政策と地域 (これからの公共政策学 4)

制作 : 焦 従勉  藤井誠一郎 
  • ミネルヴァ書房
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784623086870

作品紹介・あらすじ

地域には防災、医療、移民、町並み保存、清掃、地域開発などそれぞれ独自の課題が山積している。本書では地域の持続可能性をキーワードに国内、海外の事例を紹介する。国や地域を横断し政策の成功例と失敗例を学び、波及した政策、地域間の協力事例など具体例から課題解決に向けた方略をさぐる。

感想・レビュー・書評

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  • 東2法経図・6F開架:301A/Ko79k/4/K

  • 委託化を推進していく際には、恐らくは現業職員から何らかの反応があると思われるが、彼らからの提案が現業職員の強みを生かして住民サービスを向上させていく新たな政策や施策への提言であるならば、柔軟に対応していくことが求められよう。
    (引用) これからの公共政策学④ 政策と地域、監修者:佐野亘・山谷清志、編著者:焦従勉・藤井誠一郎、発行所:株式会社ミネルヴァ書房、2020年、162

    2020年、ミネルヴァ書房による「これからの公共政策学」シリーズ(全7シリーズの予定)のうち、まず、トップバッターとして「政策と地域」が刊行された。
    この「政策と地域」では、防災政策、消防行政、医療政策、多文化共生政策、町並み保存政策、現業現場の委託化政策、エネルギー政策など、「政策」が作用する現場となる「地域」という関係性を念頭に置いて、豊富な事例とともに論じられている。

    防災政策では、2013年の災害対策基本法の改正によって追加された「地区防災計画制度」について、神戸市真陽区の取り組みを事例として論じている。
    つい先日も「令和2年7月豪雨」が熊本県を中心に襲った。甚大な被害を受けた人吉市では、市長が防災無線で垂直避難等を呼びかけたが、むなしくも大雨の音で掻き消された。また、防災無線といえば、私は、3.11の東日本大震災を思い出す。南三陸町の防災庁舎に残り、最後まで高台避難を呼びかけた遠藤未希さん。町民を救おうと懸命に声を発したが、自分自身が巨大な津波の犠牲になられてしまった。

    行政職員は、災害後の復旧、復興を見据える意味でも貴重な存在である。いかに職員が犠牲にならず、住民が迫りくる災害の危機をいち早く知り、迅速に避難行動を起こすかについては、まず、各地域における自助、そして共助の体制を整えておく必要があると改めて感じた。それは、同じ3.11のとき、日頃の津波教育から自主的に子どもたちが避難し、99.8%の小中学生が助かった「釜石の奇跡」を思い出す。そのためには、今後の南海トラフ地震の発生が懸念される神戸市真陽区の取り組みは、住民が自主的に避難しやすいような防災マップを作成しているところから、有効であると感じた。

    また、本書を読み、私が面白いと感じたのは、冒頭にも記した清掃事業の委託化政策である。現在、各自治体は、行政改革の一環として、アウトソーシングをすすめる。本書においても、「ごみ収集、学校給食、学校用務事務等に従事する現業職は委託化の対象とされ(同書、143)」との記述があり、民間事業者による新たな行政サービスとコスト削減について論じている。
    その中で、八王子市の清掃事業の取り組みが面白い。全国的な委託化政策が展開され、職を失う現業職員が多く出ている状況の中で、八王子市職員組合は、自ら生き残るために、現業職の仕事に「付加価値」をつけることに成功した。具体的には、ごみの有料化と個別収集を行うことについて市民アンケートをしたり、制度変更の説明を市民に直接行ったりして、「脱・単純労務職」という方向性を見出した。

    民営化への流れは、誰のせいにしても始まらない。現業職員も危機感があれば、生き残るためには「自ら変わろう」とする。いままでの仕事に付加価値がつけば、引き続き行政職員も現業職員を雇用する説明責任が果たせることになるだろう。どの自治体の現業職員も今までの実績を強みとし、行政と協力しながら付加価値を見出し、顧客である住民に対して行政サービスを向上させていかなければならないと感じた。

    地域があり、その地域を持続可能とするために政策がある。本書では、地域の持続可能性とは、3つの"e"、すなわちeconomy(経済)、ecology(環境)とequity(社会的公正)を意味する(同書、2)としている。これら3つの側面が折り重なり、持続可能な社会を構築していくためには、まず、住民の力を無視してはいけないと感じた。
    公務員、そして公務員を目指すかたたちへ、本書をおすすめしたい。

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