精神の氷点

著者 :
  • みすず書房
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (153ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622045304

感想・レビュー・書評

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  • 大西巨人、幻の処女作とも言われる本作。

    元々のタイトルは『煉獄の門』、煉獄とはつまり、 天国と地獄の間において、罪を犯した死者の霊魂が火によって浄化されるといわれている所。改題した氷点も、これは水が氷結する、または氷が融解する温度。人間を取り戻すか、精神を凍らせ堕ち続けるか。

    生殺与奪を握られたアイツに対して、凶行、不貞の妄想に取り憑かれ、かつ、それを実践する事で自らの世界をギリギリ保ち得ながらも、しかし何物にもなれぬ自分自身をどこにも向かえぬ国家国民の虚無、虚脱に重ね、無為徒食のデカダンスへ。自作した地獄は如何様か。

    ーどうしても彼が肯定し得ない、だが、生臭い現実として万象を巻き込んでいる戦争、すなわち、集団的人殺しに参加する前に、まず自分の自己個人の意思で人を殺し、人間と社会と総じて世界一般が何物でもないことを証明しなければならない

    人間の被虐的なナルシシズム、偽悪を表層的に抉りながら、サイコパスにもなり切れぬ、狭間の苦悶を煉獄として描いた純文学。戦争が齎した自暴自棄と言えば安易だったろうか。性愛に溺れる男女の葛藤も見所である。ドキドキした。

  • 難しすぎて感想を書いちゃいけない気がするけど、わからなかったなりに記録に残しておこう。
    著者と経歴が被る主人公。
    絶えず虚無感が流れていて、読んでいて悲しく暗くなる。
    氷点の瞬間。魂の黒点。背日的。陰鬱。暗澹。デカダンス。虚無。
    概念というか思想というか、体制というか主義というか、意味がわかるようなわからないような…。
    中身も難解で、その前に言葉や人名をスマホで検索しながらで、両方の意味で読むのが大変だった。
    このような本を読むと、酒を飲んで仕事に行かなくなりそうで怖いとも思った。
    成田さんの読書リスト、一冊目から凄すぎた。

  • 大西巨人の処女作。戦中戦後の精神の抑圧期に魂の深淵を穿ち弄る青年復員者の葛藤は、そのまま著者の心情の憑依だったのだろう。真の絶望を体感した者にしか表出できぬ絶大の虚無が全体を横臥し、非人間的で悍ましく利己的な行為を主人公に敢行させる。慄然とした。神は存在しない、死後の世界も来世もない、だからこそ生きているうちに再生を為さねばならぬ。漸く最後の最後に虚無を超克する大きい肯定へ導く〈あるもの〉が仄めかされる。それは今後の大西自身にとって絶対的に必要な〈あるもの〉であり、『神聖喜劇』へと繋がる重要な萌芽となる。

  • 人生の終わりが決まっていることへの圧倒的不安と共に、終わると思って過ごしていたのに生きて帰ってきてしまうその後の物語はとても苦しいものがありました。
    戦争というものが人に与える負の影響を感じ取れる一冊でした。

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著者プロフィール

作家(1916年8月20日~2014年3月12日)。福岡県生まれ。九州帝国法文学部政治学科中退。新聞社勤務の後、1941年12月召集され、以後敗戦まで対馬で兵営生活を送る。敗戦後、福岡で発刊された『文化展望』の編集に携わる傍ら、文筆活動を開始する。46年新日本文学会に入会、以後『近代文学』や記録芸術の会など、さまざまな文学芸術運動に関わる。48年日本共産党に入党、61年以降は関わりがなくなるが、コミュニストとしての立場は生涯変わらなかった。公正・平等な社会の実現を希求し、論理性と律動性とを兼ね備えた文章によって個人の当為を形象化する試みを続けた。1955年から25年の歳月を費やして完成した『神聖喜劇』は、軍隊を日本社会の縮図ととらえ、主人公の青年東堂太郎の精神遍歴の検証を通じて絶望的な状況の中での現実変革の可能性を探った大作で、高い評価を受けている。ほかの小説に『精神の氷点』(1948年)、『天路の奈落』(1984年)、『三位一体の神話』(1992年)、『深淵』(2004年)、批評集に『大西巨人文藝論叢』(立風書房、全2巻)、『大西巨人文選』(みすず書房、全4巻)など。

「2017年 『歴史の総合者として』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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