生命の跳躍――進化の10大発明

  • みすず書房
4.03
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感想 : 31
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622075752

作品紹介・あらすじ

進化史に飛躍的な変化をもたらした10のエッセンスを核に、生命の来歴の豊穣な物語を描きあげた一冊。高い評価を得た前著同様、レーンは最大級の謎の数々に大胆かつ周到に挑んでいる。10の革命的「発明」とは、生命の誕生/DNA/光合成/複雑な細胞/有性生殖/運動/視覚/温血性/意識/死。これらはいかに地上に生じ、いかに生物界を変容させたのか?各一章を割き、最新の科学的解釈、および研究最前線に浮かぶスリリングな仮説や手がかりを語り、それらがわれわれにとって意味するものを問いかける。

感想・レビュー・書評

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  • レーンが敢えて「発明」と呼ぶ生命の世界を大きく変えた出来事についてのワクワクする解説。
    どれが欠けても今の生物はなく、かつ生命の歴史という時間軸から見ると、偶然の出来事からかなり短期間で起こったと思われる内容がとてもドラマチックに語られ、飽きさせない。もちろん最新の情報や研究結果に裏付けられたもの。
    やはり生命の誕生だけはいまだ判らないがいずれの話題も興味深い内容ばかり。
    その中でも光合成は印象に残る。光のエネルギーを化学エネルギーに変えることにより太陽の光で生命が維持できるようになった。
    現生命の大部分が直接、間接的にその恩恵に浴しているのだが、その仕組みを得た植物と持たない動物のその後が大きく変わってしまった。
    進化は自然の中の厳しい生存競争で淘汰されずに生き残ったものが進めてきた。
    つまり生きるためにより苦労してきたものが動物になり脊椎動物になり、人間を生み出してきた。
    永遠のユートピアには永遠の未来はないということなのだろう。

  • 期待していたのは「視覚」と「意識」「死」の三つの章。

    まず「視覚」だが、10年前に出た本なので内容についてはそれほど目新しいものはないが、深海の熱水坑で「目」が何の役に立つのか、という問いの提示の仕方などは鋭く、一気に読めてしまう。

    「意識」については期待していたほどではなかった。引用されている学者、ハンフリーやダマシオあたりを読んだ方が詳しいしわかりやすい気もする。

    「死」についてはいつの間にか「どうしたら若さを保てるのか」という内容に変わってしまうような気もしないでもないが、これも期待ほどではなかった。

    どちらかというと期待していなかった「生命の誕生」や「光合成」「複雑な細胞」あたりが抜群におもしろかった。

  • 副題は「進化の10大発明」である。

    「本書で語るのは、進化における最大級の発明たちであり、またそのひとつひとつが生物界をどう変容させたか、われわれ人類がこうした過去を、自然そのものに負けないほどの創意工夫でどのようにして読み取れるようになったか、という話である。」(P.5)

    著者のニック・レーンは、進化の歴史における多くの「発明」の中から以下の基準を設けて10個を選び出した。
    ・生物界を一変させるもの
    ・現在も非常に重要なもの
    ・自然選択による進化の直接的な結果であるもの
    ・象徴性があるもの
    選ばれた生命史上の「10大発明」とは次の通り。
    いずれもその資格があるものだ(温血性が甘いかな?)。

    1. 生命の誕生
    2. DNA
    3. 光合成
    4. 複雑な細胞
    5. 有性生殖
    6. 運動
    7. 視覚
    8. 温血性
    9. 意識
    10.死

    著者は、これらの発明に至った仕組みを最新の科学知見を元に詳細に解説している。 その内容は、...非常に難しい。ここに書かれた事柄を一人の人間が理解して確信を持って記述できるのは、はったりがないとすれば驚異的である。

    内容が難しく、全てが理解できなくとも、この本では改めて全ての生命現象が進化の帰結であることが十全に説明可能であると確信させてくれる。そこには厳然とした確からしさが存在している。
    これらの発明が、変異と淘汰によって推進される進化の賜物であることは間違いない。意識も死も生命現象である限りその例外ではない。意識や死の章の内容がやや消化不良気味であるにしてもだ。

    本書には、いくつもの仮説や想像が含まれているが、科学的思考と検証の結果が詰まっている。まだ分かっていない多くの空隙を将来の作業が埋めていくだろうし、その過程で本書の記載にいくつかの誤りが明らかになるかもしれない。しかし、大筋においてはこのようなものだと信じるに足るものになっている。

    「最大の謎は、複雑な生命の誕生が、地球の生命史全体を通じて一度しかなかった理由だ。 すべての動植物は間違いなく親戚関係にある。つまりわれわれはみな同じ祖先をもつのである。」(p.136)

    そして、最後に置かれた次の文章が、著者が本書で示したかったことを表している。

    「本書で描いた全体像は、真実だと思う。生命はきっと、ここに示したような筋道に沿って進化を遂げたにちがいない。それは独断的思考ではなく、現実において検証され、その結果に応じて修正された証拠なのだ。この壮大なる全体像が、神への信仰心と両立するのかどうかはわからない。進化をよく知る人にとっては両立しても、そうでない人にとっては両立しないこともある。しかし、何を信じていようと、かくも豊富な知識は、驚異と称揚の念をもたらすはずだ。荒涼たる無辺の宇宙に浮かぶ青緑のビー玉で、われわれが周囲の生命とこんなにも多くのことがらを共有しているという事実は、このうえなくすばらしい。生命に対するこうした見方は、単に壮大なだけの話ではない。そこには、不完全さもあれば、荘重さもあり、さらに、知への最高に人間性の豊かな渇望がある」

    生命が、このように生命自身についての知識を持つに至ったことは端的に言って凄いことだと思う。

  • どの章も結論がフワッとしてる。そしていつも裏表紙に大体内容書いてある、みすず書房。

  • 2022/7/6

  • 生物進化における最大の発明は、生物それ自体の誕生だと思う。この本で紹介されている10大発明の中でも、「生命の誕生」(第1章)が一番興味深かった。「意識」(第9章)は2回読んだが、意識の起源が分かったような気にもならなかった。著者も「科学で(まだ)答えがわかっていないばかりか、…どんな答えになりそうなのかも、現時点ではほとんど想像がついていないということを、まず言っておかなければならない。」(348ページ)と書いているくらいだから、分からなくても仕方がないということにしておこう。「死」(第10章)は、生物の死という現象の起源ではなく、生物(特にヒト)の寿命を延ばす可能性についての方に主眼があるようで、ちょっと期待はずれ。

    1 生命の誕生
     LUCA(最後の共通祖先)は、自由生活性の細胞ではなく、アルカリ熱水噴出孔にできた、石の迷路のような鉱物の「細胞」だった。鉄と硫黄とニッケルでできたその壁は、触媒の役割を果たし、天然のプロトン勾配が「細胞」にエネルギーを与えていた。生命は、複雑な分子やエネルギーを生み出す多孔質の岩石として誕生し、すぐにタンパク質やDNAの生成にまで至った。

    2 DNA
     熱水孔の温度勾配で生じた対流と熱拡散によって、ヌクレオチドやRNA分子が鉱物の「細胞」内に濃縮され、温度の振動がRNAの複製を促した。「細胞」の中身が自己複製に必要な原材料の再生に長けていれば、その「細胞」は自己複製を始める。RNAをより安定なDNAに変えるには、逆転写酵素があれば足りた。DNAの複製は、一度は古細菌で、もう一度は細菌で進化した。

    3 光合成
     細菌の光化学系は、2つに分かれた。光化学系Iは、無機物から取り出す電子と光エネルギーを利用して二酸化炭素を有機物に変える。光化学系IIは、酸素発生複合体が水から取り出す電子と光エネルギーを利用してATPを生成する。光化学系IIから光化学系Iに電子が供給されるようになり、酸素発生型光合成をする自由生活性のシアノバクテリアが誕生した。それは、後に宿主細胞に取り込まれて葉緑体になった。

    4 複雑な細胞
     真核生物は、細菌が宿主細胞となる他の原核生物の中に侵入してキメラ細胞を作るという偶然のできごとによって生じた。侵入した細菌は、ミトコンドリアになり、宿主細胞のためにエネルギー生成を行うようになった。膨大なエネルギーコストを免れた宿主細胞は、複雑な細胞に進化することができるようになった。

    5 有性生殖
     選択的干渉(同じ染色体に存在する遺伝子間の干渉)を考慮すると、有性生殖は、ほぼどんな状況でもクローン生殖より有利になる。その差は、集団がきわめて変動しやすく、変異率が高く、選択圧が強い状況で最大になる。宿主細胞の中で細菌(後のミトコンドリア)が暮らしているキメラ細胞は、そのような状況にあった。

    6 運動
     運動性の生物の出現は、生態系の複雑さを増した。運動性をもたらす筋肉は、2つのタンパク質(アクチンとミオシン)の特性を利用して収縮する。これらのタンパク質の起源は、細菌の細胞骨格にまで遡る。細菌と真核生物の細胞骨格のタンパク質は、異なる遺伝子によって指定されているが、構造と機能はよく似ている。

    7 視覚
     感光色素ロドプシンを含有する光受容体細胞は、脊椎動物と無脊椎動物の共通祖先で進化した後、その双方で2種類の細胞(眼と概日時計)に特殊化した。ロドプシンは、藻類の眼点に存在する感光色素でもある。葉緑体は、動物の直接の祖先である原生動物にも見つかっている。眼の起源は、退化した葉緑体かもしれない。

    8 温血性
     ペルム紀の大量絶滅は、火山活動による温室ガスの増加と酸素の減少が原因らしい。生き延びた生物は、酸素を効率的に取り込む能力を有していたはず。さらに、食料の乏しい時代に必要量の窒素を摂取するには、窒素に乏しい植物を大量に食べる必要があった。過剰の炭素を迅速に燃やすことが温血性の獲得につながったのかもしれない。

    9 意識
     ニューロン活性化の何らかのパターンは、何らかの感情を必然的に伴う。感情は、ニューロンの活動にすぎないが、それがリアルに感じられるのは、自然選択という厳しい試練の中で獲得されてきた意味があるからだ。

    10 死
     単細胞生物の原始的なコロニーにも、生殖細胞と体細胞という根本的に異なる2種類の細胞への分化がある。生殖細胞は不死であり、遺伝子を次の世代に渡す。体細胞は使い捨てにされて死ぬ。細胞が分化(特殊化)し始めると、体細胞は生殖細胞に隷属するようになった。細胞が特殊化するほど、生殖細胞にとっての利益が大きくなった。

  • ~脳内にタンパク質のネットワークが実在し、それが一斉に「歌い」、そのメロディーが感情を生み出す、それどころか感情になるものとしよう。またそうした量子の振動が、どうにかしてシナプスの海を「くぐり抜け」(トンネル効果)、対岸にある別の量子を「歌わせて」、その干渉性を脳全体に行きわたらせるとしよう。するとわれわれは脳内にまるごとひとつ、並行宇宙をもっていることになる。~



    生物界の村上春樹、とあとがきにあったが、ドラマティックでメロディアスな文章で綴られている。意識、心の在り処についての章と、命を後世に繋いでいく為に、老いて死にゆくことは生物界に必要な事象なんだとあらためて考えた。
    やがて、そう遠くない将来に訪れる死を穏やかに受け入れようとさらに思った。

  • 生命はなぜ現在のようであるのか(現在のように進化したのか)という壮大なテーマに取り組んでいる。扱う内容は壮大でえてして概観的になりがちなテーマだが、この本は非常に緻密な(原子レベルの)論理を組み立てている。例えば生命の誕生に関して生物の教科書に載っている原始スープ(有機物に満ちた海)に刺激(落雷など)が加わり偶然化学反応が起こり生命が誕生したという、従来のあいまいだがいかにも起こりそうな記述では満足しない。(このあいまいな説に対しても詳細な検証を行い起こり得そうにないことを詳述する)より具体的な、酸性の海の中のアルカリ熱水噴出孔という舞台を選び、無機物が生命(自己複製組織)となりうる可能性を記述する。

  • 161022 中央図書館
    形而上の概念からではなく、多くはリアルな化学プロセスもしくは進化論のフレームで、生命の成り立ちと進化を判りやすく解説。

  • 文体がくどいので読むのに時間がかかったけど、NHKスペシャルの生命大躍進を見てからだと読みやすかったかも。

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著者プロフィール

ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)遺伝・進化・環境部門、UCL Origins of Lifeプログラムリーダー。2015年、Biochemical Society Award(英国生化学会賞)を受賞。著書に、斉藤隆央訳『生命、エネルギー、進化』みすず書房2016、斉藤隆央訳『生命の跳躍』みすず書房2010、斉藤隆央訳『ミトコンドリアが進化を決めた』みすず書房2007、西田睦監訳、遠藤圭子訳『生と死の自然史――進化を統べる酸素』東海大学出版会2006、共著書にLife in the Frozen State, CRC Press, 2004がある。科学書作家としても高い評価を得ており、『生命の跳躍』は王立協会による2010年の科学書賞を受賞。

「2016年 『生命、エネルギー、進化』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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