新築がお好きですか?:日本における住宅と政治 (叢書・知を究める)

著者 :
  • ミネルヴァ書房
3.60
  • (4)
  • (13)
  • (11)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 186
感想 : 11
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784623083664

作品紹介・あらすじ

家族を持つようになれば住宅を買う、そのような「持家社会」は、日本においてなぜ形成されてきたのか。本書では、新築住宅を購入するという選択が、様々な個別の法律や規範・慣習などに相互補完的に支えられてきたことを明らかにする。経済面だけでなく、政治の側面からの議論を深めることにより立体的にその「制度」に迫る。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 住宅を持つことが当たり前だという風潮に一矢報いたく、
    また、日本の住宅政策、おかしくないか?という疑問に
    答えを見つけるべく、
    本書を購読。

    結果、私の下記の仮説が裏付けられた。
    ・日本では、住宅の寿命は人1代限りで尽きる。
     いわば住宅のスクラップアンドビルド。

    また、そのような住宅の持ち方を、
    政策(特に税制)も後押ししている。

    では、なぜそのようなことが推奨されるのか。
    私が考えるその答えは、
    「それが日本の経済成長を支えてきたエンジンの1つであり、
     その業界を支える必要があるため」
    だ。
    ただ、人口増減のトレンドを見れば、
    すでに上記の政策で底上げするフェーズではない。
    むしろ、これまでのこの住宅政策によるツケが、
    色々なところに出ている。
    例えば、
    ・空き家が老朽化し町の安全性・景観を損ねている。
    ・個人にとって人生の所得大部分を使い捨て住宅のために投じるのは大きな損失。
    ・町の資産としても、住宅ストックが0である。

    つまり、本書でも述べられている通り、
    戸建て住宅が、公共にとっても個人にとっても
    「負の遺産」になりつつある。


    前置きが長くなったが、下記は印象に残った点。
    ← は私の考え

    ・中古住宅の流通を阻むのは、取引費用の高さ。
     これを整備・改善すれば、流通はしやすくなる。

    ・日本の法制化における土地の扱いは、
     戦後に国有や公共性の優先、などの検討がなされたが、
     結局それらは内部の検討にとどまり、
     土地は依然として他の商品と同じような扱われ方が
     可能となってしまっている。
     
    ←明治憲法が諸悪の根源だったのか。
     いや、墾田永年私財の法か。根深い。

  • ふむ

  • すごく勉強になりました。いろんな謎が解けました

  • とても面白かった。
    日本では持ち家を購入する選択が強化されてきたことを法律、規範、慣習などから説得的に示している。

    「みなし仮設のような実質的な家賃補助を災害復興における中心的な手段として位置づけると、現地主義に基づいた復興が行われるとは限らなくなる。家賃補助を用いて他の利便性の高い地域へ移り住めるとすれば、人々が住み慣れた土地を離れることは十分にありうるからである。しかも、災害によって住宅供給が逼迫し、元の地域での住宅再建に相対的に費用がかさむことになるとその傾向は強まるだろう。反対に言えば、これまでの現地主義的な復興は、そのような費用がかかったとしても現地の復興を目指したものであったと理解できる。」p210

    「本書の議論を踏まえれば、都市の持続可能性を重視して「制度」を変化させようとするときに求められる政策は、一方で少なくとも短期的には今よりも新築住宅を購入する費用を高めて、他方で中古住宅や賃貸住宅にかかる費用をより低くするものになるだろう。新築住宅を大量に供給することを防ぐとともに、それ以外の選択肢を充実させるということになる。そのような政策が実現されれば、新築の住宅が一世代限りで使い捨てられるようなことを防ぎ、人々が生涯で住宅サービスにかける費用を低下させることにもつながる。」p225

    「その第一歩としては、多くの論者が既に指摘しているように、宅地開発と新築住宅建設の抑制、そして、地域における住宅戸数の管理といった手段になるのではないか。」p226

    「これは、所有者のみが土地から得られる開発利益を抑制することも意味する。人口が増加し、住宅への需要が強い時期に、まして個別利益への要求が強い地方議会でそのような決定がなされることは望むべくもないが、現在の状況は違う。既存住宅に住む地域住民にとっても、新築住宅の建設は、自分たちの住宅の価値を下げる可能性がある。利害関係者として、地域での新築住宅の建設に関する意思決定に関与する資格はあるだろうし、そのような関与は新築住宅の抑制にもつながりやすいと考えられる。」p226

  • 行政学者の著者が、先行研究とデータに依拠して、住宅と政治の全体像を描いている。
    日本の持家社会を、人々の住宅をめぐる選択を制約する「制度」そのものであるとし、その「制度」がどのように形成されてきたかを明らかにしている。それは、人々が主に新築の住宅を購入するという選択が、購入者の好みというよりも、様々な個別の法律や規範、慣習などによって相互補完的に支えられてきたということである。一方、人口増加が止まった現在、日本の持家社会は、「負の資産化」など深刻な問題を抱えていると指摘し、人々の選択を徐々に変えていくかたちで新しい「制度」へと誘導していく、長期的な移行のプロセスを考えるべきとしている。
    住宅という身近なテーマについて、制度論をベースに丹念に分析し、政策的含意にも富む内容で、学術研究を社会や一般市民に還元する良書だと感じた。

  • 18/09/30読了

    日本は二元モデル、社会住宅と民間の賃貸が別の性格をもつ構造で、中間層のファミリーは新築で住宅を購入し所有し続けるようになった。
    取引コストが大きいので賃貸や中古の供給が限られる構造で、政府もそこには介入せず持家、新規住宅建設を後押しするような施策をうつ、というのが面白い。やはり家は買うべきなのか、。

    また、震災復興にみる課題について。支援が事後に偏ることは、地方自治体を中心とした防災への投資のインセンティブ損なう、と。また、再分配資金が政治性を帯びるリスクについても。

  • 東2法経図・6F開架 365.3A/Su73s//K

  • 著者 砂原庸介

    【版元】
    ジャンル 政治・法律、社会
    シリーズ 叢書・知を究める 12
    出版年月日 2018年07月20日
    ISBN 9784623083664
    判型・頁数 4-6・266頁
    定価 本体2,800円+税
    http://www.minervashobo.co.jp/book/b370259.html

    【目次】
    序章 本書の課題
     1 都市政治の争点としての住宅
     2 都市と政治権力
     3 都市政治へのアプローチ

    第1章 住宅をめぐる選択
     1 持家住宅か賃貸住宅か
     2 住宅の更新──住宅双六
     3 新築住宅と中古住宅
     4 住宅供給の論理
     5 本章のまとめ

    第2章 住宅への公的介入
     1 住宅政策の考え方とその萌芽
     2 政府による住宅の供給──住宅政策の「三本柱」
     3 住宅政策の転換
     4 国際比較の中の日本
     5 本章のまとめ

    第3章 広がる都市
     1 なぜ都市に住むのか
     2 都市空間の利用
     3 地方自治体の都市政策
     4 都市政治の対立軸
     5 本章のまとめ

    第4章 集合住宅による都市空間の拡大
     1 集合住宅の誕生と普及
     2 分譲マンションという住み方
     3 集合住宅の公共性
     4 分譲マンションの終末期
     5 本章のまとめ

    第5章 「負の資産」をどう扱うか
     1 増加する空き家とその弊害
     2 空き家対策の進展と限界
     3 災害による住宅の被害と救済
     4 平時と災害時をつなげる政策
     5 本章のまとめ

    終章 「制度」は変わるか
     1 本書の議論
     2 住宅政策のゆくえ

    参考文献
    あとがき
    索  引

全11件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

神戸大学教授

「2023年 『世の中を知る、考える、変えていく』 で使われていた紹介文から引用しています。」

砂原庸介の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×