3000万語の格差――赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ

  • 明石書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750346663

作品紹介・あらすじ

算数や国語の学力、粘り強さ、自己制御力、思いやり……、生まれた瞬間から最初の数年間に、親や保育者が子どもとどれだけ「話したか」ですべてが決まる。日本の子育て、保育が抱える課題とその解決策を、科学的な裏づけと著者自身の具体的な実践から示した書。

感想・レビュー・書評

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  • これまでさまざまな育児関係の本を読んできて、ここで述べられている考えが取り入れられていたようで、新たな学びはあまりありませんでした。
    逆にいえば、この本を一冊読むだけで、乳幼児期に必要な保護者の関わりが丸わかり!であるとも言えるでしょう。

    全体を通して、科学的根拠に基づいた研究成果のまとめ本という感じだったので、気軽に読める育児本ではありません。でも必ず学びになります。実践を求めて読まれる方は、高山さんの解説から読んで必要な箇所をつまんで読まれることをお勧めします。

    以下、長くなりましたが内容のメモです。

    ・思考と学習の基礎となる部分である人間の脳の物理的な成長は、3歳の終わりまでに約85%が終わる。
    ・子どもが聞く言葉の量と質、それも誕生から3歳までの言葉環境が最終的な学業到達度の差につながるらしいとわかってきた。
    ・命令や禁止の言葉は、言葉を習得する子どもの能力を抑えてしまう。
    ・親同士があまり話さない家庭では子どももあまり話さない。
    ・言葉の量が多い家庭には、言葉の豊かさ、複雑さ、多様さといった要素も見られた。
    ・言葉が豊かな家庭で子どもが聞いていたのは、肯定的で、子どもを応援する意味合いのある言葉。
    ・3000万語は同じ言葉が繰り返し使われていることを前提とした、話されている言葉の総数。
    ・外国語をイメージするとわかりやすいが、知っている言葉の意味をつかむのにコンマ何秒かの遅れがあると、それだけで次の言葉の理解がかなり難しくなる。
    ・小学校3年はきわめて大切な時期で、単語をもとにアイディアを形づくり、知識を積み重ねる方向へ向かう年にあたる。
    ・耳が聞こえない人たちの不完全雇用はあたりまえで、働いていても収入は耳が聞こえる人より30〜45%低くなる。
    ・言葉の基本は、人間を他の人間と結びつけること。他者とのやりとりがなければふるい落としてしまう。
    ・赤ちゃんは生得的な非言語の「数の感覚」を持ち、物の相対的な数を「当て推量」する能力を持って生まれてくる。
    ・数は集まりの中にある個々の物を代表しているとわかることは、「基数の原理」と呼ばれる概念を理解したという意味。これが理解できた時、その子はさらに高度な算数の理解に向かう道筋に乗ったという大事な指標になる。基数原理は、4歳ぐらいで把握できるのが望ましいとされている。
    ・数に関する言葉を多く聞いていた子どもほど、数学の基数原理の理解が進んでいた。
    ・「空間に関わる言葉」つまり、物の大きさや形(例:丸、四角、三角、大きい、丸い、鋭い、高い、短い)を表す言葉について、たくさん聞いた子供は自分でも言葉を話す傾向。空間認知スキルも高まる。
    ・努力こそが目標到達の鍵であり、「能力のなさ」ではなく「諦めること」が失敗の原因だという感覚を保護者や教育者が子どもの中に育てることが大事。
    ・私たちが望んでいるのは、目の前の課題を見、それがどんなに困難に見えても、どうしたら成し遂げられるかをすぐに考え始める子どもです。=グリット
    ・成長の心の枠組みは「知性は挑戦があることで伸びていく」と信じ、他方、固定の心の枠組みは、能力は絶対的で変わらないと信じている。
    ・過程をほめられる言葉の割合が高かった子どもほど、つまり、熱心さや努力を生後3年間ほめられていた子どもほど、成長の心の枠組みを持つ傾向が強いという結果。
    ・子どもが学業で成功するかしないかを決める重要な要因は、自己制御と実行機能(計画し、注意を向け、指示を心に留め、作業を完遂するために必要な心理的プロセスに関わるスキルを指す)
    ・ひとり言(セルフ・トーク)」は、将来の社会スキルの高さ、問題行動の少なさと相関している
    ・行動の決まりを命令ではなく静かに伝え、子どもが自分で考えて行動を決められるように促していた母親たちの子供は、3歳の時点で実行機能と自己制御のスキルが高いという結果だった。
    ・自己制御を育てるには、子供に選択肢を与えること。また、大人が自己制御していることを見せること。
    ・命令の代わりに、「なぜなら」を説明する
    ・子どもの意識があちらからこちらへと次々に変わっても、子どもの注意が向いているものやできごとに保護者がついていき、子どもの働きかけに対して反応を返すことがチューン・イン
    ・子どもとトーク・モアする(たくさん話す)には、子どもと保護者の双方向の関わりが求められる。チューン・イン同様、こちらも親子のアタッチメントと脳発達にとって不可欠です。ナレーション、平行トーク
    ・通常3~5歳の間で、今見ているのではない物や、今している行動ではないことに関する言葉を使い始める。これが「状況から切り離された言葉」で、知的な発達にとって重要な指標。
    ・テイク・ターンズが続くかは自分で単語を探す時間を子供にあげるかどうか。何?ではなく、なぜ?どうする?と聞くと、たくさんの単語やアイデアで答えられる。
    ・生後最初の数年間におとなが本を読んだ子どもは、幼稚園の段階において語彙がより豊かで、算数のスキルも高いという研究結果が複数ある。
    ・ブック・シェアリングには0歳児も含むべき。赤ちゃんは保護者の声の音色、話のリズム、触れているあたたかさに安心する。大人向けの本を朗読するのでも良い。
    ・本を読みながら文字を指差すと、言葉とページ上の線の集まりの間に関連があると理解する。読み、綴り、理解のスキルが高まる。
    ・保護者の物語は語彙の増加を助ける。本だけでなく、一緒に体験したことなどで良い。



  • 私見

    解説がとてもコンパクトにまとまっている。本文は訳にありがちで、長くて読みづらい。
    保護者の3歳までの語りかけが重要というのはわかった。だけど、言葉をほそぐ元気がない。赤ちゃんと遊んでて、そうそう言葉なんて出てこない。無言になることもしばしば。所得の高い人でも、言葉が豊かでも、語りかける気力がないことがある。疲れているから。眠いから。保護者を元気にしないと、保護者の努力だけ訴えられても、健康な子供の育つ社会にはならない。解説で家庭支援センターが紹介されていたけど、そういう場の充実もひとつの手。
    そして、最近は保活コンサルタントを名乗る人が0歳児復帰をすすめたりするけど、保育園ではたしかに1対1の語りかけは無理。育休を長くして、会社に損だとか思わず、子供との時間を充実させた方が、長期的には社会にプラスになることをわかる経営者が増えてほしい。

    あと、どの世界でも、母親に育児偏りすぎ。母親は、妊娠、出産のためのあらゆる制限と苦しみを味わった時点で、育児の苦しみはもう経験する必要がないんだよ!

    以下、メモ


    聴力の無い子供に読み書きだけで教えるのは困難。アラビア語の本を差し出されたようなもの。どう発音するかもわからないのに。
    子供への語りかけに意味があるとわかれば、保護者は語りかけをする意欲がわく
    否定的な語りかけは成長を阻害する
    赤ちゃん言葉にも意味がある。保護者と赤ちゃんとの関係を作っている
    テレビでは言葉は覚えない。一方的だから。言葉は、コミュニケーションを取るためのものだから。
    基数の原理 数を概念としてとらえる
    3歳以上になると、この場、この瞬間と切り離された会話ができるようになる。
    グリット 粘り強さ 困難な課題に向かう過程で得られる。結果を誉めると困難から逃げる。プロセスを誉める。

    help! というより、be a helper! の方が響く(たしかに日本語では無いかも)
    慢性的なストレスにさらされていると、守りにエネルギーを費やし、学べなくなってしまう。
    命令でなく、提案と促し。問いかけ。
    おまえはだめだ、ではなく、それは悪い行動だ
    命令でなく、ある行動を取るとどうなるか、論理力と自制心を鍛える
    Tune in 子供の注意に向かう
    解説が日本語の注意と似てると言ってて面白い
    Talk more 単語を注ぐ
    ナレーションをする 実況中継
    代名詞は使わない。言葉をどんどん増やす
    Take Turns 双方向のコミュニケーション what でなくwhy howを広げると会話が続く。本も利用

    算数はパターン。 bingo old mcdonaldsでも学べる
    語彙が増えると自己制御もできる
    ごっこ遊びでは子供の想像を阻害する言葉は使わないこと。遊びが膨らむ言葉を!おいしそうな匂い!ごはん、なんだろう?

  • ”3000万語”、”格差”など、タイトルが強烈で目を引きます。

    筆者はアメリカの医師であり、この本は翻訳本であるため文章が少し堅苦しく感じる本かもしれません。

    ですが子どもに対してどのような態度でどのような言葉をかければよいかなどの具体的な方法もしっかり紹介してくれますし、なにより著者から子どもたちへの愛情が感じられ、冷静な文章の中にもあたたかく丁寧な気持ちが織り込まれています。

    この本を読むと、なぜ言葉の発達が子どもの成長において重要なのか、言葉の発達のために親や保育者はどんなことができるかといった問いへの答えが書いてあります。

    全部を読まずとも、まずは具体的な行動の仕方が書かれている第5章から読んでみるのも良いと思います。

  • 3歳までの子どもを持つ親として必ず読んでおきたかった本。
    生後すぐから3歳までに保護者が話しかける量が脳の成長に大きく影響する。
    単なるハウツー本ではなく、淡々と研究、実践に基づいた結果について書かれている。

    まとめとしては保育園等でどんなに保育者が尽力しても一対一で関わり合える親子での対話には及ばない。子育て支援の場では、親子の関係性や応答性の質を高める支援内容が重要。
    本書はいわゆる早期教育を勧めるものではない。チューンインしていなければトークモアもテイクターンズも意味がない。
    子供がふと何かに気づき、これは?と思って周りを見たとき、チューンインしてあげられる大人がすぐそばにいることが大切。

    淡々とした文章の中に、著者の今を生きる子供達、未来の子供達への愛情が感じられた。


    以下各章ごとの大まかな内容をメモ。

    第1章
    保護者が話す言葉は子どもにとって最も価値のあるもの。
    小児人工内耳外科医である著者の経験より、3歳までに子どもが聞く言葉の量と質(言葉環境)が最終的な学業到達度の差につながるとわかってきた。

    第2章
    異なる社会経済レベルに属する家族の子供の語彙力を生後9ヶ月から3歳まで追跡観察。4歳時点の言葉の数を積算すると、社会経済レベルが高いグループと生活保護グループには保護者から聞く言葉の数に3000万語の差があった。
    ここでいう3000万語は語彙数ではなく話された言葉の総数。
    ただし、社会経済レベルが高い=言葉の量が多いというのは表面上の相関。実際には将来の学びの到達点を決めるのに最も重要なのは社会経済レベルではなく、初期の言葉環境である。
    加えて言葉の質も重要。
    1番重要なのは肯定的で、応援する意味合いのある言葉。
    それに加えて、靴を履いて、ここを降りて、といったビジネストークではなく、大きな木だね、アイス美味しいね、と言ったおまけの会話や、始まった会話がやり取りとして続くかどうかが脳の発達に必要な栄養。

    第3章
    脳は4歳ごろ、臓器としてはほぼ育ち終える。
    脳が発達するために不可欠な要素は安定。
    赤ちゃん言葉は音が誇張されており、赤ちゃんが音を理解し、言語を学んでいく手助けになる。

    第4章
    頭が良いといった人中心の褒め方よりも、頑張ったといった過程中心の褒め方をされた子供達の方が、グリット(取り組み続ける強さと意欲)を持っている。

    第5章
    言葉環境作りに大切なのは3つのT
    Tune In
    子供が集中している対象に気付き、その対象について子供と一緒に話す
    Talk More
    子供と話す保護者の言葉を増やす
    ex.このアイス、美味しい→この苺アイスはとても美味しいね、だけどすごく冷たい
    子供が話や想像を豊かにすることができるように話をする
    ex.子供が小さな穴を見つめている→丸い穴が空いているね、ふしぎだね、誰が住んでいるんだろうね?
    Take Turns
    子供を対話のやりとりの中に引き込んでいく
    何色?何?と言った?→既に知っている単語を思い出すように促しているだけ
    どうする?なぜ?→たくさんの単語を考え、思考のプロセスが始まる
    生後最初の数年間子供に本を読むかは学校入学時の準備度に影響を与える。
    正しい読み聞かせではなく、こでチューンインやトークモアの絶好のチャンスとなる。
    目標は内容の理解ではないため、子供向けの本を選ぶ必要はない。新聞、小説など何でも良いので声を出して読んであげる。
    テレビは3つのTどれを満たすこともなく、一方的であり、脳の学びには良い影響を与えない。

    第6章
    子供の知的な可能性に対して親がプラスの影響を与えると信じる心の枠組みが、子育てに影響する。

    第7章
    予防接種率や未熟児出生率といった健康バロメーターの公衆衛生指標に、言葉環境も追跡されるべき。

  • 一瞬かたっ苦しい論文調の本かと思いましたが、意外と読みやすかった。我が子はすくすく成長しておりこの本の中心ターゲットからは既にフェードアウトしてますが、自分と我が子とのいままでの関わりを思い返すのにちょうど良いきっかけになったし、今後の関わり方についても示唆に富んでおりました。

    ・始まった会話のやり取りが続くおまけの話通称「社交ダンス」が、言葉の複雑さを増し、姿勢の発達を促す。

    ・「頭が良い」と「グリットを備えている」人の違い。「頭が良い」と思っている人は何かで上手くいかないと、自分の頭が悪い、誰かが自分をワナにかけた、あるいは、そもそもこれは自分にとって大事なことでないと諦める。「グリッドをそ備えている」人は、何度も試してみようと、より真剣に取り組んでみるまでは諦めない。

    ・命令:子どもの意見を制限する。叱責や命令。
     提案と促し:子どもの意見や主張、選択を引き出す。

    ・4つの「T」Tune in, Talk more, Take turns, Turn off

    ・Talk moreは子どもが言っている内容を穴埋めして言い直すこと。

    ・命令するのではなく、「なぜなら思考」。何かするには理由があるのだと子どもが理解していく手助けをする。

  •  子どもの将来の学びの到達点を決める必須の要因は、初期の言葉環境でした。どれだけの量の言葉を、どのように親が子どもに話したか、です。親がたくさん話した家庭の子どもはそうではない家庭の子どもに比べ、学歴の高さや経済的な地位とは無関係によくできる。とても単純な結果でした。(p.38)

     関係があったのは言葉の量だけではありません。命令や禁止の言葉が、言語を習得する子どもの能力を抑えていることがわかったのです。「発達の足を大きく引っ張っていたのは、(子どもとのやりとりが)親の『ダメ』『ストップ』『それ、やめなさい』で始まった時だった。」(p.39)

     もしあなたがC、A、Tのそれぞれの音も、つなげた時の音も聞いたことがなかったら?こうした記号はあなたにとってどんな意味を持つでしょう?誰もが「cat」という単語を知っている国に住み、あなたも手話で動物の「cat」を表現できる、でも、目に入ったC-A-Tは意味をなしません。これが読むことを学ぶ時、耳の聞こえない子どもが取り組まなければならない大変な道のりです。手話言語の知識は助けになりません。手話言語は意味を示す動きからできていて、書き言葉の英語とは違うからです。(p.64)

     言葉の基本は、人間を他の人間と結びつけることです。赤ちゃんの脳は、この進化の産物です。赤ちゃんの脳は言葉を受け身で学ぶわけではなく、社会的な応答と相互のやりとりがある環境でのみ学んでいきます。毛する人と赤ちゃんの間で相互にするやりとりが、言葉を学ぶことと、学ぶこと全体の鍵です。(p.70)

     自分はもともと「頭が良い」と思っている人たちが何かでうまくいかないと、自分の頭が悪い、誰かが自分をワナにかけた、あるいは、そもそもこれは自分にとって大事なことではない、と諦めます。一方、グリッドを持つ人たちが何かでうまくいかないと、初めてしてみたことだから、またなんども試してみようと、より真剣に取り組んでみるまでは諦めません。努力しさえすれば、たいていのことはできると信じているからです。(p.97)

    3つのT
    Tune In, Talk more, Take turns(p.128)

     言葉を伸ばす時には、子どもがすでに知っている言葉を使い、それを積み木のようにして、いっそう精巧な文章にしていきます。動詞を加えたり、形容詞を加えたりする方法です。

     たとえば、「このアイス、おいしい」は、「このいちごアイスはとてもおいしいね。だけど、すごく冷たい!」になります。(p.142)

     子どもの知的な可能性に対してプラスの影響を与えることなど自分には何もできない、そう保護者が信じていたら、知的発達にとって必要な助けを子どもが受けられる可能性は低くなるでしょう。ここが一番の問題です。(p.193)

     日本には、言語環境の貧困問題を、解決に導く機関や人的資源もあります。日本には、母子・父子手帳、新生児訪問、4ヶ月検診という素晴らしい母子保健システムがあります。また、全国約7000箇所に、未就園の親子を支援する子育て支援センターが設置されています。また約2万8000箇所の保育園・こども園を0〜3歳の子どもと親の多くが利用しています。(p.254)

  • 2023.3.29市立図書館
    言語(母語/第二言語)習得やいわゆる「読解力」に関心を持ってあれこれ目を通してきているが、これは小児人工内耳外科医が手術をして耳が聞こえるようになっても期待したようには言葉を話せるようにならない子どもがいるのはなぜかという疑問からスタートして、0〜3歳の言語獲得期の家庭(保護者)による言語格差の問題に気づき、その格差を減らすためのプログラム(3000万語イニシアティブ)を提唱するもの。
    とてもていねいに書かれているので、保育者養成課程の必読書にしてほしいと思う。専門書と言っても具体的なケースに触れながら順序立てて進んでいくので一般の教養書としても広く読まれてほしい内容。

    前半部分は言語にとどまらない子どもの発達の研究の流れの概観になっており、マシュマロ・テストなど他の言語習得研究などで言及されている重要な心理実験の概要も知ることができる。後半は「3000万語イニシアティブ」の具体的な理念と解説、言語や文化に関係なく共通したものではあるが、実際に日本でこういうプロジェクトを推進するとしたら日本の実情により合うように調整は必要そう。
    そして巻末には、日本の専門家による解説と訳者によるあとがきがあり、この本の内容が保護者や保育者、社会などにどう意義があり活用されてほしいかまとめられている。
    巻末に文献表がないのがちょっと物足りないと感じたが、出版社のサイトに文献表やその他の関連記事がある。

    こどもの言葉や脳の発達を伸ばすためには身近な大人(保護者や保育者)の関わり方がなにより重要であり、大人のコミュニケーション態度や幼児の言語環境を整えること(=保護者支援)で経済格差にかかわらず子どもの学力や問題解決能力をのばすことは可能で、それがゆくゆくは社会全体の経済や健康の増進にもつながるという大きい話になっていくが、これはいい線をいっている仮説だと直感する。

    経済格差の問題が大きいアメリカでは、就学後の学力の格差を縮めるための就学前プログラムが提唱されているものの、しかしそれではすでに遅すぎるし、貧富の差の問題ではないという気づきから著者らは「3000万語イニシアティブ」を提唱したという。こういう研究成果や実践を学び、検討したり実践したりできるような保育者養成コースはどこにあるのだろうか(願わくば全国どこにでもあってほしいものだし、保育の専門家に限らず子ども=人間の言語習得や発達に興味を持つ人は増えてほしい)。
    「異次元の少子化対策」がけっきょくほとんど目先のお金レベルの話にとどまっていて、それすら実効性に乏しい雰囲気なのをもどかしくながめながら読み終えた。

  • 子どもを預けて、女性も社会で働く
    と言う風潮が強い中
    自宅で子どもを見るよさについてでも実は書かれた本。
    保育園では浴び切れない3000万語の言葉のシャワーを浴びることについて書かれた本。


    ちなみに3000万語は、
    3000万の異なる言葉ではない。
    同じ言葉が繰り返し使われることを前提とした
    話されている言葉の総数。



    生まれてから3歳までの間
    1秒間に
    700から1000の
    新たな神経細胞のつながりができる。
    これは、脳の働き全て
    例えば記憶、感情、行動で運動能力、もちろん言葉にも影響する。

    そして、弱いつながりや
    あまり使われないつながりを切り捨てつつ、
    よく使われるつながりは微調整し
    機能に特化した脳の領域を、つくっていく。







    保護者の話し言葉が
    知性
    子どもの安定
    粘り強さ
    自己制御
    さらにバイリンガルといったものに及ぼす。


    命令ではなく提案や促しを
    命令→子どもの意見を制限する、叱責や命令。
    提案と促し→子どもの意見や主張、選択を引き出す


    親が話しかけることが多いと、
    子どもの語彙は早く増えた。

    命令や禁止の言葉が
    言葉を取得する子どもの能力を
    抑えていることがわかった。


    聞いている語彙が豊かでないと、
    3歳時の達人が低かった。
    もう一つ家族の会話習慣。
    親同士があまり話さない家庭では
    子どももあまり話さないと言う結果が得られた。


    言葉の量が多い家庭は、
    量だけでなく
    言葉の豊かさ
    複雑さ
    多様性といった要素も見られた。
    さらに
    肯定的なフィードバックもあった。


    知性は男女差によって決まっており、
    変えらないと思っているのは女子生徒だけ



    数の話をするのも大事
    数字を数える、
    形の話をする
    図る(大小、いっぱい、空、長短、重さ、高低)
    など




    人中心の褒め方か過程中心の褒め方か。

    人中心褒め方(頭が良いなど)と言われた子と
    頑張った(過程中心)の褒められ方をした子。

    難しいけれどもたくさん学べるパズルと
    最初のパズルと同程度のパズルどちらかを選ぶように言われたら、
    頭が良いと褒められた子は優しい課題(後者)を選び
    がんばったと褒められた子は難しい課題(前者)を選んだ。




    3つのT

    tune in 子どもと一緒に話す
        1観察2解釈3行動
        「おいでおいで。積み木を積む面白いよ」
    保護者も物理的に子供と同じ高さになると効果的
    反対にコンピューター、タブレットスマホは依存を引き起こし、大人の注意を奪うから、良くない


    talk more ナレーションする、並行で自分がしていることを保護者が実況中継する
    こそあど言葉を取り除く



    子ども話す保護者の言葉を増やす
    ×保護者が子どもに向かって言う言葉


    言葉を膨らませる
    子どもが単語1つ言ったら
    保護者は2語、3語で答える。

    子どもが2語、3語使ったら
    保護者は短い文章を使う。
    「わんわん、悲しい」
    →「あなたの犬が悲しんでいるんだね」

    「ねんね」
    →「眠いんだね。もう遅いし、疲れているよね」


    take turns 開かれた質問(何、なぜ、どうやって)を使う
    閉ざされた質問(はいいいえで答えられる質問)は新しいことを教えたりする効果は限られる



    子どもと一緒に本を読むよさ
    ・印刷された文字に対する意識を高める
    ・物語を語る



    米国文化では物の説明を細くする
    色や形、大きさ数など
    日本の場合、物の関係や感情の話をする

    例えば熊の人形が2つ並んでいて
    1つの熊がもう1つの熊に手をかけていると
    米国では、
    色がとか形がとか大きさ同じと言う

    日本だったら、
    くまちゃんたち仲良しだねとかこっちのくまちゃんくまちゃんついてるのかななどと言う



    否定形では子供は育たない。提案、など



    ☆こそあど言葉を使わない方が良い理由

    子どもが語彙を増やす上でも、
    こそあど言葉を使わず、
    1つずつ別々の言葉を使って話そう。

    モノやコトの名前は、
    それぞれが別の言葉であり、
    別々の知識なので
    子どもにとっては、
    それぞれが別々の学び、育ちの後押しになる。

    子どもは何歳であっても、何の話題であっても語彙は応用できるのが素晴らしいところ。

    豊かな言葉に囲まれれば囲まれるほど、
    子どもはいっそうたくさんの言葉を聞いて
    言葉の意味をいっそう学び、
    学んだことを難なく
    使えるようになるでしょう。

  • 語りかける言葉が脳を育てる。語彙に留まらず、考え方や困難への向き合い方まで影響するという研究内容。
    訳されているので読みづらい、イメージしにくい、すっと入ってこない言葉はあるが、例が多いので理解できた。

    ・グリット=粘り強さ。上手くいかなくても努力すれば大抵のことは出来ると信じてやり抜く。
    ・過程を基本にした褒め方が望ましい。人を基準にした褒め方(頭がいいという褒め方)はNG。
    ・自己制御と実行機能:状況を悪化させる反応を無意識にしないで、課題解決に向かわせる力を伸ばすこと。←私はこれが欠けている?
    ✖️目先の服従「おもちゃを片付けて、今すぐ」
    ◯提案を自分が決めたものと感じる「遊び終わったね、さぁおもちゃをどうすればいいかな?」
    このようになぜなら思考で子供に選択肢を与える、保護者がしてみせる等がよい。
    ・3つのTを意識して
    チューンイン:子供が集中している対象に気づき、時に一緒に話す。
    トークモア:子供と話す言葉を増やす←子供に向かって言うのではない。
    親自身や子供のしていることの実況中継などがよい、代名詞は✖️。
    3-5歳になると状況から切り離された言葉を使うようになるので、今ここ以外も取り入れる。
    子供の言ったことを穴埋めして言い直す。
    テイクターンズ:子供を対話の中に引き込む。親は子供が反応するまで待つことが大事。
    ◯開かれた質問「なぜ」「どうする」
    ✖️効果が限られた質問「何」←単語だけになりがち

  • ・自己制御や実行機能を育てるために
    命令ではなく、「どうすればいいかな?」と自分で考えて行動してもらうことが大事

    「提案と促し」子どもの意見や主張、選択を引き出す

    子どもにとっての最適な環境は
    あたたかく、育ちを促すもの、子どもに対して応答的な環境


    【3つのT】
    ①Tune In
    子どもが集中している対象に気付き、その対象について子どもと一緒に話すという意識的な行動

    自分がしていることに興味をもつ母親、父親を求めている

    子どもが集中している世界で保護者が一緒に遊ぶ
    親の意にそぐわないことでも
    「絵本を読もうか?」と尋ねるのはいい、大事なことは子どもの答えにチューンインすること。

    ②Talk More
    子どもに向かって言う言葉を増やす、ではなく
    子どもと話す言葉を増やすことを目指す

    ナレーション:実況中継
    並行トーク:鍵を見つけたのね、あ、それは食べるものじゃないよ、じゃぁ一緒に鍵をあけてみようか。

    子どもが持っているスキルから一歩二歩先をゆく
    ふくらませるトーク
    子どもが単語1語のときは2語で返す
    子どもが2語のときは短い文章で返す、など。

    ③Take Turns
    Tune Inして、Talk moreして、その後
    子どもの反応を待つこと。

    大事なことは待つこと。
    保護者はつい子どもが話す前に先取りしてしまう。
    自分で単語を探す時間を子どもにあげること。

    答えが決まっている質問は意味が無い。
    「これは何?」など

    答えが決まっていない質問「オープンクエスチョン」がおすすめ。
    「どうする?」「なぜ?」で子どものアイディアを聞く。


    ・空間の単語
    長方形、正方形、まっすぐ、背の高い、曲がった
    2歳までにたくさんの空間の単語を知っていると、4歳の時点での空間のスキルが高い

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著者プロフィール

医学博士。シカゴ大学医科大学院小児外科教授、小児人工内耳移植プログラム・ディレクター。「子ども期初期の学びと健康のためのTMWセンター」(http://tmwcenter.uchicago.edu/)の創設者であり、共同ディレクター。著書に『3000万語の格差:赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ』(2015年。邦訳は明石書店、2018年)。

「2022年 『ペアレント・ネイション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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