橋本左内 (人物叢書 新装版)

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  • 吉川弘文館
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  • Amazon.co.jp ・本 (327ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784642050227

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  • 橋本左内。安政の大獄で刑死したことは知られていても、なかなか正面から描かれる機会が少なかった人物である。越前福井藩の医家に生を享け、16歳で緒方洪庵の適塾に入塾。蘭方医学を修め、洪庵をして「彼は池中の蛟竜である」と感嘆せしめた。更に江戸遊学の後、藩命により帰国して士分に列せられ、漸く志士として政治活動の渦中に身を投じることになる。

    彼の政治的立場は明快であった。外交的にはロシア、アメリカと同盟して開国し暴虐の限りを尽くすイギリスに対抗する、そのために内政的には有力諸侯の上に英明な将軍を戴き幕権を強化しなければならない。斯くして、主君松平春嶽の意を体し、左内の政治活動は一橋慶喜を次期将軍に推戴する将軍継嗣問題に収斂していく。彼は西郷隆盛ら各藩の人士と交わり、その淀みない弁舌を以て廟堂に入説して慶喜推戴に心血を注いだ。

    しかし、まさにこの将軍継嗣問題が左内を悲劇へと導く。紀州藩慶福を推す南紀派の井伊直弼が大老職に就任するや形勢は一気に逆転、本来は開国を支持している一橋派は劣勢を挽回すべく井伊の無勅許開国を非難した。当時、一橋派と南紀派、開国派と攘夷派、佐幕派と尊王派といった政治的対立軸は複雑に入り組んでおり、こうしたねじれ状況の中で井伊は攘夷派と一橋派への苛烈な弾圧を開始するのである。

    松平春嶽は譴を蒙って蟄居し、一方左内は幕吏に捕われ尋問を受けるに至る。しかし、将軍継嗣問題で南紀派と対立したとはいえ、全ては幕権強化のためであることは衆目の一致するところであり、左内にとってもまさか死罪に処せられるとは予想外のことであった。むしろ左内の政治的スタンスこそは井伊が必要とすべきものであり、著者がいうとおり「井伊はひき入れるべき味方を、真向の敵として断罪してしまったのだ」。

    左内は、処刑直前に太刀取に「暫く待て」と声をかけ両手で顔を覆って号泣したという。著者もこのエピソードは知っているはずだが、本書では一言も触れていない。あり得べからざる俗説と断じたのだろうか、あるいはその無念を思い語るに忍びなかったのであろうか。

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