安全保障の国際政治学―焦りと傲り

著者 :
  • 有斐閣
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  • Amazon.co.jp ・本 (410ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784641076792

作品紹介・あらすじ

なにゆえに国際政治学は、安全保障に多大な関心を寄せてきたのか。失う恐怖、希望という危険、帝国の不安、脆弱性が生む戦争、セキュリティ・ディレンマ、抑止失敗、危機管理、同盟のディレンマ、同盟の終焉、そしてセキュリティ・パラドックスとは何か。安全保障を政治学として考える際に基礎となる概念や政策を、歴史的事例をもとに「焦りと傲り」という視点から理論的に考察する。

感想・レビュー・書評

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  • 国際政治学の中でも、特に安全保障に関する各種概念を、ツキュディデスの『戦史』を引きながら、歴史的事例も交えつつ「焦りと傲り」という視点から考察する。

  • 副題に焦りと奢りとあるように、焦りと奢りが政治的な判断を誤らせ紛争を生むと。
    一章では広い意味でのリアリストのツキュディデスの読み直し。二章は冷戦終結後のリアリズム批判で、アナーキーをどう読むか。三章は冷戦後に問われるようになった漠然としてわかりにくい安全保障そのものが何かについて。四章はセキュリティジレンマ。五章はプロスペクト理論の国際政治への応用で、領土の奪い合いをお互いが現状維持として認識しやすく、その場合紛争にエスカレートする可能性が高くなる。六章は抑止のディレンマ。七章は核戦略で、NFUとNUTsの2つの思想。八章は国際危機と危機管理についてで、危機に瀕しての意思決定がどのような傾向を持つのか、また危機管理がどう行われたかをキューバ危機とパールハーバーから見る。
    新しいバージョンが出たらしくて、ちょっとそっちも気になる好著。

  • 【鹿狩りの寓話『人間不平等起源論』by ルソー】p41

    【リアリストの論理】
    アナーキー→アクターとしての国家→自助体系→余分の安全→安全保障→相互不信→セキュリティ・ジレンマ→プルーデンス p43

    【ホッブズのパラドックス】
    権力と権威の独占は、対内的には「国王の平和」、つまり国内支配の正統性を生んだが、対外的には「国王の戦争」、つまり主権を守るための戦争を招来した。言い換えれば、ホッブズによって人格化された主権国家の登場によって、すべての国家もまた「狼」と化したのである。p54

    「ホッブズの恐怖」by バターフィールド p110

    【銃を持って対峙する二人の男のメタファー by シェリング】p114

    【プロスペクト理論】
    ・損失回避(ロス・アヴァージョン)や損失を少なくするためにはリスクを厭わないというのである。p146

    ・ほとんど起こり得ないほど蓋然性が低いこと(宝くじが当たる、殺人に遭う)でも、それらが際立ったことであるために高く見積もられる。他方、比較的高い蓋然性をもつ事柄(自動車事故に遭う、自殺する)でも、前者と反対の理由で低く見積もられる、ということである。p148

    [どこに参照基準点を据えるのか]

    ジャービス「双方が現状維持をはかっていると考えているときこそ、戦争や紛争が起こりやすい」p152

    心理学者D・ベル「意思決定の後悔」p152

    「サンク・コスト現象」p153

    プロスペクト理論はディフェンシブ・リアリズムが従来主張してきた論考を解明する一つの有力な分析手法と目されるにいたった。p155

    (多くの批判を伴うにしろ)なおプロスペクト理論は意思決定研究に「パラダイムシフト」をもたらしたといえるのではないか。とくに利得(ゲイン)で考えるときと、損失(ロス)で考えるときとでは、意思決定の仕方が違うということに私たちの目を向けさせたことである。p166

    【抑止の数式 p178】
    P (C+R) > (1-P) B
    C=攻撃のコスト(費用)、R=反撃(報復)されるrisk(危険)、そしてB=攻撃によって得られるbenefit(利得)、そしてP= 抑止側が反撃にでるprobability(確立)のことで、これらはすべて攻撃する側(被抑止国)の見込む値である。

    F・イクレ「米国の戦略家のジャーゴンはまるで麻薬のような働きをもつ、すなわち、それは核兵器の悲劇的対立に対するわれわれの道徳的憤りを麻痺させる」p200

    【キューバ危機に関して】
    P・ナッシュによると双方ともが「われわれが防衛的で、相手が攻撃的だ」と考えていた。
    このように双方が被害者意識をもって防禦的立場から相手の攻勢を非難するという構図があった。p272

    【同盟行動のパターン by R・シュエラー】
    ライオン(現状維持国)、羊(ライオンに追随する小国)、ジャッカル(修正主義国家に追随する国)、そしてオオカミ(修正主義国、ライオンに挑戦する国)
    →日本の三国同盟の行動パターンを「ジャッカル・バンドワゴン」と読んだ。p308-309

    【ネットワーク外部性】
    戦後、米国のパワーを強めたのは、さまざまな領域における「ネットワーク外部性」のゆえである。言い換えれば、米国の戦後国際秩序は「収穫逓増」現象をもたらしたのである。このことは、経済分野だけでなく高等教育、医療、研究・開発の分野はもとより、ファーストフード(マクドナルド)、あるいはレジャー産業(ディズニーランド)などさまざまな領域について言える。そしてこのことは、安全保障分野についてもあてはまる。米国の安全保障体制が強力なのは、単に兵器の強さだけでにあるのではない。むしろ、米国の安全保障制度のもっている「収穫逓増」機能にあるのである。そして、同盟こそまさしくネットワークそのものなのである。Microsoftがマッキントッシュを敵としているわけでないのと同様、このネットワーク論に立つ同盟の論理も仮想敵国の存在を必ずしも必要としない。それゆえ、ソ連の崩壊も冷戦の終焉も米国の安全保障ネットワークの強靭性とは直接関係がない。p352-353

    力は急変しないが、意思は短期間に変わりうる。p357

    日米同盟を、PKOやODAなどとセットで総合的に考えなくてはならない時代に入っている。p360

    (アメリカの)「汚れなきイノセンス」by 永井陽之助 p372

  •  「焦りと傲り」という副題を冠しているから、何か特別な議論を有しているかのようにも思われるが、畢竟何と言うこともなく、甚だ穏当で古典的な安全保障の議論である。
     科学的であろうとする国際政治学というのがここ暫くよく見られるスタンスとしてあるが、しかし人の心を単純にパワーバランスで以て論ずることは難しく、パワーを誇っても誇られても安易に安心など出来ないことを昔から語ってきている安全保障の分野では、様々な観点でその心の内を理論として打ち立ててられてきた。古くはツキュディデスに遡りその心の有り様を見てとり、また古典的なリアリズムは抑止や同盟について実際の問題として分析をしてきた。
     そうした多くある視角について議論の変遷からうまくまとめてあるのが本書である。安全保障の理論家による各章それぞれ論文の手直しであるので、そこらへんに出回っている国際政治学者(特に地域研究者や歴史家)や軍事学者による安全保障のまとめ本よりも、理論の一つ一つについて詳しく、日本語文献としては稀少で必読と言える。目新しい議論というわけではないが、非常に手広くまとめられていて、解りやすい。
     内容としては、ツキュディデスとリアリズムあり、アナーキーあり、安全保障のまとめあり、セキュリティ・ディレンマあり、プロスペクト理論あり、抑止あり、核戦略あり、危機管理あり、同盟あり、と豊富。日本の危機を煽る新書を読むくらいなら、まずどういう考え方が出来るのかという一般的な立脚点を本書で学んでからでも遅くはなかろう。

  • 最初はツキュディデスに苦労したけど
    読み返すと非常によくわかりやすい。
    安全保障に興味があり、
    かつリアリストの方に特におすすめ。
    でも、リベラリストよりな私でも読みやすかったので
    どなたでも手にとれる一冊。

  • 「安全保障のジレンマ」など、安全保障に関する理論の再構築を図った著作。海外研究の紹介に重点があり、それらの理解には適当。

  •  リアリストからの安全保障概説論。まあ、まあ、ねぇ?

  • 2008.2

  • 著者のこれまでの論文を修正・加筆して一冊の本にまとめた著作です。前半はツキディデスやアナーキー、セキュリティー・ジレンマなどに注目しながら安全保障の概念について論じ、その後特に安全保障における心理的な側面に注目する考察が続きます。ここでは「失う恐怖」について論じたプロスペクト理論や、アレキサンダー・ジョージの研究をもとに抑止や危機管理が論じられます。後半では同盟についての理論的考察が展開されています。全体を通してとても参考になる本ですが、特に第一章「はじめにツキュディデスありき」の中のディフェンシブ・リアリストについて述べているあたりは、リアリストやリアリズムに対して画一的なイメージのもとに批判的な評価を持っている人にぜひ読んでいただきたい部分です。リアリストにも色々あるんですよ。

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著者プロフィール

青山学院大学教授

「2014年 『安全保障の国際政治学(第二版)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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