専門知は、もういらないのか

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622088165

作品紹介・あらすじ

20世紀初頭まで、政治や知的活動への参加は一部の特権階級に限られていたが、後の社会変化で門戸は大きく開かれた。それは人びとのリテラシーを高め、新たな啓蒙の時代を招来するはずだった。ところが今、これほど多くの人が、これほど大量の知識へのアクセスをもちながら、あまり学ぼうとせず、各分野で専門家が蓄積してきた専門知を尊重しない時代を迎えている。
ゆがんだ平等意識。民主主義のはき違え。自分の願望や信念に沿う情報だけを集める「確証バイアス」。都合の悪い事実をフェイクと呼び、ネット検索に基づく主張と専門家の見識を同じ土俵に乗せる。何もかも意見の違いですますことはできない、正しいこともあれば間違ったこともあるという反論には、「非民主的なエリート主義」の烙印を押す。これでは、正しい情報に基づいた議論で合意を形成することは難しく、民主主義による政治も機能しない。
原因はインターネット、エンターテイメントと化したニュース報道、お客さま本位の大学教育。無知を恥じない態度は、トランプ大統領やブレグジットに見るように、事実ではなく「感情」に訴えるポピュリズム政治の培養土となっている。または逆に、知識をもつ専門家による支配、テクノクラシーを招く恐れもある。
本書が考察しているアメリカの状況は対岸の火事ではない。専門知を上手く活かして、よりよい市民社会をつくるための一冊。

感想・レビュー・書評

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  • Chat GPTが使いこなされるようになると、恐らく専門知に対する社会の中での扱いは、更に変わってくる。ハルシネーションを見抜けず、しかし、自分も議論に参加できる資格を得たようなつもりになり、やることなす事批評したがる層が増えるだろう。中野信子の講演で、こうした自粛警察的な人間の行動は脳科学的に解明されているものとの話があった。コロナ禍以前にも直面していたが、更に傾向が強まっている。

    民主主義社会は、あれこれ意見の出る公共空間があり、常に既成の知識に挑戦しようとする特徴がある。熟議の責任を負うのは、その結論を導いたマスである。孤独な正解者を社会的にリンチした後、それを知らずに呑気に破滅していく世界も、実は我々と隣り合わせだ。それだけ、民主主義や数の暴力は危うい。新聞の購読率は高齢者の消費傾向に救われ急激な低下はしていないが、新書のベストセラーは日本人口の1%、読解し、思考する層はその程度で、多くは与党と野党のマニフェストの違いや税金の用途さえ知らず、必死に働き、のんびりエンタメコンテンツを浴びる日々を送る。

    専門知は必要だが、それが開放され、ネット経由で気軽に取得でき、大衆が大好きなお喋りやリンチへの参加券を手にし易くなった事には相応の危険がある。そもそも専門知とは定義を絞り込む過程で専門用語への置換を何層にも重ねる事で、原理、法理のフォーミュラを美しくした結果、醸成されるという性質を持つ。限定合理的な参加券の発行枚数が増え、数の暴力で査読を経た論説を覆しながら、反知性が市民権を得ていく事は恐怖だ。

  • 職業技術者のはしくれとして背筋が伸びる。謙虚に学びつづけ、社会へ働きかける努力をし続けなくてはならないと思わされる。

    他方、一般の人間(どんな人間もテーマの分野が専門と異なればそれは一般人間だ)は無知を自覚して適切な専門家の意見を乞うべきであり、自らの無知を正当化すべきではないという主張。まったくもって首肯するしかないが、これをあまり教養のない人に求めることの困難さは絶望するに十分だ。

    総じて救いのない本で、答えを求めて読むならば読むべきではない。しかし複雑な問題に安易に答えを求めることこそが専門知の死であり筆者の最も憂うべきことだろう。

  • 本書を読むような人は本書の言っている事にとても共感できるのだろうけれど、
    本書を読まないような人に本書の内容を受け入れてもらう方法を考えると途方に暮れてしまう。
    本書はアメリカの話だが、日本にもほとんどそのまま適用できるだろう。

  • まだ前半部分だけどとてもとても面白いのでSNSやってる全人類読んだ方がいい。
    有名無名問わずバズった投稿にクソリプしたり、レスバしたり、流行の話題にいっちょ噛みしてとんちんかんなご意見をご高説しまくってる「馬鹿」は特にお読みになられた方がよろしいんでしょうけど、そういう方はこの本に行き着くことすらないのだろうなあ。
    運良く出会えた我々(特に何物でもない一般人)は今後の人生に活かすべくきちんと反省し、己の立場をわきまえるべし。

  • 無知浅学層による専門家への疑念・敵愾心に基づく発言が、ネットによって拡大・影響力を持っていることを嘆く本。
    現状分析+愚痴の繰り返しで、内容以上に長く感じるが納得は得られる。もうちょっと纏めてもらえれば、半分のページにできたような気も。
    ボヤキの部分を飛ばしながら、うまく速読するとよい。

  • 私が子供の時にはすでに「大学のレジャーランド化」が言われていたが、アメリカもそれほど変わらないようだ。平成に入ってからの日本の停滞は、大学が人材育成機関として機能しなかったことの証左であると思われるが、アメリカもそうなるのだろうか。

  • 思っている以上に反知性主義的な振る舞いをしているなと省みることになる。知は本来属人的ではない筈だ。本来、知の前に謙虚になるはずが、だからこそそれを理解できる自分を天才だと勘違いする。そこまで行かなくても、権利と知を混同して全ての意見には価値があるとするナルシシズムこそこの状況を生んでいる。当たり前だが、無意味で浅はかな意見もあれば、本物の知もある。理解もあれば誤解もある。それらが等価であるはずがないのだが、こういうことを言うと嫌われるのでひとは、こういう当たり前を否定しようとする。
    しかし本当の問題は、だれが浅はかさ、もしくはその逆を評価するのかという点に帰する。つまり、ひとは誰でも自分の下す評価を疑い得ない。

  • 電子ブックへのリンク:https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000084571(学外からのアクセス方法:1.画面に表示される[学認アカウントをお持ちの方はこちら]をクリック→2.[所属機関の選択]で 神戸大学 を選んで、[選択]をクリック→3.情報基盤センターのID/PWでログイン)【推薦コメント:インターネットが普及し、玉石混淆な情報が絶えず増え続ける現代社会に生きるなかで、情報を利用する側のリテラシーを高めることが重要だということをよく耳にする。しかし、現実問題としていったいどれだけの人がその理念を達成できているのだろうか。本当にリテラシー教育が上手くいっているのならこのようなタイトルの本は出ていないだろう。この本ではそもそもの問題は何で、私たちはどうあるべきなのかを考えるきっかけになると思う。専門知の一番近くにある私たち学生は、将来的に社会に対してその専門知を正しく伝える主な媒体でもあるわけだから、このような本を学生のうちに読んでおくべきだと考える。】

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著者プロフィール

アメリカ海軍大学教校授(国家安全保障問題)。ダートマス大学、ジョージタウン大学での教職を経て現職。コロンビア大学で修士、ジョージタウン大学で博士号を取得。専門はロシア、核戦略、NATO問題。

「2019年 『専門知は、もういらないのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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