- Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
- / ISBN・EAN: 9784622086222
作品紹介・あらすじ
形をなしている文章においても、走り書きのメモにおいても、アルベルト・ジャコメッティは、その造型作品において様式を目ざしたりしてはいないのと同様に、文体というものを目ざしたりしてはいない。彼がしようとしているのはただ、何かをとらえること、言うべきことをつかむことだけだ。今、死の暗いサロンの高い暖炉の上に身を置いて、頭も体もないジャコメッティは、ここに集められた文章と対話を通して語っている。渦をまいて燃える火であることをやめない彼の言葉を。
――ミシェル・レリス
この本を開いて現れる頁のどの片隅においても、アルベルト・ジャコメッティの作品と生をつかさどっていった三つの主な欲動の競合と連動とが疑う余地なく見えてくる。この彫刻家のエネルギーと輝きが、それらの欲動を突き動かし、引っぱり、方向を与え、明確な形を与える。三つの、そのひとつひとつが全きものである源。幼年期、女性、そして死。決してひとつに結ばれたことはなく、決して本当にはばらばらにほどかれたこともない……。書かれた文の一つ一つに、空虚の存在が緊張を、息を、絶えず疑いを忘れぬ力を、そして無限に開かれてゆくその動きを与えている。
――ジャック・デュパン
感想・レビュー・書評
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ジャコメッティについて書かれたものをいくつか読んで、そのなかに哲学者・矢内原が関わっていたものがあったのもあってなんとなくジャコメッティ自身に対しても哲学者的な印象を受けていた。
そして、彼のメモ書きや対話を集めたこの本は、実にその通りだという印象をさらに強めた。
哲学っていうのは世界と自分自身との関わりを客観的に見つめまくることで誰にもであてはまる<自分>対<世界>の公式みたいなものを作る方法なんじゃないかと思うんだけど、言語化しようとする人は言葉の意味が迷子になるくらい定義でがんじがらめの文言を書き、数学が得意な人は本当に数学的公式を作りはじめ、そしてジャコメッティはデッサンや彫刻でそれを追求しようとしているように見える。
人が何かを好むとき、また避けるとき、その深層心理には無意識のうちに行われる取捨選択がある。哲学がその過渡的な過程を取り出して調べるように、ジャコメッティは人がものを見るときに、全体を見る合間に無意識にすばやく細部を見てとっている、その一瞥を掴み出して形にしようとしているように見える。
冒頭の二人の詩人の文章がフランス人らしく修飾節にあふれた文章で読む気を削ぎにくるので、特にミシェル・レリスはカッコの中をバッサリ読み飛ばして前に進むのが良いんじゃないかと。
続くジャック・デュパンはそこまで修飾がくどくなく、さらに文章がたいへん美しいのでこれでちょっと読む気を取戻し、でもまあ面白そうなところだけ拾い読もうとページをめくり始めたらジャコメッティの思想が面白くて結局付箋片手にポエムと落書き以外ぜんぶ読んだ。付箋は30枚くらい貼った。
そんな感じで、時間のあるときにぱらぱら見てみようかな、くらいの気楽さで読み始めると結構ハマるのでは。
内容はとても興味深く、自分の目指す方向を公にも私的にも(その辺の紙に書いたメモにでも)明言して、全然ブレずに嘆いては起き上がるジャコメッティは偉大。面白くないところは読み飛ばしてでも通読できれば、ジャコメッティに興味がある人や、芸術の道に進もうとしている人、はたまたそんな気はまったくない人でも、何かしら貴重な示唆を得るのではないかと。詳細をみるコメント0件をすべて表示