夜 [新版]

  • みすず書房
4.38
  • (21)
  • (16)
  • (5)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 313
感想 : 19
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622075240

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 時に疑わしい、目を背けたくなるようなシーンも、それはすべてそう遠くない時に現実に起こったことなのである。ホロコーストは名の通りたくさんの人を殺した。身体的にも精神的にもである。生き延びた人にも、癒えることのない傷をつくった。極限状態になり、その人本来の人間性が失われていくことの悲しさったらない。そのような状況をつくりだしてしまったことへの憤りも感じる。
    著者から父への告解のような本だった。しかしそうしたとしても、この罪の意識が彼からなくなることはないのだ。この無力さを著者自身も、そして読者である私自身も感じた。

  • 1944年にアウシュビッツに入れられ、翌年ブーヘンヴァルトで解放を迎えたノーベル平和賞受賞者のエリ・ヴィーゼルは収容所での生活を以下のように振り返っている。私はもはや、日々の一皿のスープ、一切れのすえたパン以外には関心を向けなくなっていた。パン、スープ、これが私の生活の全てだった。私は一個の肉体だった。おそらく、さらにそれ以下のもの、一個の飢えた胃。ただ胃だけが、時が経つのを感じていた。

  • トランシルヴァニアの小都市のユダヤ人コミュニティで、少年は家族と穏やかに暮らしていた。神秘思想に惹かれ、神を信じていた。
    1940年代、ナチス・ドイツの台頭とともに、きな臭い噂は流れてきたものの、小さな街の人々は、どこか高をくくっていた。本当に手遅れになるまで、逃げ出す者もほとんどいなかった。

    そしてついにドイツ軍が姿を現し、人々はなすすべもなくゲットーへ移送され、さらに収容所へと送られる。
    収容所に到着した第一夜、「選別」の場で、少年は文字通りの「地獄」を目にする。そこでは信じられないものが焼かれていた。
    夜の闇の中、穴から立ち上る巨大な炎は、そのとき、少年の<神>と<魂>も焼き尽くしてしまった。

    ホロコーストを生き延びた著者の自伝的作品である。
    著者はこの第一夜の後も、いくつものつらい夜を過ごし、最後に収容所生活を支え合った父を失う夜を迎える。これもまた痛切に心に刻み込まれる夜だった。

    絶望的で残酷な状況を描きつつ、詩的で静謐ですらある文体である。透徹したまなざしの奥の深い悲しみが、切々と胸を打つ。


    *本作品の初版(フランス語による)は1958年刊行であり、邦訳は1967年に出ている。著者の刊行の辞を添えた新版が2007年に出版され、それに伴って邦訳の改稿版が2010年に刊行された。新版への訳者あとがきとヴィーゼルの邦訳書一覧も収録されている。

  • 読むのがとても苦しい本でした。
    著者の心の中、神を信じなくなる過程、父を見捨てざるを得なかった気持ち…全てが重くて痛かったです。

    アウシュヴィッツの過酷さもさることながら書かれている心が刺さりました。
    しかし、辛くて苦しいけれど目を背けてはいけない本だと思います。

  • 読んでいて本当に本当に苦しかった。一刻も早く読み終えてしまいたい気持ちと、ここに書いてあることを残らず胸に刻み付けるためじっくり読みたい気持ちと、板挟みになりながら読んだ。思春期の多感な時期に考えられないほどの残虐性と絶望を味わった作者の、ホロコースト、神の死、世界への呪いが描写されている。人間とは、信仰とは、何もかも剥き出しにされた極限状態を体験し、その証言を行う作者の心境を考えると本当に言葉が見つからない。
    表紙になっているアウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所のガス室壁面がたまらなく重かった。

  •  アウシュヴィッツ=ビルケナウの収容所とそこからの死の行進、そしてブーヘンヴァルトでの解放を迎えるまでを生き抜く著者自身の経験を描いた証言文学作品。これらを経験したときにヴィーゼルが15歳ということもあってか、プリーモ・レーヴィの『アウシュヴィッツは終わらない』やヴィクトール・E・フランクルの『夜と霧』のように、収容所そのものやそこに囚われている人々、さらにナチスの親衛隊員についての考察には乏しいものの、極限状況を生き抜こうとする自己自身の心理を抉り出す筆致は鋭く、読んでいて胸を締めつけられる。みずからの贖罪の意味もあると思われるが、生き残ることの過酷さにこれほど迫った作品は稀であろう。アウシュヴィッツ=ビルケナウに到着した最初の夜、ヴィーゼルは幼い子どもたちが生きたまま焼却炉に投げ込まれるのを目の当たりにする。それ以来、ラビを目指してユダヤ教の教えを真摯に学ぼうと志していた彼の許から神が離れ去って、神の不在の夜が訪れたかのようだ。極限状況を前にして、パウル・ツェランの「テネブレ」を思われるかのように神を睨み返そうとする心情が綴られ、最後には生き残るために弱り果てた父を見捨てるさまが描かれる。ブーヘンヴァルトで父の呼びかけに応えなかったことが、この『夜』をヴィーゼルに書かせたのかもしれない。

全19件中 11 - 19件を表示

エリ・ヴィーゼルの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×