認知アポカリプス 文明崩壊の社会学

  • みすず書房 (2023年4月20日発売)
3.50
  • (1)
  • (2)
  • (5)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 88
感想 : 8
サイトに貼り付ける

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

本 ・本 (344ページ) / ISBN・EAN: 9784622096016

作品紹介・あらすじ

人類はいま史上最長の自由時間を手にしている。労働など生命維持のために必要な時間は1800年の48%から11%に減った(フランスでの統計)。先人には夢のようなこの時間が向かう先は、スマートフォンなどの画面である。そこでは正統な学知とデマが対等となり、世界を単純化するストーリーや、注意を惹くためだけに設計された広告が人の認知を奪い合う。AIが人間の仕事を代行するようになれば、自由時間はさらに飛躍的に増えるだろう。しかしそれは意味のあるものを生むために使われるのではなく、認知の争奪戦が繰り広げられる市場でただ蕩尽されて終わる可能性が高い。
高度な文明の源泉は人間の脳である。気候変動などの危機を乗り越える可能性も、人間の脳からしか生まれてこない。この頭脳を働かせることのできる時間が最大化している現在、それを貪ることで利益を上げる経済モデルにわれわれは直面しているのである。この状況は、生存可能性を高めるものとしてヒトが具えてきた生物学的特徴が、テクノロジー社会とミスマッチを起こした結果でもある。
この規制なき認知市場を放置することの意味を、われわれは真剣に考えなければならないだろう。現下の問題は、フェイクや陰謀論や反知性主義などすでに指摘されてきた弊害よりずっと根深く複雑だ。人類史上かつてない課題に、認知科学と社会学からアプローチする異色の試論。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 文明・技術の発達で自由時間が圧倒的に増えたはずの人間だが、得られた自由時間はネット漬けにされている。商売や自己顕示欲を満たすという目的からネット空間やメディアが人々の注目を奪うための戦略に特化していった結果、脳が生理的に注意を向ける仕組みに沿って刹那的な注目→満足を繰り返すことばかりで時間が浪費されるようになり、人類の進歩を促すような長期的な利益が得られなくなっているというのが趣旨だと思う……のだが、広くいろいろな分野の関連情報を次々並べたてているのと結論が弱いためにまとまりがない印象を受けるかも。
    そういった状況に陥っているのは清き人間本性が資本主義や特定の人物・団体の陰謀に歪められているのではなく、むしろ人間本性の正常な発露であることを認めるべきというのは非常に納得できる。それでも結論が「あとはただ自分たちの潜在能力を発掘していけばいいのである」というぼんやりした楽観論なのがちょっと謎だった。民主主義って失敗する運命ですよねとは絶対結論したくないっぽいのだが、この流れだとそれが自然な結論にならない?もう開き直っちゃえばいいのにと思わんでもない。

  • 圧巻。現代世界を「認知市場」という観点から社会的分析を行うブロネールの筆致に面食らう。
    不安や心配という人間の根源的な感情を取り込みながらソーシャルネットワーク世界は無限に肥大化していく。
    ナチュラルでピュアな失われた黄金時代を求めるルソーを源流するとする一派への批判、トランプを筆頭とするネオポピュリズム的言説をまとう人々への分析など、非常に多角的で鋭い論考を堪能できる。主権を持った政府側の一方的な上からの意図的な支配、それに対する素朴な民主主義を掲げる人々の被害者視点からの下からの反抗、両者の分かりやすい対立では収斂しない短期的な利益へと傾倒してしまう「人間」という種に対する批判的分析。
    構造の中に絡め取られる人々。
    フィクションは累積された人々の願望であり、それゆえ時代の風波に適した作品は神格化され、未来を先取りした傑作と称される。
    スマホを使うことはやめられないがどう上手く使うかは考えることができる。
    大きく自由になった人間の精神は瑣末なことに向かうが、その余剰を活用しなければいけない。

  • ふむ

  • スモンビー増えたよね、日本も。

  • 2023.09.16 週刊東洋経済2023.7.15号のブックレビューより。

    「活版印刷技術は中世社会崩壊の遠因になった。支配層以外も情報取得・発信が可能となり、社会秩序がゆらいだ。人類のほとんどがスマホでつながり、AIの普及が始まった今、当時に匹敵する衝撃は不可避だろう。」

  • 文明・技術の発達で圧倒的に増えたはずの自由時間が、インターネットによって増えた筈の時間と認知が奪われ(なにしろ多くのネット上にあるコンテンツは認知を奪い去るような強烈なインパクトとアテンションを発揮してくるのだ、インプレッション数を稼ぐために)、認知が崩壊してしまっている――というのがざっくりとした趣旨。

    読書中、スマホを片手で弄ったりして「正にご指摘の通り!」とタジタジに。

    ”(題名のアポカリプスという言葉は)悪いほうの意味で解釈されるかもしれないといかったわけではない。つまり私には、この世の終わりの形を告げる意図があったというか?そういう解釈が広まったとしてもそれはそれでおもしろい。というのも、そんなふうに解釈する人はここまで読み進んでいないと白状しているようなものだから。そうした人たちはまた、われわれの情報の使い方を吟味する研究者たちが発見した悪い知らせの一つ、つまりソーシャルネットワークで出回る記事をシェアする人の五九%がタイトルだけを読み、中身を読まないということが正しいと証明しているのである。(p.158)”

全8件中 1 - 8件を表示

著者プロフィール

株式会社メディカルクリエイト

「2013年 『今すぐできる!問題解決型思考を身につける基本スキル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

高橋啓の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×