ウイルスは悪者か―お侍先生のウイルス学講義

  • 亜紀書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750515595

感想・レビュー・書評

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  • 北大の獣医学部を卒業した後、エボラウイルスやインフルエンザウイルスの伝播、感染メカニズムと、そのワクチンや治療薬の研究を続けている北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター教授を務める高田礼人教授の自分の研究歴やウイルス研究にかける思いを書いた一冊。
    人獣共通感染症とは鳥や豚、蝙蝠など動物を介してヒトも感染するウイルスによる症状のこと。エボラウイルスの抗体を持つコウモリが発見されていることから、エボラウイルスはコウモリを宿主としていたウイルスが人間に感染したと考えられ、インフルエンザウイルスも鳥から発生し、人に感染することが確認された。
    実際にそれらのパンデミックが起きた現場に行き、ウイルスと特定とその封じ込めのために活動した記録などが語られる。
    タイトルにある「ウイルスは悪者か?」という問いかけは、人獣共通のウイルスは、それまではヒトと隔絶されて生きていた動物が、都市の拡大などによってヒトが動物とウイルスの間に介入するようになったために起き始めたこと、つまりウイルスが求めたことではないことをさして言っている。ウイルスを「生物」と呼ぶべきかどうかは微妙だが、その増殖のメカニズムは生物のそれと酷似しており、ウイルスもまた生物と同じく自然の法則によって存在しているにすぎないからだ。

    この本が出版されたのは2018年11月。まさにその1年後にCOVID-19のパンデミックが起き始める。
    COVID-19が人獣共通ウイルスであることも間違いないだろう。高田教授がどういう気持ちでこの1年を過ごしていらっしゃるのか、それを語る次作が出たら読んでみたい。

  • ホットゾーン読んだ後だったので読み易かった。ウイルスを分かり易く紹介していた。専門的な勉強へのとっかかりには丁度良さげ。

  • 2021-3-22 amazon 2035-

  • Premium Selection vol.7

  • マニアックすぎ 宮沢さんでいいかな

  • 感染症を引き起こし、時に人類の脅威となるウイルス。捉えどころのない、この「曖昧な存在」の本質を、世界各地に足を運び、研究を行うウイルス学者が明らかにする書籍。

    ウイルスは、生物と無生物の中間に位置する。
    ・ウイルスは、単独で自律的に生きていく(増える)ことはできない。この意味で、「無生物的」である。
    ・だが、生きている細胞(宿主)に侵入すると、その細胞の仕組みを利用し、「生きて」いるように「自己複製」を行う。

    ウイルスが宿主の細胞に侵入し、増殖している状態、あるいは増殖後、宿主内に持続的に存在している状態を「感染」という。

    ウイルスが細胞に侵入するには、宿主生物の細胞表面にある「レセプター(受容体)」に結合する必要がある。どのレセプターに結合するかはウイルスによって異なる。そのため、ウイルスは、多くの場合、特定の宿主生物にしか感染できない。

    1997年に香港で発生した鳥インフルエンザは、ヒトに感染し、命を奪った。これは、鳥インフルエンザはヒトに感染しても重篤化しない、という当時の「常識」を覆す出来事だった。

    19世紀末頃から、インフルエンザの病原体探しが始まった。
    1918年、「スペインかぜ」が流行した当時、有力なのは細菌説だった。その後、1933年に、ヒトのインフルエンザウイルスが分離され、ウイルスが病原体であることが確定する。

    人間の活動領域が広がり、野生生物を宿主とするウイルスと接触する機会が増えた。そうした自然界のウイルスの中から、人間に感染し、高い病原性を示すものが出現した。人間は、こうしたウイルスを「悪」とみなすが、ウイルスにすれば、自身の遺伝子を増やして残しているにすぎない。

  • 本書の初版1刷の日付が2018年11月9日、当時を思えば、高病原性鳥インフルエンザあるいは、豚熱あたりが我々の関心をよんでいたぐらいであったか。新型インフルエンザはすでに、季節性のインフルエンザとなって、人びとはワクチン接種に走り、エボラ出血熱は遠くアフリカのこと、デング熱は旅行者が帰国後発症したものの、人びとにさほどの注意を換気していたとも思えない。私が本書を手にしたのは3刷(2020年4月24日)で、5月29日に入手している。

    2月末にはオーストラリアとニュージーランドに駆け込みで出張をしたが、両国は3月中にはパンデミックによる鎖国を始めたので、思えばギリギリのタイミングではあった。また、感染症関係の書籍の購入を見ても、この旅からの帰国直後から、増え始める。3月2日に電子版で『感染症の世界史』(石弘之・著)を購入している。4月4日には『アンドロメダ病原体・新装版』(マイケル・クライトン・著)、4月15日には電子版で『新型コロナウィルスの真実』(岩田健太郎・著)、17には、『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ:人類とウィルスの第一次世界戦争』(速水融・著)を購入している。本書の購入もこの流れの中にある。いろいろ、読み散らかしたので、なかなか、最後まで読みすすめることができなかった。

    著者は、ラボとフィールドを駆け回る人獣共通感染症の専門家、フィールドで鳥の糞などを採集しては、モニタリングをして、高病原性鳥インフルエンザ、ひいては、新型インフルエンザのタイプを判別している。また、アフリカのザイールにエボラ出血熱の調査にもでかけていた。本書で述べられていることは、ウィルスが生物かどうかの定義はともかくも、ウィルスは遺伝子そのものである(DNAタイプも、RNAタイプもある)ということ。また、ウィルスは寄主との間での共進化の過程で弱毒化していくので、ヒトに致死的であるウィルスはヒトが寄主ではない場合であって、ヒトが何らかの理由でオリジナルな寄主の生息する場にアプローチすることによって感染が起こったことに起因する。また、ヒトからヒトへと感染するようになると、パンデミックとなることを指摘する。まさに、新型コロナウィルス(SERS-COV2)のパンデミックは、まさにそのセオリーどおりに感染をひろげ、未だに、アフターコロナの状況を読み取ることができない現状がつづいている。

    危機的な状況であるにも関わらず、日本の場合、オリンピックの開催に踏切り、国外からの関係者をうけいれ(様々なタイプのSERS-COV2を招く可能性がある)、緊急事態宣言とは矛盾するイベントの開催の強行により、蔓延の拡大は、必至となっている。著者はウィルスには意思や意図はなく、あるのは人間の側であることも指摘している。第5次の蔓延ピークはまさに人間が引き起こしたもの以外の何物でもないことを心しなければならない。

  • 岐阜聖徳学園大学図書館OPACへ→
    http://carin.shotoku.ac.jp/scripts/mgwms32.dll?MGWLPN=CARIN&wlapp=CARIN&WEBOPAC=LINK&ID=BB00608833

    テーマ3 すべての人に健康と福祉を

    ウイルスは悪者なのか?
    そう決めつけるにはまだ早い
    エボラ出血熱、デング熱、新型インフルエンザなどをもたらし、
    時に人類にとって大きな脅威となるウイルス――
    しかしそれは、この「生物ならざるもの」が持つ一面に過ぎない

    ザンビアの洞窟でコウモリを捕まえ、モンゴルの大草原でひたすら糞を拾う
    ラボと世界各地のフィールドを行き来し研究を続ける"お侍先生"が、その本質に迫る

    私の研究対象が人獣共通感染症病原体だったからか、頻繁にフィールドでの調査に赴く機会に恵まれた。次第に、自然界におけるウイルスのあり方について、思いをよく巡らせるようになった。そしていまでは、ウイルスへの見方がずいぶんと変わってきた。(本文より)(出版社HPより)

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著者プロフィール

1968年東京都生まれ。北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター教授。93年北海道大学獣医学部卒業、96年同大獣医学研究科修了、博士(獣医学)。97年同大獣医学研究科助手、2000年東京大学医科学研究所助手を経て、05年より現職。07年よりザンビア大学獣医学部客員教授、09年より米NIHロッキーマウンテン研究所の客員研究員。専門は獣医学、ウイルス学。エボラウイルスやインフルエンザウイルスなど、人獣共通感染症を引き起こすウイルスの伝播・感染メカニズム解明や診断・治療薬開発のための研究を行っている。ザンビア、コンゴ、モンゴル、インドネシアなど研究のフィールドは世界各地に及ぶ。剣道は小学生のときに始めた。好きなピアノ曲はショパンとドビュッシーとラヴェル。好物はツブ貝とカツオ(海鮮はなんでも好き)。好きな肉はタンとサガリと内臓全般。ビールはエビスか黒ラベル。タバコはピースライト。

「2018年 『ウイルスは悪者か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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