丸腰国家―軍隊を放棄したコスタリカの平和戦略― (扶桑社新書 47)

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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784594058722

作品紹介・あらすじ

「理想」ではなく「現実」のもとに軍隊をなくした人々。教育も医療も無料!世界が"対テロ戦争"に突き進む一方で、「国家の非武装化」というもう一つの潮流がある。

感想・レビュー・書評

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  • 昨夏の安保法制デモに参加し、憲法第九条の遵守を主張したのだが、その際に必ず賛成派から出るのが「では軍事力を捨てたら、敵国に攻められたときにどうするのか」という問いである。私は日本単独による個別的自衛権の行使と日米安全保障条約による米軍の協力によって対応可能だと考えているが、仮に九条を言葉通りに受けとって「戦力」を保持しないということは可能なのだろうかと考えた。実は平和主義、戦争の放棄を憲法に謳った国はわが国だけではないが、実際に軍隊すら持たないというのは中米の小国コスタリカをおいて聞いたことがない。ネットでの討論では「コスタリカは実は強力な軍隊を持っていて平和国家などでない」と言う意見も見受けられ、実際のところはどうなのかを知りたくなって本書を手にした。

    日本で唯一のフリーランス・コスタリカ研究家である筆者は、やはり同じような疑問を持って実際にコスタリカに留学し、生活することでその実態をつぶさに知る。その姿勢はコスタリカを一方的に礼賛も批判もせず、努めて中立性を保とうとしているのがよく分かる、抑制の効いた文体であり好感が持てる。

    コスタリカの平和主義は思ったより長い歴史を持ち、想像以上に堅固なものだった。決して平和的とは言えない中米地域において、その平和主義を以下にして保ってきたか、一般的な日本人があまり知らないであろう中米の歴史を紐解きつつ解説する。

    そもそもこの一帯、現メキシコ領チアバスからパナマに至る地域は中米連邦というひとつの国家を形成していたこともあり、隣国同士がどこか親戚のような気風を持つという。東西冷戦の最前線であったこともあり、左派ゲリラも跋扈した内戦の時代を経てコスタリカが憲法に軍隊禁止条文を挿入したのは1949年のことであった。その背景にあったのは、ロマンチックな平和主義、理想主義ではなかった。限られた財政資源を教育、医療、福祉に回す必要があったこと、内戦を闘った敵派閥の軍備を取り除くこと、そして当時のカリブ海諸国の微妙な力関係やアメリカ合衆国の思惑などが複雑に絡み合っていたのである。それは理想に燃えた指導者によるものでも、平和を求める市民達が立ち上がって成し遂げたものでもなかった。ただ、その複雑な状況にこの小国が極めて慎重に、現実的な解決策を突き詰めた末に生まれた結論であったのだ。事実、軍事費を丸ごと教育、医療、福祉に回すことは非常に大きなメリットであり、その恩恵を受ける国民たちの絶大な支持を得た。大部分のコスタリカの国民の心の中には、こうした平和主義が深く根を張ることになる。こうした判断を下したその当時の政治的リーダーを、筆者は高く評価している。

    そうした様々な状況に対応して生まれた「軍隊を持たない国」が、実際に戦争の危機にどのように対処したか。それは「戦わずに国際世論に訴え、あくまでも外交で対抗する」ことだった。1983年、時の大統領ルイス・アルベルト・モンヘが「積極的永世非武装中立宣言」を発表する。この場合の「積極的」とは、誰かと誰かが争っている場合にはどちらの味方もしない(中立)が、その仲介者としては積極的に介入する、という意味である。ここで「非武装」が効いてくるわけだ。丸腰の平和国家であるからこそ、中立の立場での仲介者として信用される。安倍政権が打ち出した、武力の行使を前提とした「積極的平和主義」とは大きく異なるものである。この理想主義的な政策によって、実際にこの小国は中米における仲介者としての立場を維持しているのだ。

    そしてなにより驚くことに、コスタリカ国民のほとんどが、このコンセプトをコスタリカという国家、国民にふさわしいのは自明のことととらえているようなのだ。そして重要なことは「平和」とは「終わりのない闘争」によって維持されているというタフで現実を直視した理念が脈々と受け継がれていることである。「平和に至る道はない。道こそが平和なのだ」というマハトマ・ガンディーの言葉が引用されているように、それは政治家から大衆まですべての国民の不断の努力によって維持されているのだ。

    もちろんコスタリカはパラダイスだというわけではない。貧困や格差、汚職、人権問題、麻薬といった負の面は多々あるようだ。だが、政治的に不安定なこの地域にあって、経済的には裕福ではないながらも教育や医療を無償で提供し、民主主義と普通選挙のシステムを維持しているという事実はなによりも非武装国家がきちんと機能している証拠に他ならないだろう。

    やはり現地に腰を据えて取材する者は強い説得力を持つ。シリアでISに殺害されたジャーナリスト後藤健二氏は、戦争の中から平和を伝えようとしたが、著者である足立力也氏は、戦争と対句になる平和ではなく、平和はただ平和として独立して存在しうるということを主張しているようであり、それこそが今もコスタリカを訪れ続ける理由なのだろう。わが国が真の平和国家になるには、国民がコンセンサスの取りようがないほどに分断されている事実を直視し、変えていく必要があるだろう。道は長いが、やり遂げることを願っている。

  • 軍隊を持たない国・コスタリカ。軍事力なくしてどのように平和を保っているのか?

    法的には「必要があれば軍事力を持つことができる(と解釈できる)」のに、それをしないのは国民全体として「軍事力に頼らない」という意思があるからだとか。

    コスタリカは周辺諸国と安全保障条約を結んでいるが、軍事的支援はしない。
    同盟国に事が起こった場合には、「『軍事力を持たない』ということでもって当事者たちに信頼される『調停役』になる」というのがコスタリカの方針なのだろう。

    ただ、それで同盟国はいいのだろうか?
    彼らは、たとえばコスタリカに事が起こった場合(攻撃を受けた場合)には、軍事力を提供して支援するということなんだろう。
    彼らの負担と、コスタリカの負担は釣り合うのだろうか?


    全体的に、もう少し細かく書いてあると良いと思う部分もあるが、日本の現在・これからについて考えるヒントにはなる。

  • 9784594058722  254p 2009・3・1 初版1刷

  • 軍隊がないことが最大の防衛力と考えている。軍隊がないから攻められない。非武装を武器にしていはるかに効率的な外交を展開した。
    しかし政治は汚職され、わいろ文化が横行している。
    国営電機電話公社ICEの電話開通は1年かかるらしい。

  • あとがきにあるように「ただ軍隊がない国家」としてよく描かれていると思う。特に「非武装の歴史」については、憲法で軍隊を廃止した後も、旧軍隊を再集結して防衛にあたりながら外交を駆使して戦闘をおさめていく様子などが詳しく書かれている。その結果、「非武装が最大の防衛力」という結論が再認識され、コスタリカ国民の誇りにもなっているようだ。非武装であるのは、システムとしてではなく、価値観や方向性として根付いているので、揺るがないものとして感じられる。

    しかし、この国も政治的腐敗が蔓延し、政治家は汚職で捕まったり、警察や役人までも賄賂を要求するようだ。また差別や貧困、モノカルチャーによる環境破壊など様々な問題がある。軍隊がない国だからといって、それだけで成熟した社会ではないのだ。

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著者プロフィール

コスタリカ研究家

「2014年 『グローバル協力論入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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