格差をなくせば子どもの学力は伸びる―驚きのフィンランド教育

著者 :
  • 亜紀書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (273ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750507101

感想・レビュー・書評

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  • 「フィンランドの学校は、できない人の底上げはするけれど、できる人は放っとくんです。だってできるんだから」p帯

    フィンランドでは、学力観の転換が、社会民主主義を土台にし、規制緩和・分権化という新自由主義の動きを受けて、1990年代前半に徹底することになる。教える教育から学ぶ教育へと教育観も転換された。p10

    OECDは、基礎教育(義務教育、普通教育)の目的を、若者たちが社会に出て使える力を身につけさせることと見なすようになったということである。産業発展や知識獲得競争を目的とせず、いわゆる近代化論を止めて、社会の安定した機能確保、言わば一種のインフラ整備ととらえることに教育観を転換したのである。PISAの学力には、集団に参加し、集団の中で機能する「共に働き、共に学ぶ能力」「共同戦略を作り上げる能力」が重要なものとして含まれる。p12

    「平等」と「個性」を両立させるフィンランド教育ーPISAも上位 p25

    フィンランドでは、義務教育期間にあたる16歳までは、他人と比較するようなテストもなく競争もない。取り立てて学習時間が多いわけではない。それでいて、世界から注目されるような高い学力を保持している。p26

    OECD教育局のシュライヒャー指標分析課長「フィンランドは、全体的な成績が非常にいいのですが、もっと重要なことは、他の多くのOECD諸国に比べ、フィンランドでは社会的背景の影響がずっと小さいということです。教育制度がすべての生徒に均等の機会を与えることに成功しているわけです」p38

    PISA調査の大きな功績は、中央集権的な管理制度ではなく、各学校と各教師に権限を渡すことが複雑で困難な教育への動機づけになったことをデータで示したことである。p43

    【なぜフィンランドは成功したか】p46~
    ①家庭、性、。経済状態、母語に関係なく、教育への機会が平等であったこと。
    ②どの地域でも教育へのアクセスが可能であること。
    ③性による分離を否定していること。
    ④すべての教育を無償にしていること。
    ⑤総合制で、選別をしない基礎教育。
    ⑥全体は中央で調整されるが実行は地域でなされるというように、教育行政が支援の立場に立ち、柔軟であること。
    ⑦すべての教育段階で互いに影響し合い協同する活動を行うこと。仲間意識という考え。
    ⑧生徒の学習と福祉に対し、個人に合った支援をすること。
    ⑨テストと序列付けをなくし、発達の視点に立った生徒評価をすること。
    ⑩高い専門性を持ち、自分の考えで行動する教師。
    ⑪社会構成主義的な学習概念

    フィンランドが好成績をあげた国際学力テストPISAは、「これまで何を学んできたではなく、これから何ができるか」を測ろうとしたものである。p50

    【DeSeCo計画ー三つのキー・コンピテンシー(基本的実践能力】p52
    ①「相互交流的に道具を使用する」能力
    ②「異質集団内で相互交流する」能力
    ③「自律的に行動する」能力

    子どもは自ら学び、教師はそれを支援し、行政は援助し、親は協力するという教育システムができ上がっている。それぞれの権限が尊重されるわけだ。p58

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/50019

  • 「出来る子は教えなくっていい。だって、出来るんだもの。」とは、インタビューしたフィンランドの一教師の弁。できる子には違う課題を与えているようにも思えるので、これはこれであり、との感想を持った。ただ、高校一年の数学レベルには?。もちろん、どういう志望を持ってる人か等、著者の調査対象者の学力レベルが判然としない点はあるが、学力世界一のありようとは思えない。

  •  フィンランドの教育に対する関心は私には以前からあった。そして日本でゆとり教育が行われた際、その関連性を思った。しかし、それがよく理解できないうちにしばらくすると、その負の面ばかりが指摘されるようになった。すなわち、学力低下である。その要因は教科書を薄くするなどの情報量の減少にあるというのが大勢の世論となった。
     そして、その後また教科書は厚くなり教師はその伝達に追われ、生徒はそれを必死に受け入れることに終始している。しかし、日本の教育は結局、情報量を増やすことにとどまっており、その情報も入試を突破するためだけのものと意識されることが多い。だから、日本人の学力はそれでも伸びることはない。一部の生徒が試験で要領よく点を取るということだけを身につけている。
     本書の大半ではフィンランドの学校の様子のレポートである。表面的にみるとバラバラでまとまりがなく、しかもルーズだ。 学級崩壊とも思えるような状況に見えるが、それは日本式の一斉教育、全員同一目標の教育観によるものであることが分かる。
     フィンランド式は生徒の個々人の学ぶ力を基本にした方法であり、まず教え方があり、目標もあらかじめ設定されている日本の教育とは大きな違いがある。これを実行するためには生徒の学びの実態を観察し、それに合わせた教育をその都度考案して実践する忍耐強さやスキルが求められる。つまり教員の技量が求められるのだ。
     日本の教育現場にこれを持ち込もうとすると、まず立ちはだかるのが40人学級というクラスの規模である。個別教育を軸とする方法はこれでは難しい。さらに教員の技量の問題がある。日本の教員の能力は極めて高いと思われるが、一斉に物事を教えることが常識である現状では、進度が混在する生徒の中で授業を進める能力はほとんど期待できない。また、個別教育に必要な準備や心の余裕といったものが、いまの教員の多忙すぎる生活では確保できないのだ。
     もちろんフィンランド式が絶対とは思えない。集団で行動することに安心感を見出す日本の文化に個別教育がどれだけなじむのかについての考察は本書にはない。ただ、新しい学力観に基づく教育の見直しが検討されている今、格好のケーススタディになることは確実である。

  • フィンランド教育が成功した理由
    1家庭、性別、経済状態、母語に関係なく、教育への機会が平等
    2どの地域でも教育へのアクセスが可能
    3すべての教育が無償
    4総合制で選別をしない基礎教育(メタ知識
    5全体の調整は中央で、実行は地方で
    6個人に合った支援
    7テストと序列付けをなくし、発達の視点に合った生徒評価
    8高い専門性をモチ自らの考えで行動する教師
    9社会構成主義的な学習概念

    「数学を教えているのではなく、数学を学ぶ子どもたちを教えている。それが数学の教師なのだ」

    授業中座らない、編み物し続ける男子、廊下に出てカルタ、開く教科書ページがバラバラなどフリーダムな雰囲気。それを教師は叱ったり強制せず個別指導。 授業中生徒が思った以上にやりたい放題なのが写真でよく分かった。

  • 【38/150】本のタイトルが「格差をなくせば・・・学力は伸びる」としているが、答えを学ぶのではなく、答えにたどりつくプロセスを学んでいくと学力が伸びるという風にとらえた。教師は知識を教えるのではなく、学び方を教える。なぜなら学ぶべき知識や技術は常に変わって行くから。

    現場への権限委譲、これもかなり大きいようだ。先生の力量もかなり問われそうに見えるが、「子どもが自ら学ぶ、自分のために学ぶ」という姿勢と、「待つ」というスタンスがあれば可能なことだと感じる。といっても日本ではなかなか「待てない」のが現実だろうな。

    なんせ、他の人と違うことを極端に恐れるのだから・・・これって古来からの日本人のメンタリティなんだろうか? 

  • 初めてフィンランドの教育について読んだ本。
    フィンランドの教育制度から、著者が実際に見学したフィンランドの授業風景まで、フィンランドの教育についてこれを読めば一通りは分かると思います。
    実際の授業風景の写真がたくさん載せてあるのが印象的*
    表紙もかわいいです^^

  • この本では、現在の日本の教育制度とフィンランドの教育制度の違い、さらには著者の方が実際にいくつものフィンランドの学校に見学に訪れてまとめた授業のレポートを見ることができる。このレポートには授業の内容だけではなく、生徒の様子や先生の個別のアプローチまで克明にまとめられていて、実際に自分自身もその場にいるかのように読むことができる。僕自身、読み進めれば進めるほど、なるほど、こういう角度もあるよね、そうか、こういう広げ方もあるよなぁ、とほんとに色々と新しい発見をもらい、視点を広げてもらった1冊になった。

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著者プロフィール

1950年、岐阜県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。都留文科大学副学長。主な著書に『格差をなくせば子どもの学力は伸びる』『フィンランドは教師の育て方がすごい』(小社刊)、『競争をやめたら学力世界一』『競争しても学力行き止まり―イギリス教育の失敗とフィンランドの成功』『こうすれば日本も学力世界一』(朝日選書)、他多数。

「2015年 『国際バカロレアとこれからの大学入試改革』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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