壊れた世界の者たちよ (ハーパーBOOKS)

  • ハーパーコリンズ・ ジャパン
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  • Amazon.co.jp ・本 (736ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784596541390

感想・レビュー・書評

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  • ドン・ウィンズロウは初めて読むが、読み応えがあった。
    6つの中編それぞれが全く違う物語で、それぞれに堪能した。

    ①壊れた世界の者たちよ:表題作、兄弟を殺された麻薬犯強行係がチームで仇を取る血腥い物語。
    ②犯罪心得一の一(クライム101):スマートな強盗と離婚されたしょぼくれ刑事の知的な戦い
    ③サンディエゴ動物園:銃を持ったチンパンジーに右往左往
    ④サンセット:死んだ妻との思い出とバウンティハンター社の最後の仕事
    ⑤パラダイス――ベンとチョンとOの幕間的冒険:ハワイでマリファナ栽培で業者とトラブル
    ⑥ラスト・ライド:メキシコ国境沿いの難民少女を母親のもとに送り届ける

    どれも特徴があるが、⑥のラストが何とも切ない。
    アメリカの光と陰と言うけど、ほんと陰ばっかじゃん、と思わずにいられない。
    そんな中で、こんな男の悲劇的な最後がラストとはねえ。
    読むのに結構な時間が掛かったがナイスな読書体験だった。

    Amazonより--------------------
    『このミステリーはすごい!』2020年度(宝島社)第3位『ザ・ボーダー』に並ぶ最高傑作!
    復讐、正義、野望、喪失、裏切り、贖罪――
    アメリカの「今」を活写した6篇を収録。
    【解説】穂井田直美

    「いま最も偉大な犯罪小説家」が活写する、アメリカの光と陰――

    驚愕と感嘆、絶賛の声高し!
    「驚き満載の玉手箱。ウィンズロウの多彩さが堪能できる上にテーマも深い」堂場瞬一(作家)
    「市井の黙示録のような見事な一冊」田口俊樹(翻訳家)
    「正義は最善ではない。本作が残酷で理不尽な物語か、自己犠牲の美談か、それは読者の正義感に委ねられる」丸山ゴンザレス(ジャーナリスト、第6話「ラスト・ライド」)

    ニューオーリンズ市警最強の麻薬班を率いるジミーは、ある手入れの報復に弟を惨殺され復讐の鬼と化す――。壊れた魂の暴走を描く表題作はじめ、チンパンジーが銃を手に脱走する「サンディエゴ動物園」、保釈中に逃亡したかつてのヒーローを探偵ブーンが追う「サンセット」、映画原作『野蛮なやつら』の幼なじみトリオが引き起こす新たな騒動「パラダイス」など6篇を収録。犯罪小説の巨匠による傑作中篇集!

    ■【収録作品】
    壊れた世界の者たちよ
    犯罪心得一の一(クライム101)
    サンディエゴ動物園
    サンセット
    パラダイス――ベンとチョンとOの幕間的冒険
    ラスト・ライド

  • ドン・ウィンズロウ『壊れた世界の者たちよ』ハーパーBOOKS。

    ドン・ウィンズロウの新作は、なんと700ページにも及ぶ大ボリュームの6編収録の中編集。

    ドン・ウィンズロウ作品の集大成とも言える、いずれも過去の傑作を彷彿とさせるような重厚で読み応えのある作品ばかりが収録されており、ウィンズロウのファンならば非常に大きな満足感が得られる。ファンでなくとも読んで損は無い。いや、絶対に読むべき作品だ。恐らく年末恒例の『このミス』の上位にランクインするのは間違いないだろう。

    『壊れた世界の者たちよ』。『ダ・フォース』のような血で血を洗う復讐劇を描いた重厚な暴力小説。ニューオリンズ市警のジミー・マクナブ率いる麻薬課の精鋭たちが麻薬組織の手入れを行ったことが切っ掛けで、ジミーは麻薬組織から報復を受ける。ジミーの弟・ダニーが麻薬組織に拉致され、拷問の果てに惨殺されたのだ。怒り狂い、復讐を誓ったジミーは弟を惨殺した四人の男を一人ずつ殺害していく。

    『犯罪心得一の一』。スティーヴ・マックイーンに献辞された作品。スティーヴ・マックイーンの映画のような男の匂いを感じる快作。カリフォルニアのハイウェイ101号線の沿線で10年間にわたり、年に1、2回だけ宝石強盗を働くデーヴィス。決して血を流さずに慎重でスマートな手口で犯罪を重ねるデーヴィスの正体を突き止めようと、ロナルド・ルーベスニック警部補が独自で捜査を進める。自分に課した犯罪心得を破ったことでデーヴィスは窮地に陥るが……

    『サンディエゴ動物園』。エルモア・レナードに献辞された作品。確かにレナードのようなユーモアを感じる警察小説に仕立てられている。動物園からチンパンジーがリボルバーで武装し、逃走を図る。逃げたチンパンジーをサンディエゴ市警のクリス・シェイと動物園職員のキャロリン・ヴォイトが追う。自ら負傷しながら、チンパンジーとリボルバーを確保したクリスは……

    『サンセット』。レイモンド・チャンドラーに献辞された作品。『夜明けのパトロール』『紳士の黙約』でお馴染みのサーファー探偵ブーン・ダニエルズが活躍する中編。物悲しい幕切れ。サーフィンをかじったことがある人なら思わずニヤリとする描写が多々ある。ブーンは保釈保証事務所を経営するデュークの依頼で保釈金を踏み倒して行方をくらました伝説のサーファー、テリー・マダックスを探す。『ストリート・キッズ』のニール・ケアリーも登場。65歳のニール・ケアリーなんて想像もしなかった。

    『パラダイス ―ベンとチョンとOの幕間的冒険』。『野蛮なやつら』『キング・オブ・クール』に登場したベンとチョンとOを主人公にしたピカレスク。なんと『ボビーZの気怠く優雅な人生』のティム・カーニーも登場する。舞台はハワイ。大麻ビジネスの大物ディーラーのベンとチョンとOことオフェーリアの三人は地元の犯罪組織『ザ・カンパニー』に目を付けられる。三人はティムとティムの息子キッドと『ザ・カンパニー』に立ち向かうが……まさかのフランキー・マシーン……

    『ラスト・ライド』。物悲しくも感動的な物語。国境警備局の隊員キャル・ストリックランドは不法入国者収容施設で一人の少女が目に止まり、少女をメキシコにいる母親の元に届けるべく、国境を越える……

    本体価格1,291円
    ★★★★★

  •  分厚い熱気の塊のような長編小説を書き続ける日々の合間に、作家の中から零れ落ちそうになった別の物語たちを、この機会にきちんとした形で作品化させ、出版させるということになり、本書は登場したという。どこかで零れ落ちそうになっていたこれらの物語を今、6つの中編小説というかたちで読める幸せをぼくは感じる。

     それとともに本書はウィンズロウのこれまでの作品の総括であり集大成ででもあるように見受けられる。かつてのシリーズや単発作品の懐かしくも印象深い人物たちがそこかしこで、しかも今の年齢なりに成長したり歳を重ねたりして登場してくれるからだ。読者は作者の創造した魅力的なキャラクターたちにこの一冊を通じて再会を果たすことができる。もちろんそのときの読者としての自分にもまた会えたような想いとともに。

    『壊れた世界の者たちよ』

     アーネスト・ヘミングウェイ『武器よさらば』の一文から着想を得たタイトル。直近の麻薬戦争三部作の残酷無比な世界の延長上にあるが、『ダ・フォース』のようなタフなチームリーダーに率いられた警察チームの一歩も引かない姿勢が、悪党たちとの徹底した私闘の物語を紡いでゆく。全編アクション、血、復讐の怒りに満ちている。スピーディな描写力で、『カルテル』のその後も続くアメリカの今を活写。無法にも見える法の側のチームの闘いのクレッシェンドに、警察トップが下す粋なはからいがウィンズロウらしい選択肢。固唾を呑みながら引き込まれるトップに相応しい作品。

    『犯罪心得一の一(クライム101)』

     スティーヴ・マックイーンに捧げられた一作。ハイウェイ101、パシフィック・コースト・ハイウェイ(P・C・H)。宝石泥棒デイヴィスを離婚検討中のサンディエゴ市警ルー・ルーベスニックが追いかける犯罪と追跡と逃亡の軽妙なクライム・ストーリー。ルーはこの後の作品にも二作ほど登場、いい味を見せる。ポンコツのホンダ・シビックに乗った平和と正義を愛するこの刑事の味に、本作の主人公デイヴィスの『ブリット』や『ゲッタウェイ』のマックイーンへの憧れ、二人ともに101号線を愛してやまないという独特な趣向に、味のあるストーリーテリングを積み重ねたいかす逆転プロットの快作である。


    『サンディエゴ動物園』

     エルモア・レナードに捧げられている、本書中、最もコミカルで楽しい物語。いきなり銃を持ったチンパンジー(チンプ)という珍妙過ぎる事件に翻弄される市警警官クリス・シェイが主役だが、本作では街全体がふざけて少しずつズレた人々でいっぱいなように見える。前述のルー・ルーベスニックも香辛料のような存在感で一部登場。ネット社会での個人攻撃も素材に取りつつ意外なラストには腹を抱えて笑いたくなる。こういうウィンズロウは最近では珍しいか。

    『サンセット』

     『夜明けのパトロール』のブーン・ダニエルズを登場させ『サンセット』と名付ける粋を見せるこの作品は、レイモンド・チャンドラーに捧げられる。本書では、お馴染みのサーフィン・チーム隊に加え、ウィンズロウの最初のシリーズ主人公ニール・ケアリーも登場、彼のその後の変化と変わらないところと両面が味わえ、なおかつ追いかける悪党は堕ちたヒーローで伝説のサーファーで名前はテリー。姓はレノックスではないのだが。マーローのいないビーチでの追跡行、これまた一気読みの快作。

    『パラダイス』

     この作品の舞台カウアイ島は、個人的に二度(しかも一度は自分の挙式で)訪れている場所なので個人的にも凄くインパクトのある物語だった。相も変わらずろくでもない大麻ビジネスをこの島でと狙いをつけた-副題:ベンとチョンとOの幕間的冒険-なのである。『野蛮な奴ら』シリーズの主人公が少しも変わらず、なおかつ『ボビーZの気怠く優雅な人生』のティム・カーニーや『カリフォルニアの炎』のジャック・ウェイド(こちらは一瞬の登場)までが顔を揃えるサービスぶり。なんだか旧作を軒並み呑み(じゃない、読み)直したくなるようなクール作品だ。なんと言ってもOが変わらず良いのです。
     
    『ラストライド』

     最初と最後の作品は結構シリアス作でサンドイッチしている。本書も近作の延長戦の如くメキシコ国境戦争に材を置き、国境近くの檻に入れられ両親と離れ離れになった孤児たちの救いなき運命、それを何ともできない国境警備隊員の中で炎の如く渦巻く正義の呻き声が、思いがけない大事件を巻き起こす。最後の最後の一行で、ウィンズロウはまたも読者を泣かす。一体、この作家の才能はどこまで深く凄腕なのだろう。

     すべての作品が100頁超くらいの中編。ベテランの料理長が振るう包丁のような正確さで同じ長さに切り揃えられて見える。すべての味にコクがあり、ウィンズロウ独自の味があり、食後の旨味があり、忘れ難い読後感が心を占める。作家初の中編集ということもあるが、すべての作品が同じハイレベルで見事な切り口を見せている。期待を裏切らぬばかりか、驚くほど濃厚なエッセンスに満ちた、この作家を総括するような一冊であった。ウィンズロウの男たち、女たちが、しばらくは夢に出てきそうだ。満足!

  • なんかとてつもないもん読んでもた。
    集大成にも程がある。

  • 6編収録されている中編集。アメリカの問題、世界の問題を描いて怒りや悲しみとかたくさんの感情がある。なかなかどれが正しいとか決められないことも多くて、でも正しいことをやろうとした、やった人たちの想いが伝わってくる。これまでの作品に登場した人物たちも何人か出てくる作品があってそれも嬉しい。最近は大長編のような物が多かったけれど今回のような中編集も魅力的。6編それぞれ違った面白さがあってどの作品も読み応えは抜群。

  • どれも面白かった。
    これがリアルなアメリカなのか。しみるなー。
    個人的にはサンディエゴ動物園が好きかな。

  • 中編集だから読みやすい。長編をじっくり味わいたい人には不完全燃焼な気分が残るかな。

  • 犬の力から始まるメキシコ麻薬戦争3部作しか読んでないので、サンディエゴを舞台にした3作品は意外だったな。こういうゆったりとした作品もあったのか。。。
    解説を読むと関連作品が多くあるみたいなので少しずつ手を出してみよう。
    でも一番好きなのは表題作かな。もうめちゃくちゃなんだけど狂気に触れさせてくれる、ドン・ウィンズロウとして読みたかったものでもある。やはりこういうヒリヒリした感じを読みたいんだ!
    ダ・フォースも読もっと。

  • 軽めのものもシビアなものもある中篇集なのだけど、どの作品も良い。
    余韻が残る。
    とりわけ最後の「ラスト・ライド」はもう…!
    読み終えてからずっと、銃声が消えない。
    今のアメリカを強い怒りと悲しみと、心臓を絞上げて引っぱり出したような希望を持って書かれていて、胸が締め付けられた。
    この銃声は、私の中から消えないでいて欲しい。
    途中のサンディエゴ辺りを舞台にした連作では、「ストリート・キッズ」のニールがまさかの登場!
    しかも65歳!うえーん!生きて歳をとってる!あの人と暮らしてる!英文学の教授になってる!何もかもが泣ける!
    私はドン・ウィンズロウ作品はまだ「ストリート・キッズ」しか読んでいないのでわからなかったが、解説によるとこの中篇集には他にも別作品から登場しているキャラクターがいるそうで、他のものを読んでからまた今作を読み直す楽しみもできた。
    ドン・ウィンズロウ、本格的にハマりそう。

  • 6編が収められた中編集。クスッと笑える楽しい「サンディエゴ動物園」、懐かしの面々に会える「サンセット」や「パラダイス」も良かったが、胸に響いたのは冒頭の「壊れた世界のものたちよ」そして最後の「ラストライド」だ。特に「ラストライド」ば質の良い映画を見たようで、長さもちょうど良く素晴らしい。国境警備隊に所属する主人公は、良かれと思ってトランプに投票したのにどんどん状況は悲惨さを増していきどうにもならない。文字通り全てを犠牲にして正しいと思うことをやり遂げ死んでいく主人公と、戦争のトラウマに苦しみながらも生き延びることを選択する同僚の女性の違いは何なのだろう。深い余韻を残す作品だった。

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著者プロフィール

ニューヨークをはじめとする全米各地やロンドンで私立探偵として働き、法律事務所や保険会社のコンサルタントとして15年以上の経験を持つ。

「2016年 『ザ・カルテル 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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