- Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
- / ISBN・EAN: 9784622074809
作品紹介・あらすじ
1975年に発表されて以来、今日でも幾度となく言及される「笠原・木村分類」論文をはじめ、「うつ病の病前性格について」など、わが国のうつ病臨床において先駆的な研究を発表し、長らく日本の精神医学の発展を支えてきた著者による臨床論集。
感想・レビュー・書評
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DSM以前に作ろうとしていたうつ病類型のたたき台。少し古く感じた。
・ただ、予約制で受診者を制限した代償に、一度診察した人はできるだけ長く診た。うつ病では平均2~3年、一番長い人は6年診た。
長期経過を診るのは転勤のない開業医の特典かもしれない。横断面ではわからなかった諸特徴が見えて面白い。操作診断では統合失調症も気分障害もともに急性期に詳しく慢性期に粗で長期経過学はないに等しい。DSM、ICDの欠点だろう。
・他人との円満な関係をのぞむことのなかにある第一の弱点は、他人の是認ないし賞賛なしには自己評価を確立できない点であろう。その場合の他社とは現実の重要な一人物という場合もないではないが、ふつうそうではなく、非現実的に理想化された人物像であるとか、抽象化された社会的規範であることが多い。
…他者によってしか与えられることのない自己評価は、その人をして他者との間に当然あるべき角逐さえ避けさせ、しばしば自分を社会に安売りさせる。楽しみとか遊びさえ、彼らは他者もまたそれによって喜び楽しむことのできるような楽しみしか楽しみえない。他者なしに存立しえない人の自我とは、いってみれば一種の自我欠損である。
第二の弱点としては、個性的な人間関係の不成立をあげるべきだろう。誰とも争わず誰とも円満な関係を維持するということは、相手の個性、相手の誰(who)を無視した画一的人間関係を意味する。相手のwhoよりも相手のwhatの方が問題となる。誰かに帰依するということはありえず、尊重されるのは多数者がよしとする没個性的・平均的価値観である。そして、彼らは人間関係において円満であることの代償として、相手の個性的な心情の機微を察する能力を失う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
うつ病の木村・笠原分類について著者が最近になって改題を行った書籍である。この分類は、DSMやICDなどの現在の状態像からうつ病を診断をするのではなく、「病前性格-発病前状況-病像-治療への反応-経過」という5軸でうつ病を捉えようとしている点に特徴がある。
しかしどのタイプにクライエントが当てはまるかではなく、そのタイプを構成しているいろいろな要素(攻撃性とか秩序愛とか依存性、心身症状など)でクライエントの全体を見ようとする著者の姿勢はまさに臨床家と言えるだろう。またメランコリー親和型性格や循環性格などの性格類型を強迫性格スペクトラムという同次元で捉えようとする試みも興味深い。
しかし一方で生物学的知見からの理解も同様に重視し、精神力動的視点だけに重きを置かない姿勢は見習いたいところだ。精神力動の視点や認知行動療法の視点からうつ病を捉えているわけではないので、面接に直接役に立つ要素は少ないが、見立てを養うには十分である。加えて小精神療法の考え方はブリーフサイコセラピーのそれと似ており、限られた時間の中で精神療法を行ってきた著者のエッセンスが詰まっており、ここだけでも存分に役に立つ。