なぜアーレントが重要なのか 【新装版】

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622086185

作品紹介・あらすじ

全体主義が世界を覆った20世紀、ハンナ・アーレントは未曾有の事態に言葉を与える同時代の道標であった。冷戦崩壊以降、この卓越した政治哲学者への注目はふたたび世界的な高まりを見せている。
そのきかっけを作ったのが本書の著者E・ヤング=ブルーエルである。ブルーエルは学派などをいっさい形成しなかったアーレントのほぼ唯一の弟子といえる人物で、その著『ハンナ・アーレント伝』は最も信頼のおける評伝として高い評価を受け、アーレント再読の機運を生み出した。
本書は『全体主義の起源』『人間の条件』『精神の生活』を軸に、アーレントの思想の根源をとらえ、現代世界の緊迫の問題へとつないでいく。アーレントが徹底して思考したことをそのつどの「今」との関係でどう生かすのかということを、ブルーエルは30年余の内的対話を経て具体的に遂行して見せた。アーレントから学んだ世界への徹底した情熱が、アーレントを鮮やかに甦らせたのである。

感想・レビュー・書評

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  •  アーレントの「弟子」による伝記。アーレントは、もともとカントの根源悪について知りたく、全体主義を掘り下げ、政治の在り方を示しつつ悪を考察した彼女の言説に触れていくのが「近道」だろうという安直な問題意識から傾倒するようになった。もともと「科学技術」というくくりに違和感をぬぐえない私にとって、ヤスパース以降の系統を汲んでいる彼女、そしてその弟子でヤスパースで学位を得ている著者の本に出会えたのは幸運だと思っている。
     ポーランドの連帯、許し、そして判断力と、じっくり読みこみたかった。特に、私自身直観していた、美的判断や趣味概念に関するカントの「判断力批判」が(ちゃんと読め確信できることなのかもしれないけれど…)公的空間、政治領域にまで踏み込めるという筋があると知れたのはうれしかったが、ちゃんと筋を追って考えて確信に至りたい。たまたま出会って借りることのできた本なので、今回は通し読みで終わってしまい残念。
     今後の思索活動の中に、再読スケジュールを立てておかなければ。

  • アーレントのもっとも信頼性の高い伝記である「ハンナ・アーレント伝」(1982)の著者で、アーレントの数少ない直弟子ブルーエルによる約4半世紀ぶりのアーレントについての本。原著は、2006年の出版。

    日本版は、新装になって、かなりおばあちゃんになったアーレントがカバーになったんだけど、これがなんともいい感じに年を取ってんな〜、とどうでもいい感想がまずでてくる。

    ブルーエルは、いわゆるアーレント研究者、哲学者にはならずに、精神分析の世界に進んだので、議論の哲学的な厳密性はあまり期待できないのだが、そんなことは全く問題にはならない。

    これは、アーレントから直接の薫陶をうけた著者が、「全体主義の起源」「人間の条件」「精神の生活」などの主著を踏まえながら、アーレントだったら、今の世の中(911以降の「テロリストとの戦争」など)をどう見ただろう?といった自問自答をベースとした本だ。

    シニカルでシャイで予想不能な方向から現実に迫っていくアーレントの晦渋さになれてしまった私には、ややストレートすぎる感じもなくもないが、やっぱそういうことだろうなと納得するところが多い。

    とくに、未完となった「精神の生活」の解説はすごくいい。

    「精神の生活」の第3部「判断」は、アーレントの思索の到達点として、おそらくは、カントの「判断力批判」をベースとした議論が書かれるはずだったと考えられている。

    ブルエールの推察も概ねそんな感じではあるが、さすが晩年のアーレントを身近でみてきた著者ならではの説得力がある。

    つまり、カントの「判断力批判」の議論を「人間の条件」の「活動」の思想、「全体主義の起源」の「絶対悪」、「エルサレムのアイヒマン」の「悪の凡庸さ」など、アーレントの主となる議論・キーワードとつないで、自らは本を書かなかったソクラテスに一つのあり方を見出していくという方向である。

    そして、その到達点は、たとえば、アーレントの師匠のヤスパースや夫のブリュッヒャーによって生きられたもので、アーレント自身も明確な言語化はしないままにそれを生きた思想であったのだ。

    そして、アーレントが政治的な理想としていた「評議会」は、ユートピア的だと当時は思われていたのだが、アーレントの死後に、それは、ポーランドの「連帯」、チェコの「ビロード革命」、南アフリカの「真実和解」など、現実のものとして、生まれ出ているのだ。

    あらためて、アーレントの根底にある「世界への愛」に感動した。

  • 東2法経図・開架 311.2A/Y95n//K

  • 第一章は「『全体主義の起源』と二十一世紀」、第二章は「『人間の条件』と重要となる活動」、第三章は「『精神の生活』を考える」と題されている。そこで、つい読者としては、その三つの著作が概説されているのかと期待してしまうのだが、言ってみれば著者の重点はむしろ、「二十一世紀」「重要となる活動」「考える」ほうにある。たとえば、ダナ・ヴィラが批判する「許し」の問題への傾注も、複数性という人間の条件、人と人とのあいだで関係をつくり出しながら生きるしかないという人間の試練にとって、「許し」という「活動」が重要となっていくことを、著者は訴える。(矢野久美子)

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著者プロフィール

1946年に生まれる。ニューヨークのニュースクール・フォー・ソーシャルリサーチでハンナ・アーレントを指導教官として学び、1974年博士号取得(哲学専攻)。現在、コロンビア大学精神分析訓練研究所研究員。著書に『ハンナ・アーレント伝』(晶文社、1999)『偏見と差別の解剖』(明石書店、2007)、Anna Freud: A Biography (1988), Mind and the Body Politic (1989), Where Do We Fall When Fall in Love? (2003), Why Arendt Matters(2006, 『なぜアーレントが重要なのか』矢野久美子訳、みすず書房、2008)などがある。

「2017年 『なぜアーレントが重要なのか 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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