憲法論 : 【付録】ワイマール憲法

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622017363

作品紹介・あらすじ

近代の「市民的・法治国的」憲法の発展を、歴史をたどりつつ、思想史的・社会学的に鋭く分析すると同時に、独自の憲法論を展開する。

感想・レビュー・書評

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  • シュミットの著作の中では『 政治的ロマン主義 』『政治神学』『 現代議会主義の精神史的状況 』『政治的なものの概念』 など、法学プロパーよりもむしろ政治思想に大きな影響を与えた作品がポピュラーだが、法律学に決定的な足跡を残した理論家シュミットの主著と言えば、やはりこの『憲法論』を置いて他にない。本書の法学への最大の貢献はシェイエスから受け継ぎ、体系的な位置づけを与えられた「憲法制定権力論」であろう。

    憲法制定権力とは憲法秩序を創出する権力のことであり、法と法の外部(即ち政治)との結節点に立つ権力と言えるが、法の外部を理論の外に放逐したケルゼンらの法実証主義への批判的含意が込められている。もっとも憲法制定権力の決断主義的側面を重視するなら、法を実力による強制とみる法実証主義との境界は曖昧である。ケルゼニアンである宮沢俊義がケルゼンの論敵シュミットを下敷きに「八月革命説」(革命的権力としての国民が実質的に日本国憲法を制定したと見做す説)を唱えたのもさほど不思議ではない。

    憲法制定権力論は宮沢の「八月革命説」とともに憲法学界の通説とされるが、宮沢の後継者芦部信喜は憲法制定権力とて「人格の自由と尊厳」という内在的制約に服すると考えたし、樋口陽一は憲法制定権力の行使を一回限りのものとして凍結しようとする。それは実態としてはシュミットが見据えた法の決断主義的契機を骨抜きにした抜け殻に過ぎない。憲法とは権力を制約するものという立憲主義の要請を踏まえつつ、何にも制約されない権力の担い手たる国民というフィクションだけは(ただし行為能力を欠いたフィクションとして)温存しようとする。憲法制定権力に期待されているのは、既存の憲法秩序に正統性を与えること以上ではない。こうした戦後憲法学の潮流は、法と政治の緊張関係を見据えながらも、法の窮極にあるものとしてノモス=規範的契機にこだわり続けた尾高朝雄の問題意識とも交錯する。

    だがシュミットが問題にしたのは、法と秩序の存立が危機に瀕する例外状況である。そこでは憲法秩序の創造自体が最優先され、それを決断するのが憲法制定権力である。ハイデガーが死から生を見つめたように、シュミットは例外という極限状況を起点に法秩序の存立根拠を突き詰めて考え抜いた。「危機の思想家」と言われるゆえんである。

  • 2021年12月21日、再読開始

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著者プロフィール

一八八八~一九八五。ドイツの法哲学者、政治理論家。「敵は殲滅せよ」という友敵理論や「例外状態」を想定して強力な権力の登場を説く「例外状態理論」などで知られ、ナチス政権の理論的支柱と言われた。戦後、逮捕・訴追されたが、ニュルンベルグ裁判で不起訴。著書に『陸と海 世界史的な考察』(日経BPクラシックス)、『政治的ロマン主義』、『政治的なものの概念』、『現代議会主義の精神史的地位』、『大地のノモス』他。

「2021年 『政治神学 主権の学説についての四章(日経BPクラシックス)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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