クジラの歌を聴け 動物が生命をつなぐ驚異のしくみ

著者 :
  • 山と渓谷社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784635063296

感想・レビュー・書評

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  • 「100年先の未来にも、クジラのことを伝えたい」【田島木綿子さんinterview前編】 | 聞く | くじらタウン(2020.08.05)
    https://www.kujira-town.jp/interview/20200805/

    国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 田島 木綿子さんのインタビュー①「ストランディングマップについて」 – 海を守ろう!(2022/11/22)
    https://bit.ly/3m7Mwq3

    クジラの歌を聴け 動物が生命をつなぐ驚異のしくみ | 山と溪谷社
    https://www.yamakei.co.jp/products/2822063290.html

  • 種によって子どもを作るための身体の構造が違う
    それにはそれである理由がしっかりある

  • クジラの歌を聴け
    動物が生命をつなぐ驚異のしくみ

    著者:田島木綿子
    発行:2023年4月20日
    山と溪谷社

    タイトルに惹かれて借りて読み始めると、一昨年10月に読んだ「海獣学者、クジラを解剖する。」という本と同一著者だったことに気づいた。国立科学博物館に所属し、筑波大准教授を務める海獣学者が、前著では海棲哺乳類(鯨類、鰭脚類、海牛類)の基本的なことを書いていたが、今回は、生殖、繁殖に関する基本事項を説明してくれている。求愛行動、生殖器と交尾、生まれたばかりの子の生存戦略(子育て戦略)について、一部、陸上の哺乳類も交えて解説。なお、著者は、大学院は東大だが、その際の論文は海獣の生殖器がテーマだったようだ。動物行動学+解剖学による考察本。

    とても興味深く、かつ、楽しい本だった。素晴らしき1冊。

    動物にとっての求愛は、人間のそれとは少し違う。人は愛を求めるものの必ずしも繁殖には繋がらないが、動物にとって一番肝腎なのは繁殖であって、子孫をより多く残すことかがすべてである、としている。なるほど。そのために、海の王者シャチは、武器にするわけでもない背ビレをオスは2メートルの高さにみせびらかし、ザトウクジラのオスはメスへの求愛アピールとして3000キロメートル超もの先まで鳴り響くソング(歌)を奏でるように進化した。

    ザトウクジラのソングは、毎年変化する。繁殖期の初め頃には前年と同じようなソングを歌っていた個体も、誰かが新しい歌を奏でるようになるとすぐに覚えて、その繁殖海域のザトウクジラはみんな同じソングを奏で、流行歌が生まれる。

    子連れのメスは、基本的に発情しないが、その周りには常に数頭のオスが寄り添い、ソングを歌い続ける。ライオンのように「子殺し」などは行わず、母子クジラが波風の少ない浅瀬や島影などへ行けば、エスコートのオスは大きな胸びれを使って母子に危険が及ばないように注意しながら併走、〝ジェントルマン〟ぶりを発揮するが、交尾のチャンスを虎視眈々と狙う。交尾ができない場合は翌年まで持ち越すことに。

    カナダの研究チームが撮影に成功した事例として、母子のクジラを狙ってシャチの群れが猛スピードで襲いかかろうとした瞬間、数頭のザトウクジラが現れ、母子を庇うようにシャチとの間に分け入った、というものがある。
    また、氷上にいたアザラシにシャチが複数で突進し、海に落ちたアザラシを食べようとした時に、ザトウクジラがアザラシを体の脇に乗せ、仰向けのまま数十分泳ぎ続けて救出した、という事例もある。

    ***

    野生のラッコは北大西洋の北米から千島列島沿岸に生息しているが、近年では、北海道東部の沿岸に生息が改めて確認されるようになった。以前も多くのラッコが生息していたが、毛皮目当ての乱獲で姿を消していた。

    オスのゴリラがするドラミングの解釈は、長年定着してこなかったが、2021年ごろ、ドイツの研究チームによる研究成果から、身体の大きなゴリラほど咽頭周辺にある気嚢が大きく、より低い周波数の音を、より遠くまで響かせることが可能であることが明かされた。その音を聞いた他のオスに、競争相手の戦闘能力を見積もらせ、無駄な闘争を避けるよう促す役割をしているという。

    キリンはオス、メスともに、2本の可愛い角「オシコーン」があるが、オスは成長すると前頭骨中奥にさらにもう1本のオシコーンを有するようになり、後頭骨や目の上にも生じることがある。繁殖期にはオス同士でハンマーのように重く頑丈になった頭を使い、首をしならせて相手の首や胴体にぶつけるネッキングという闘いをし、場合によっては相手に致命傷を与えることも。

    テングザルのオスは、鼻が大きいほどもてる。睾丸サイズと比例していて、繁殖能力が高い。

    色の識別は、人間など大型類人猿は3原色(赤・緑・青)、犬など大部分の哺乳類は2原色(赤・青)だが、鳥や昆虫は4原色(赤・緑・青・透明(紫外線))を見分けることが可能。鳥はクジャクの羽根など派手な色使いで気をひく。なお、人は錐体細胞3つの組み合わせにより、合計100万色を識別可能。

    セミクジラは哺乳類最大の陰茎を持ち、体長15-20メートルに対し、約3-4メートル。体長の5分の1から4分の1の長さ。精巣の重さは左右合わせて約1トン。自分より先に交尾したオスの精子を洗い流すため、大量の精液を流しこむためだと言われている。セミクジラはなんにつけても要領がよい。なお、地球上最大の動物であるシロナガスクジラは体長26-30メートルで、陰茎は約3メートル。

    哺乳類の陰茎は、「弾性線維型」と「筋海綿体型」の2種類。線維質が多いか、筋肉と血管が多いか。鯨類は前者、人は後者。

    かつてクジラは日本人にとって貴重なタンパク源であり、水産業は一大産業だった。鯨肉を保管する冷凍庫では、事故など起こさないことを願い、クジラのオスの生殖器(陰茎)とメスの生殖器(生殖孔部分)をセットで祀る習慣があった。クジラが交尾する時のようにスムーズに、安全に冷凍庫の商品を出し入れできるようにとの祈願。筆者は2-3年前、北海道の水産会社の冷凍庫リニューアル時に祀ってあったクジラの生殖器を引き取ってもらえないかと打診された。筆者が実際に実物を目にしたのは初めてだった。想像を超える大きさで、約2メートルの陰茎と、約1メートルの生殖孔部分は圧巻だった。冷凍庫でフレッシュな状態が保たれていたことも奇跡的だった。博物館が近くなら間違いなく前向きに検討したが、断念した。
    *本のイラストを見ると、「しで」が下がった注連縄(しめなわ)もあり

    ヤギの交尾は一瞬で終わる。パンと手を叩くぐらいの時間で終了。一突き型交尾。メスの発情を察知すると、S字状に折りたたまれた陰茎が瞬時に飛び出す。ちゃんと入らないこともあり、痛みのあまりオスが悲鳴をあげることも。交尾中は無防備なので、身を守るために早くすませる。目的はあくまで繁殖。

    馬が歯と歯茎をむき出しにして大笑いしているような表情を見せるのは、「フレーメン反応」という現象。発情したメスに対してオスはこうする。初めて嗅ぐニオイや特有のニオイに接すると、「鋤鼻(じょび)器(ヤコブソン器官)」と呼ばれる嗅覚器官を外気にさらし、もっとそのニオイを嗅ぎ取ろうとする。笑っているわけではない。

    犬の陰茎は人間や馬と同じで筋海綿体型で、血液が流入して膨張・効果するが、人にはない工夫がある。根元がさらに膨らんで「亀頭球」とよばれるこぶ状のものが形成される。これにより、膣内で完全にロックがかかり、陰茎が容易には抜けなくなる。

    豚の陰茎は弾性線維型で、先端部がらせん状に回転し、亀頭がない。メスの子宮頸管が「頸沈」と呼ばれる粘膜のヒダによりらせん状になっていることから、これにあわせている。

    セイウチは、陰茎内に骨がある。どんな哺乳類も交尾はメスが主導し、メスのタイミングにあわせなければならないが、その瞬間が突然来た時に、挿入できるかどうかが重要。骨があれば、たまたま調子が悪くても、それが可能。

    ネコ科のオスは、陰茎の表面に「角化乳頭(陰茎棘(きょく))」と呼ばれる無数トゲ状突起があり、交尾中にこのトゲでメスの膣粘膜を刺激し、排卵を誘発する。ライオンは群れのリーダーになると、前のオスの子供を殺し、母ライオンを発情させる。1回の交尾は20秒前後、それを15分に1回、ときには5分に1回のペースで繰り返し、1日50回以上行う。長いとそれが1週間ほど続いて、オスは寝食をする間もない。オスはメスの誘いに応じられなければ群れから追い出されてしまう。

    哺乳類の子宮は5タイプに大別される。
    1.単一子宮(霊長類、翼手類など)
    2.双角子宮(有蹄類、食肉類、小型反芻類、鰭脚類など)
    3.両分子類(鯨類、大型反芻類など)
    4.重複子宮(齧歯類、ウサギ、ゾウ、アリクイなど)
    5.重複子宮で重複膣を持つ(有袋類など)

    卵を産むときに流すウミガメの涙は、痛いからではないというのは有名だが、体内の塩分調整(電解質)の処理のため。人間の汗も、その役割を担う。一時、目の乾燥と関係があると言われたこともあったが、違うようだ。

    海牛類(ジュゴン1種、マナティ3種のみ)は海草を食べる。海草というと昆布やわかめを連想するが、どちらも胞子で繁殖するため藻類であり、いまだに議論は続いているものの植物には含まれていない場合が多い。

    北大西洋や北極海に生息するズキンアザラシの授乳は哺乳類最短と言われ、わずか4日間で終了する。生まれたばかりの子供は強いニオイを発して外敵に狙われやすい。母子が一緒にいると両方襲われて死んでしまう可能性が高まるため、早めに離れて生き残る確率をあげる。

  • [鹿大図書館・冊子体所蔵はコチラ]
    https://catalog.lib.kagoshima-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BD01448389

    [鹿大図書館・電子ブック利用はコチラ]
    ※学内ネットワークに接続した端末から利用できます。
    → https://kinoden.kinokuniya.co.jp/kagoshima-u/bookdetail/p/KP00078145

  • 「海獣学者、クジラを解剖する。」と同じ著者の本です。

    動物たちの生殖を中心に書いてあるので、序盤から中盤あたりは、ちょっと食傷気味になりました。生殖と生殖器の話ばかりなのです。
    多様な生殖器の話が終わると、動物たちの子育ての話で、もう少し広い範囲の話になるのですが、前著「海獣学者、クジラを解剖する。」よりも専門用語が多くて、ちょっと難しいと感じられるところもありました。

    将来の進路として獣医などを目指す高校生などには、良い刺激になる本だと思います。

  • 2023/10/12 更新

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/

  • 動物たちの性淘汰の世界、その戦術進化に驚く。その体の発達には意味があり自分の遺伝子を残すことへの執念には頭が下がる。
    たくさんの図や絵が掲載されていてわかりやすかった。

  • 動物たちの生殖をテーマに楽しくわかりやすく書かれた本。豆知識がいっぱい。

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著者プロフィール

田島 木綿子
国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究主幹、筑波大学大学院 生命環境科学研究科 准教授。博士(獣医学)。
1971年、埼玉県生まれ。1997年 日本獣医生命科学大学(旧・日本獣医畜産大学)獣医学科を卒業後、2004年 東京大学大学院 農学生命科学研究科にて博士(獣医学)取得、同研究科の特定研究員を経て、2005年からアメリカにあるMarine Mammals Commission の招聘研究員として、Texas大学医学部(Galveston, TX)とThe Marine Mammal Center(Sausalito, CA)に在籍。2006年 国立科学博物館 動物研究部 支援研究員を経て、現職に至る。

「2021年 『海棲哺乳類大全 彼らの体と生き方に迫る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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