- Amazon.co.jp ・本 (397ページ)
- / ISBN・EAN: 9784634150744
作品紹介・あらすじ
「恋は貴族、闘いは武士」と考えるのが一般的だが、人は誰でも抵抗もすれば恋もする。いつの世も時代を超えて、人びとは切ない想いとともに苦悩する。世俗への抵抗、暗殺の謀議、恋の復讐、密会現場の惨劇など、これまで正史ではあまり語られることのなかった史実から新たな中世を描く話題作。
感想・レビュー・書評
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武士の恋、貴族の戦いというステレオタイプなイメージとは逆の要素を論じる歴史書。源頼朝の入内工作では土御門通親からの働きかけを重視する。
源頼朝は建久六年(一一九五年)に政子や大姫、頼家ら一家揃って上洛した。大姫を後鳥羽天皇への妃にする入内工作を目的としていた。これには様々な評価がある。
第一には京都育ちの貴族である頼朝の古さとする。頼朝も平清盛と同じメンタリティだったとする。
第二に二代目の頼家の権威を盤石にするために朝廷の権威が必要だったとする(呉座勇一『頼朝と義時 武家政権の誕生』講談社現代新書、2021年)。
「頼朝にとって重要であったのは、鎌倉殿という幕府内の地位を、自己の子孫たちにいかに継承させるかであり、源家棟梁家を天皇との婚姻関係により権威づけることで、血統の存続を担保しようとしたのであろう」(菱沼一憲『源頼朝 鎌倉幕府草創への道』戒光祥出版、2017年、15頁)
自分自身は朝廷だろうと何だろうと恐れることはなかった。しかし、自分の権勢が自分の息子に継承されることに自信がなかった。そのために朝廷の権威を利用する必要があったとする。
第三に娘婿を新たな鎌倉殿にしようとしたとする。「後鳥羽と大姫の間に生まれた皇子を、新しい鎌倉殿として迎える」(西股総生『鎌倉草創 東国武士たちの革命戦争』ワン・パブリッシング、2022年、139頁)
河内源氏は在地勢力の娘婿となることで発展した。源頼義は平忠常の乱の鎮圧に失敗した桓武平氏の平直方の婿となり、鎌倉を譲り受けた。源義朝は三浦義明、頼朝は北条時政の婿になった。頼朝は逆に天皇を婿としようとした。この説では頼家の立場がなくなる。源氏嫡流断絶後に執権北条氏は摂家将軍や宮将軍を迎えることになるが、これも頼朝の路線に沿ったものになる。
第四に土御門通親からの働きかけとする。「鎌倉の武家を王朝体制下で順応させようとした方策」とする(関幸彦『恋する武士 闘う貴族』山川出版社、2015年、273頁)。頼朝は通親に手玉にとられた面がある。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
自害=「負けない敗れ方」に唸った。なるほど…。
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十世紀から十四世紀、平安、鎌倉、南北朝にわたる人物たちを介し、闘う武士、恋する貴族の常識を離れて中世の諸相を切り取った一冊。明治以降の通念・通説を是正するための試みとありましたが、無理くりな主観というわけでなく、とても面白かったです。後半の貴族は、名前がこんがらがってなかなか読み進めない、初歩的なことに苦労しましたが、前半の武士の恋がらみは例え悲劇でも目を離せなくなるくらい引き込まれました。もちろん、闘う貴族もぐいぐいきましたが。著者様の他の本も、もっと読みたいです。
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歴史家で文章で納得させてしまう人というのは網野善彦以来かなあ。読まされてしまうのがすごい。