができる。
    また、ところどころに現れる風景描写が美しい。

    [NDC] 913.6
    [情報入手先] SLBA選定図書案内 2020年度 1学期
    [テーマ] 令和2年度第2回備中地区司書部会/フリーテーマ

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著者プロフィール

ドリアン助川 訳
1962年東京生まれ。
明治学院大学国際学部教授。作家・歌手。
早稲田大学第一文学部東洋哲学科卒。
放送作家・海外取材記者を経て、1990年バンド「叫ぶ詩人の会」を結成。ラジオ深夜放送のパーソナリティとしても活躍。担当したニッポン放送系列『正義のラジオ・ジャンベルジャン』が放送文化基金賞を受賞。同バンド解散後、2000年からニューヨークに3年間滞在し、日米混成バンドでライブを繰り広げる。帰国後は明川哲也の第二筆名も交え、本格的に執筆を開始。著書多数。小説『あん』は河瀬直美監督により映画化され、2015年カンヌ国際映画祭のオープニングフィルムとなる。また小説そのものもフランス、イギリス、ドイツ、イタリアなど22言語に翻訳されている。2017年、小説『あん』がフランスの「DOMITYS文学賞」と「読者による文庫本大賞(Le Prix des Lecteurs du Livre du Poche)の二冠を得る。2019年、『線量計と奥の細道』が「日本エッセイスト・クラブ賞」を受賞。翻訳絵本に『みんなに やさしく』、『きみが いないと』(いずれもイマジネイション・プラス刊)がある。

「2023年 『こえていける』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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