宅間守 精神鑑定書――精神医療と刑事司法のはざまで

著者 :
  • 亜紀書房
3.85
  • (14)
  • (21)
  • (18)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 300
感想 : 34
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750513102

作品紹介・あらすじ

2001年6月8日午前10時過ぎ、宅間守(当時37歳)は用意していた出刃包丁で、附属池田小学校の教室内において次々と、小学校1年、2年の児童8人を刺殺し、児童13人と教諭2人に重軽症を負わせた。
2003年8月、大阪地方裁判所において死刑判決。弁護団は控訴。しかしその後、宅間自身が控訴を取り下げたため、死刑確定。2004年9月、きわめて異例の速さで死刑執行。

著者は、現在までに90件におよぶ刑事事件被告人の精神鑑定をしている。宅間守は、著者にとって33番目の事例である。2002年10月、大阪地方裁判所からの依頼により宅間守の精神鑑定書を作成するにあたり、著者は大阪拘置所において、2002年10月から2003年1月の間に計17回、宅間守と面接した。

本書は、2003年1月、大阪地方裁判所へ提出された精神鑑定書を、ほぼそのまま収載している。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 『宅間守精神鑑定書』読了。
    まあ社会から抹殺されても致し方ない奴ではあるんだが(死刑にしろという意味ではない)、幼い頃から多動傾向があって、強迫神経症に悩まされていた(考えたことをテスト中でも紙に書いたり声に出さないといられない、野球でベースを守りながら漢字を空に書かずにいられないなど)のはなんだか可哀想な印象。
    さらに、ひとが自分を見てる、目が合った、噂されてるなどの被害妄想が強くなり、必ず「勝って」終わらないと気が済まず、負けたらそのことを何ヶ月も何年も考えずにはいられない、また常に詮索癖があり誇大妄想もあるのはきついものがあると思う。
    とはいえ、プロの精神科医がこれだけあらゆるテストをして面談をしても「いずれにも分類できない特異な心理発達障害があったと考えられる」としか判断できなかったってのはすごい。
    ただ、前頭葉機能になんらかの障害がある可能性はあるとか。
    人間は複雑だ。
    .
    あと今回初めて知ったのは、池田小の代わりに母校が狙われていた可能性もあったということ。
    「もうちょっと上のランクの、宝塚に××いうミッション系のエリート小学校、女子校やけど、エリート小学校があるんやけどね。それは知っとったけど、そのときは思い出せんかったんですよ。××小学校の存在をずっとキープしとったら、××小学校に行ってるかも知らん」
    けど、長くて急な坂を登って校門に入ってからもまた登って、校庭に出て、さらにまた登るから校舎にたどり着くまでに疲れるし校舎も広いから、宅間守の目的である殺人数か稼げないと思う。
    やはり山の上に学校を作るのはそれなりにメリットがあるのだな。

  • 私は全くの素人ですが、宅間守は臨床経験や鑑定経験を多く持つ著者 岡江氏でも、これといった具体的な診断を迷わせる人物であったことがよくわかった。
    この本は法廷ドキュメントでもないし、重大事件のノンフィクションにありがちな著者の私的感情も読者への煽りもない、ただの報告書である。
    読み進めると「宅間守はどうしてこんな人間に育ってしまったのだろう?」と思うことが多々あるけれど、お医者さん目線で観察され考察されたことが書かれているので淡々と読めた。
    専門的な難しいところもあるが、適度に補足もあり素人にも読めるように配慮されているのがよくわかる。
    が、内容が内容なのでスラスラとは読めない。ツライ描写もある。
    重複部分も多々あるが、鑑定というのはそれだけ慎重に何度も振り返って考え、導き出されているのだろうと感じた。

    この犯罪は許されることでは絶対ないけれど、宅間は社会に対して自分の適合のなさをある部分では自覚していたようなので(フォローするわけじゃないけど)とても孤独な人生だったのではないかなと思う。
    他人と繋がりを持ちたい気持ちはあるのに、周りが真っ暗の無人島に一人というイメージ。
    少しは理解者のような人も居たようだけど(案外電話する仲の人が数人居る)、気になることがあると頭にこびりついてしまって現状満足できない。
    どういう方法で誰とどういう関係を持ったらいいか、または修復したら良いか、立ち直ったら良いか、どうやっても普通のやり方がわからない、孤独な人という気がする。

    心理テストの結果や考察、あと、前頭葉の血流量の低下が関連がありそうで興味深かった。

    ここまで強烈な嫌がらせや行動やもちろん犯罪はしないけれど、正直感じ方が自分とほんの少し共通点があり怖くなった。

  • 何度も読み返しているのだが、そのたびに、「本当に貴重な資料が世に出たんだなあ…」とつくづく感じ入る。
    宅間守の精神構造を垣間見ても、死刑執行すべきではなかったとは全く思わない。
    ただ、死刑確定から執行までが早すぎたと強く思う。
    宅間守にとって死刑は " 極刑 " ではないのだから。

  • 人が人を診ることの限界を感じました。精神医療の更なる発展を願います。

  • 読んでいて気分がどんよりしてしまった。周囲を災禍に引きずり込むこのような性格の人間はどのようにされるべきなのか。周りの者は不幸だったと思うしかないのか。

  • このような事件をおこした人の心理を知りたいと思った。
    ただ、市井に暮らす、凡人が起こしたのなら、誰でも加害者になるのか?とも思った。
    病的な精神疾患はない。ただし、人格形成に問題があり、他人のことを思いやる、共感度が著しくない。思考があまりにも自己中心的で、幼いころから、逸脱していたようだ。
    だが、精神疾患ではない。では、生れ落ちたときにあったもともとの性格なのか、環境のせいなのか、そのあたりは定かではない。事件を起こそうと思った経緯も、ふつーに生きている人々には理解できない。

  • 附属池田小事件は、忘れられない事件だ。
    その事件を起こした宅間守とは、どういう人間だったのか。
    知れば知るほど、人間とは思えない人だ。
    なぜ、このような人間になってきたかが、よくわからなかった。
    持って生まれた気性なのか、それとも育った環境なのか。
    病気のようにも見えるし、性格にも見える。
    あんなに早く死刑にしてよかったのだろうか?
    どうすれば、彼は改心したのだろうか?
    いろいろ考えさせられる本。

  • 言葉にならない事件だった。事件後、テレビ画面に映った宅間守の顔は今でも覚えている。

    表題にもあるように、最終的にどのような「精神鑑定書」の結論になったか、知りたかったため手に取った。

    驚いたのが、この事件前までの累犯の多さ。もう社会生活が不適応だったことが分かる。

    それにしてもこういう人間はよく法律を熟知している。

  • 精神鑑定医による誠実な所見 興味深く読んだ

  • 骨のある仕事。

全34件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

精神科医。1946年、高知県に生まれる。京都大学医学部卒業後、1972年から京都府立洛南病院に勤務し、重大犯罪を犯した精神障害者や覚醒剤精神病者の治療に精力的に取り組む。1998年に副院長、2003年から2011年まで院長を務める。1992年より刑事事件の精神鑑定を担当するようになり、2002年の宅間守の精神鑑定を含め、2012年までに90件の精神鑑定を行ってきた。著書には、『宅間守 精神鑑定書』(亜紀書房)がある。

「2013年 『統合失調症の責任能力 なぜ罪が軽くなるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

岡江晃の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ジャレド・ダイア...
スティーブン・ピ...
國重 惇史
シーナ・アイエン...
三浦 しをん
元少年A
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×