ライフ・プロジェクト

  • みすず書房
4.06
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感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622086406

作品紹介・あらすじ

「科学と人間ドラマの、素晴らしい融合だ」
ロビン・マッカイ(『オブザーバー』紙、ベスト・サイエンス・ブック2016)

1946年のイギリスで、ひとつの研究が始まった。3月のある1週間に生まれたすべての赤ちゃんの生涯を追跡する〈コホート研究〉とよばれるプロジェクトだ。以来科学者は、同様の研究を数回にわたって行ない、成長していく人々の、学習、就職、結婚、死という、人生の全側面を記録してきた。
この試みから明らかになったのは、「いちばん頭の良い労働者階級の子どもは、いちばん愚かな中流、上流階級の子どもに、学校成績であっという間に追い抜かれる」「1970年生まれの子どもたちの所得は、58年生まれの子どもたちの所得よりも、親の所得と強く結びついている」「幼少期にずっと就寝時間が不規則だった子どもは、就寝時間が一部不規則だった子どもより、問題行動を起こすリスクが高い」など、貧困の根深さを示す多様な事実だった。
こうした成果はもちろん、資金難に直面した研究者たちの財政的闘い、政治潮流に翻弄される研究方針、コホートメンバーの人間ドラマまでを、徹底した取材で描き出す、「コホート研究」初のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 「ライフ・プロジェクト 7万人の一生からわかったこと」ヘレン・ピアソン著|日刊ゲンダイDIGITAL(2017/10/25)
    https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/216217

    『ライフ・プロジェクト』|感想・レビュー - 読書メーター
    https://bookmeter.com/books/12283444

    Helen Pearson: The Life Project | ScienceWriters (www.NASW.org)
    https://www.nasw.org/member_article/helen-pearson-life-project

    Helen Pearson, science journalist, author, communicator
    https://helenpearson.info/

    ライフ・プロジェクト | みすず書房
    https://www.msz.co.jp/book/detail/08640/

  • 「コホート研究」というものをご存知だろうか。
    コホートとは統計学である共通の性質を持つ集団を指し、集団を一定期間追跡研究して、例えば疾患や貧困など、何らかの結果の原因となる要因を探すのがコホート研究である。
    さまざまな規模のものが行われるが、本書の主題は、イギリス出生コホート研究という、大規模に長期間行われているプロジェクトである。
    ある年のある1週間に、イギリス全土で生まれた1万人程度の赤ちゃんを、出生時(場合によっては出生前)から追い続け、定期的にさまざまな調査質問を行う。世帯収入、食事情、兄弟の有無、教育環境、多種多様な要因がある中で、どういったことが人々のその後の人生に影響を及ぼすのかを追う、息の長い研究だ

    出生時から多数の人を追いかけ続ける研究には困難が付きまとう。
    多くの対象者の了承を得なければならないし、調査には人手がかかり、もちろん、それに伴う費用も莫大になる。煩雑な質問にも協力的に答えてもらわなければならないし、引っ越しなどで所在が不明になることもある。

    イギリスでは大まかに5つの出生コホート研究がおこなわれてきており、最も古いものは1946年に遡る。
    こうした研究は立ち上げ時にも、そして研究途中でも、幾度となく打ち切りの危機に見舞われた。研究者たちは、資金を得るために奮闘し、政治の潮流に翻弄され、社会学や医学といった異なる立場を乗り越え、コホート研究の存続を守り続けてきた。
    その中から明らかになってきたのは、貧困が子供の学業成績に深刻な影響を及ぼすこと、幼少時の不規則な就寝時間が長じてからの問題行動と関連の深いこと、時代によって親世代の貧困から抜け出せる子供の割合が異なることなどがあぶりだされてきた。
    こうした研究をもとに、教育を改善する政策が作られ、功を奏した例もある。

    対象の数が多いと、調査自体も大変だが、その後のデータ整理も膨大なものとなる。
    初期の研究ではまだコンピュータやネットワークが発達しておらず、箱にぎっしり詰まったパンチカードを人力で整理していた。
    こうした研究では、過去の知識では想像もできなかったものが重要な要因であることが判明する可能性もあり、調査項目もなるべく広く、さまざまなものを網羅することが望ましい。何せ、最初のコホート研究が始まったころには、DNA二重らせんの存在すら知られていなかったのだ。
    集めたデータや試料は、適切に保管されていれば、コホート研究運営に携わった研究者だけでなく、のちの研究者が別の視点から解析することも可能だ。例えば胎盤や尿が役に立つかもしれないし、例えば子供が残した絵が何かの傾向を示すかもしれない。
    コホートのデータは紆余曲折を経て、コンピュータ管理のもとに置かれ、非営利的研究に役立てられている。

    本書は、それぞれのコホートの歴史を追うとともに、携わった研究者たちの人間ドラマ、コホートメンバーの声も丹念に集め、この大規模な研究を生き生きと描き出している。

    最初のコホートが生まれて71年。そう遠くないうちに、ある期間に生を受けた集団を、生まれてから墓場まで追い続ける、異例の研究が完了する。認知症や老化など、高齢化社会のさまざまな問題に関する貴重な知見を得るべく、調査は続けられている。

  • イギリスで人口減少をきっかけに、周産期死亡を調べる調査が行われる。
    その調査は継続され、人間の一生をたどる調査となる。その価値に気がついて、12年後にも、そのまた後にも、また同じ調査がスタートする。
    当初予想もしない成果を生み出し続けるコホート研究の全容。プロジェクトXみたいな、群像劇でもあり、面白い。研究でわかったことが、現在の格差論の証跡になったり、すぐに結果の出ない研究がどれほど社会に影響を与えるのか、どんなに面白いものか、よくわかる。

    ただ、困難な状況に生まれた子供は、しばしば困難な状況に陥り、苦労と失敗のリスクが高く、悪いことに遭遇しがち、など。研究でわかったことの中には、経験的に知られていた事実も多い。

  • 【ライフ・プロジェクト】
    普通の人間の生涯を一生分追ってみたら、人間の一生に関して、ものすごい量のデータが出てきた研究のこと。社会の概念、医療の常識、人生の不思議を統計的手法で解き明かすための、データ整理プロジェクトに奔走した研究者の物語。
    物語では、今のように簡単にデータ分析ができない時代に、大量のデータを集める計画を実行することの難しさが際立ってる。
    処理技術が理論に追いついた後は、爆発的にデータの利用が進んで数えきれない知識が得られたこと。その結果、我々がいま当然のように持っている人生に関する知識が判明したこと。
    親世代の社会的/経済的階層が子世代に引き継がれる...幼少期の健康リスクが生涯に渡って影響を与え続ける...
    主張の根拠を整理するデータ分析は、とっても面白い。一方で、データ分析をデータ遊びにしないためにも、最終的に何を得られるか考えるための一冊にも。

    #読書 #疫学 #経済学 #統計 #みすず書房

  • ☆コホート研究

  • 180714 中央図書館

  • 貧困は遺伝するのか?
    そのリスクが高い事は否定できないが、適切な動機とチャンス、支援が見つかれば人は困難を乗り越えられる。
    最初で最強の緩衝材は2、3歳までの子供に対する親の関心と関与。
    関心のある親がいることの効果は、不利を克服する助けになる。それは幼少期であろうと少年期であろうと。
    例えば、子供に話しかけたり耳を傾けたり、温かく接しており、規則正しい食事や就寝など。
    子供を元気付け、読み聞かせをし、外に連れ出し、共に時間を過ごすことが重要である。

    また、人生のいかなる時点でも、教育で状況を好転させることができる。十分な意欲と支援があれば、人は人生のいかなる時でもステップアップすることができる。

    自制心が高い子は、中年期に不健康になるリスクが低い。
    忍耐や根気のようなスキルは、人生の成功の重要な予測因子である。



  • 社会階級は固定されるのか。階級があるとなぜいけないのか。イギリスコホート研究が始まったのは、1958年。3月のある州に生まれたほぼ全ての赤ん坊の記録を開始した。17000人の赤ん坊とその母親の調査は、ジェームスダグラス31歳に任された。その結果は、最下層の赤ん坊の方が…。

  • レビューはブログにて
    https://ameblo.jp/w92-3/entry-12341220477.html

  • タバコを吸うとガンになるか調べたいとき、科学的な方法はこうだ。
    相当数の老若男女を集めて、ランダムに2つのグループに分ける。片方のグループには毎日タバコを吸わせ、片方には吸わせない。その状態を維持して、数年後、数十年後に、どちらのグループが何人、肺がんになったか調べるのだ。

    もちろんこんな実験はできないけれど、「出生コホート研究」がその代わりになる。あるタイミングで生まれた数千人、数万人の赤ん坊に対して、その後の人生のいくつかのタイミングで詳細な調査を行う。出生時の体重、住んでいる場所、両親の収入、学校の成績、タバコを吸うかどうか、健康状態、当人の収入・・・そうして蓄えられた膨大なデータを分析して、因果関係を見つけ出すのだ。親の収入と子供の成績に関係はあるか。妊娠中に母親が飲酒していると子供に影響があるか。喫煙と肺がんは因果関係があるのか。母乳で育てたほうがよいのか。自制心と健康はどんな関係があるのか・・・

    こうした答えはみんな知りたいと思うけれど、奇妙なことに、本書の主題はそこにはない。出生コホート研究の結果ではなくて、出生コホート研究そのものがテーマなのだ。研究を主導したキーマンたちの考えたこと、予算を確保する苦労、長年に渡る追跡調査の困難さ・・・いや、それは大事なことだとは思うけど、とりあえず「規則正しい睡眠と問題行動の関係」についてもう少し詳しく知りたいんだけど・・・と思ってしまう。
    なんだか不思議な本だった。

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著者プロフィール

ジャーナリスト、『ネイチャー』誌のエディター。2010年ウィスター研究所科学ジャーナリズム賞受賞。イギリス・サイエンスライター協会の大賞も2回受賞。遺伝学の博士号を持つ。著書に『ライフ・プロジェクト』(大田直子訳、みすず書房)ほか。

「2017年 『ライフ・プロジェクト』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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