母への手紙・若き日の手紙 (サン=テグジュペリ著作集 4)

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (359ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622006749

作品紹介・あらすじ

『母への手紙』は少年時代から死の直前までの34年間にわたる手紙110通を収める。『若き日の手紙』は1923年から31年まで友人ルネ・ド・ソーシーヌに宛てた25通とクロッキー13葉を収録する。相手にたいして飽くことなく愛情や友情を強要し、ときにはふてくされ、厭味を言い、たびたび断念の淵にたたされながら、またもや希望をつなぐといったかたちで、いたるところモーツァルトふうの憂愁と皮肉を奏でながら書きつづられたこれらの手紙は、読む者の心を深く揺り動かさないではいない。

感想・レビュー・書評

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  • ⬛︎母への手紙⬛︎
    「私たちがもっているアントワーヌの最後の手紙には、こんな言葉があります、───
    「私が帰ってくるとすれば、私の関心事はこうです、──人びとに何をいわなければならないか?」
    彼の使命をわけもつことを私に決意させたのは、この言葉なのです。 マリ・ド・サン=テグジュペリ」

    そんな彼の母の言葉からはじまる彼の母へ宛てた手紙たち。なんだか盗みみてしまっているような罪悪感があったのだけれど、楽しかった。とりわけ、10歳とかそこらの幼いころの手紙(二通しかない、もっと見せて)。そのあとは彼のキュートなスケッチ(「クソ!」)がそこここに。わがままな甘えんぼうのおぼっちゃん。そんな彼の一面をみられて大変うれしい。
    こんなに幼いころから母親と離れていたならば、それは母というものがとても神聖な存在になるのだろう。母親だっておなじなのだろう。こんなにも母を愛するというのはどういう気持ちなのだろう。母からの愛を心から信頼し、素直に甘えることのできるという心境が?子に愛される、という心地も(「毎日手紙を書いてください」「お金を送ってください」彼は後にたくさんのものを遺したわけだけれど) 。
    母に手紙をしたためる時間は、貴重な彼の内省の機会となっていったのかもしれない。19歳くらいから、哲学的なことを綴ることがおおくなってきた。キュートなユーモアも可笑しくて愛おしい。そして想像は果てもなく。彼と仲良しのちいさくて可愛いカメレオン、寄り添う母と息子を柔らかくつつむ、愛のひかり。



    「お別れにします。肉体的、精神的、数学的にいって私は良好です。」

    「狂気が精神の支離滅裂の状態であり、統合を目指すことのできない状態であるとすれば、それは天才とはまったくほど遠いと思われます。なぜなら、天才とは首尾一貫している思念の結合を考え出し、統合をつくり出す力だからです。」

    「申しぶんのない天気ですが、青すぎる空に白すぎる小さな雲が幾つか浮かんでいます。これは十九世紀の版画みたいな「きまりきった」空です。私の気もちがおわかりですか。」

    「驚くべき発見!私の正面のナポレオンの水差しで、背びれ型の取っ手さえ備わっていることに、たったいま気がつきました。水差しになるなんて、まったく、彼はおおいに威厳を失いました!」

    「これはいつでも真実なことですが、《ママン》というのはみじめな人びとの唯一の、真の隠れ家なのです。」

    「人びとが話したりかいたりするとき、いかにもとってつけたような結論を導き出すために、すぐさま思考を完全に放棄してしまうことに私は気がつきました。彼らは言葉というものを、まるでそこから真理が導き出されるはずの計算器かなにかのように使っています。馬鹿げています。議論することではなく、これ以上議論しないことを学びとらなければなりません。なにかを理解するためにつぎつぎと言葉を辿ってゆかねばならない必要は毛頭ありません。そんなことをするから、すべてをする誤ってしまうのです。言葉を信用するからです。」

    「でも、ほんとうは楽しみのなかにも、なにか学ぶべきことだけを求め、キャバレーのすずめ蜂には我慢できない人間なのです。無益な会話にはうんざりして、ほとんど口を開くこともない人間なのです。」

    「自分の周囲を読み取るためには、少しばかり不安でいなければなりません。そのせいで私は結婚をおそれるのです。」

    「こんにち、こんなにも荒涼としているのは魂です。渇きのために死にそうです。」


    ⬛︎若き日の手紙⬛︎
    「書きはじめるまえに生きることが必要なんだ。」

    つぎはある友へ宛てた手紙群。母宛への手紙とはまるで違った彼の内面世界をみることができる。頑固者で正義感のつよい人物。友だちと漫才のような会話もできるユーモアをも持ち合わせている。ごまかしやまやかしを嫌うところ、世界にも 正直 でいてほしいとおもうところ、そんな彼にとても親近感を覚える。ピランデルロの本にたいする偏屈とか(すき)。ほんとうにあなたはむずかしいひとだ。そしてなんて愛おしいのだろう。でも、友だちにはなりたくないかも。同族嫌悪のぶぶん‎があるかもしれない、わたしは臆病だから。
    「たぶんぼくは、自分自身にたいして書いているのだろう。」
    彼のさびしさが凍みてきた。そしてこれらのお手紙が本に綴じられたことを知ったら、彼は嬉しくはないんじゃないかな、なんておもう。



    「ひとから愛され、魅力ある男だと思われ、指の爪が美しいと賞められたらいいと思う。だが、ぼくの油だらけの手、それを美しいと思うのはぼくだけだ。」

    「リネット、ぼくはたちまち自分に飽きてしまう。だから、人生でなにもやり遂げられないだろう。ぼくには自由でありたいという要求がつよすぎるのだ。」

    「ぼくに触れてゆくすべてのものがぼくを不安にする。すごく幸福であっていいはずなのに。」

    「ぼくは愚かで滑稽な若者だった。というか──ダカール以前は──青春の幻影にすこしたぶらかされていたのだ。青春特有の希望というものによって。」


  • 文学

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