- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784622022244
感想・レビュー・書評
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ヤスパース Algemeine Psychopathologie 初版の翻訳。第5版の翻訳「精神病理学総論」が出て十数年後、翻訳グループの一人だった西丸四方が私的に訳出したノートから新たに出版したもの。三巻ものになった「総論」に比べコンパクトというだけでなく、なんせヤスパース30歳の時の著書、若さと理想にあふれた感じが伝わってくる。翻訳も患者の婆さんが「わたしは大正何年生まれ…」とか言っちゃったりして随分自由な感じである。
ヤスパースは現象学の原則に立って、説明のための理論を作らないことを強調する。同時代の全く立場を異にするアメリカ行動主義のワトソンと結果的に目指すところが似通っているところが面白い。
そのために記述を徹底的にしていく。どんなことも聞き漏らさず記録するというわけだけど、さすがにこのあたりは実現困難と思ったのか、「総論」ではかなりトーンダウンしている。
結局精神病理学は精神分析などを取り込んだりしながらむしろ理論を構築する方向にシフトしていくわけなのだけれど、「理論を作らない」というテーゼは学問的な純粋さだけでなく、対象を解明することに対するオプティミズムが不可欠なわけで。結局理論の魔力に打ち勝てないのは、われわれが対象についてあまりにも知らなさすぎるせいなのだろう。翻って現在の生物学的な精神医学も理論を作らないことが自然科学として当然という立場なんだろうけど、これもやはりオプティミズムにしっかり裏打ちされてるような気がする。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
興味が強まっているヤスパース、立ち読みしたら驚くほど明快だったので買ってしまった。
読み終えるのはいつになるだろうか。 -
精神病理学原論
(和書)2012年04月10日 11:52
カール ヤスパース みすず書房 1971年1月
ハンナ・アーレントさんの師であることで有名で、僕もそれで知りました。この本の前には「哲学」を一冊読んでいましたが、ヤスパースさんもなかなか凄い。
今回の「精神病理学原論」は「精神病理学総論」の初版本で比較的読みやすいものだとありました。しかし「精神病理学総論」は図書館で検索しても我が県では上中下をそろえて読むことはできません。
この本は、僕がいままで感じてきた精神医学の疑問点を見事に突いています。今の医者は病状を詳しく患者と話し合い、洞察し診断するというより精神薬理学といういかさまをしているように感じます。理由はわからないけど効果があるというその理屈に、思考停止しそれによって人を人間を患者を貶めるように感じるところがあります。
そのように人を洞察することなく機械的に薬を処方する姿勢をヤスパースさんの考えは見事に批判しているように感じます。
ヤスパースさんは最近あまり注目されてはいないと「哲学」の解説に書いてありました。しかし実際読んでみると、何故現在注目されないのかわかります。それはヤスパースさんの所為ではなく、今の社会の人間に対する姿勢自体が問われるべきであり、そして自分自身を問うという根本的な姿勢を問うことである。そういった姿勢はアーレントさんにもかなり影響を与えています。実存ということ、アーレントさんによれば自分と矛盾することはできないという稀有な人々についてそういったものが精神病理学で主題として扱われている。そうなんだ僕はこういった精神病理学の存在を求めていたのだとおもえました。 -
心の師匠の遺言で、ワタシはこの本を、年に1回必ず人知れず読み直すことに決めたのでした。