ヒトの変異: 人体の遺伝的多様性について

  • みすず書房
3.64
  • (7)
  • (8)
  • (11)
  • (0)
  • (2)
本棚登録 : 91
感想 : 6
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622072195

作品紹介・あらすじ

「私たちはみなミュータントなのだ。ただその程度が、人によって違うだけなのだ」ヒトの変異をめぐる歴史と科学を織り合わせた艶やかな語りで読者を魅了する。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  すげー。『ヒトの変異~人体の遺伝的多様性について』(アルマン・マリー・ルロワ/上野直人監修/築地誠子訳/みすず書房)は、重い奇形を持つ人々をとりあげ、その奇形がどのような遺伝子の変異によって生まれたのかを解読していくという本。
    『脳のなかの幽霊』で、ラマチャンドランは、脳に障害を持つ人々を研究することで、脳のどんな部分がどんな役割を持っているのかを明らかにしている。この『ヒトの変異』で著者は、重い奇形を持つ人々を研究することで、遺伝子がどうやって人間を作るのかに迫っている、と言えるだろう。

     さて、なにがすげーというかというと、図版類を豊富に引用しているところ。絵で、写真で、そして標本で……遠くない昔においては「怪物」とされた人々の姿が残され、そしてこの本に掲載されている。
     たとえば、「エレファントマン」ことジョゼフ・メリック。彼は「プロテウス症候群」だったといまでは考えられている。成長促進ホルモンの一種・IGF-1は、常に適切に抑制されていなければならない。プロテウス症候群は、その抑制因子に障害がおこったため、全身にひどいガンがおこってしまう障害だ。28歳まで生きたメリックは幸運だと言えるかもしれない。そして、この本には腫瘍に食い破られた無惨な彼の頭蓋骨が掲載されている。
    「進行性化骨性繊維異形成症(FOP)」とは、骨芽細胞が体中で増殖して好き勝手に骨を形成するという奇病で、これはBMP(骨形成タンパク質……某牛乳のネーミングはここから)のコントロールに問題があることから起こる。この病気だったハリー・イーストラックというアメリカ人男性は、大人になるにつれてどんどん骨と骨の間に橋がかかり、体が自由に動かせなくなっていった。この本には23歳のときの彼の写真と、死後に本人の希望によってつくられた彼の骨格標本(あっちこっちが骨の板のようになっている)の写真が掲載されている。

     しかし、こういったショッキングな人体が、場合によってはたった数個の遺伝子の変異によってつくられるのだというのが、ふたたびすげーのだ。私たちは多かれ少なかれ、ゲノムに両親にはなかった「変異」を持っている。その中で、深刻に人体に有害な変異もあれば、少々毛深かったり、がにまただったりというくらいですむ変異もある。「私たちはみなミュータントなのだ。ただその程度が、人によって違うだけなのだ」という序章結びの言葉は、この本を読む人みなが心に刻むに違いない。
     どこからが正常で、どこからが異常なのか。その境界はたぶん決められない。ヒトは限りない「多様性」を持っていて、頭が二つあるヒトも、両性の性器を併せ持つヒトも、私と地続きでつながっていることが、この本でしっかりと理解できた。
     

  • 『ぼくらの頭脳の鍛え方』
    書斎の本棚から百冊(立花隆選)25
    人類史・文化人類学
    人間のさまざまな奇形がわからないと人間の正常がわからない。ヒトはかくも変異する。

  • 遺伝子的欠損等による先天的異常についての本になります(奇形というコトバは使わないようですね)。挿絵はとてもショッキングなものもありますが、内容はとてもまじめなものです。この辺りはみすず書房は信頼できる出版社だと勝手に思っています。

    シャムの双生児や小人症、多毛症などについて、固有名詞付きで歴史的経緯含めて書かれていて、こういうことってきっちり記録されているもんだという感想と、随分としっかりと調査をしたんだなと感心しました。また自分がきちんと理解できたとは思えませんが、こういう病気のことも胚の発生からしてかなり思っているよりも多くのことが分かっているようで、驚きがあります。
    それにしても精妙な遺伝子と胚の発生の世界ですね。自分の体のことでもあるのですが、全く不思議です。

    構成がやや散漫であったり、変に文学的なまとめ方をしてしまったりといったところで不満なところもありですが、興味深く読ませていただきました。

  • イギリス・インペリアルカレッジ・ロンドンの進化発生生物学部門のリーダーである著者が、ヒトの様々な多様性の実例とその背景について紹介している。

    多様性の主な理由として遺伝子の変異を中心に話が進められているが、読み進めていけばヒトの多様性が遺伝子のみによるものでない事を理解し、そもそも「変異」とは何かという点について考えを巡らすのではないだろうか。

    生物はクローンでない限り全く同一のものは存在しない。それはヒトにおいても例外ではなく、それこそがヒトの多様性を生む基盤となっている。現在特定の疾患とされている状態は、人種の違いとされる肌や髪の色の濃さと遺伝子の変異等による影響の違いという意味において同じであり、だからこそ著者の一言が心に重く響く。

    「私たちはみなミュータントなのだ。ただその程度が、人によって違うだけなのだ。」

  • 神話や史実を含め「奇形」を怪物扱いした発生原因論争の昔から、遺伝子多型まで、身体の仕組みをめぐる科学と社会の偏見の溝にせまり、我々は皆ミュータントだと見地。「差異」事象をキーに科学し、喪失と獲得の意味を再構築して、文化社会に橋わたししようとする本。

全6件中 1 - 6件を表示

築地誠子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×