五十八歳、山の家で猫と暮らす

著者 :
  • 亜紀書房
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感想 : 37
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750516394

感想・レビュー・書評

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  • 八ヶ岳麓に引っ越した作者。引っ越した理由、美しい風景、虫の出現、寒さ、園芸、地元民との触れ合い、お母さんとの思い出など。山の家と言っても別荘。猫はあまり出てこない。

  • 平野恵理子さんの名前はweb記事で見かけて「小淵沢の山荘に住んでいるイラストレーターさん」くらいの認識はありました。
    2冊めのエッセイのタイトルが『六十一歳、免許をとって山暮らし』。勝手に親近感が増してこちらから読んでみました。

    最初の章が「虫の章」、次が「雪の章」に「寒さの章」。山荘に暮らすデメリットから始まっているのがおもしろい。「自然に囲まれた素敵な暮らし」じゃないのが良い。

    小淵沢のあたりは標高も高く(小淵沢駅が886m)、積雪はそれほどではなくても冬はかなり寒いはず。恵理子さんが住んでいる別荘地帯は住民も少なく、近くに大きなスーパーなどもなく駅に出るにも登り下りが結構大変なあたりだと思われます。

    そんな山の中にわざわざなぜ住んでいるのか。
    「そこで何してるんですか?」と問われ、「とくに何をしているわけではなく、ただ場所をかえて相変わらず暮らしている毎日なんです」と答える恵理子さん。

    「どちらが本当の暮らしなのか。いや、本当の暮らしとはなんなのか。」

    「モラトリアム」と言っているのもなんだかホッとしました。50代でもモラトリアムでいいのか。

    「どこに引っ越しても最初の2年はアウェイ感がぬぐえない」というのも新参者には心強い。
    富士見高原病院や松本などの名前にも親近感。

    おそらく恵理子さんが雪掻きスコップを買ったホームセンターはここではないかとあたりをつけて私も行ってみたりしました(ストーカー⁉︎)

    まえがきで免許を取得したら「ヒラノ、ライフが変わるぜ」と友人に言われたと書かれていて、2冊めのエッセイとともに、私もそれを期待したいです。


    以下、引用。

    4
    今までも何度か引越しをしてきたが、どこでも最初の二年はその地でのアウェイ感がなかなかぬぐえない。ただ、これが三年目ともなると、もうずいぶん前からその地に住んでいるような、リラックスした居心地のよさを感じているのだから不思議だ。

    5
    こちらへ越してから、免許取得の計画を話したとき、
    「ヒラノ、ライフが変わるぜ」
    と言った友人がいた。たしかに。

    42
    考えてみれば、昔は家の前まで除雪車が来てくれていたではないか。当時は逆にそれが残念で、きれいな積雪面を破壊されたように思った。が、暮らしとはロマンチックばかり言っていられるものではない。

    83
    当時、界隈には人の気配がまったくなかった。それが気に入っていた。人の姿が見えなくても、あそこには、あの家には人がいるなあとわかっているのと、本当に周りに人がいないのとでは大きな違いがある。

    84
    ここに一人でいると、なにからも自由な、すっかり解放された感覚と、内側へ深く入っていく自分の両方を強く感じた。孤独という言葉にはどこか負の印象があるが、いい孤独、心地よい孤独もあるのだ。

    生涯独身を貫いた作家、メイ・サートンは小説の中で、自身をモチーフにしたと思われる主人公に「さびしさは自己の貧しさで、孤独は自己のゆたかさ」と発言させているが、けだし名言。

    一人でいることのよろこびを素直に現す言葉がないというのは、その感覚が一般的ではないということなのか。残念ではある。

    115
    ましてや山村なんぞで暮らしている人がいたら、「そこで何してるんですか?」となるのは当然のこと。本当に、とくに何をしているわけではなく、ただ場所をかえて相変わらず暮らしている毎日なんです、と答えるしかない。

    冬の、天国にいるような陽の光。家の奥深くまで陽がはいる朝、部屋の中に光があふれて、それだけで幸福感に包まれる。

    三人で食事をするテーブルにも惜しげなく冬の陽が降りそそいで、その光の中にいると、幸せの粒を浴びているかのように作家かするほどだった。

    120
    どちらが本当の暮らしなのか。いや、本当の暮らしとはなんなのか。

    『フィールドガイド 日本の野鳥』

    133
    鳥は人の顔が怖いそうな。

    鳥は、人の顔が毛にも羽にも覆われていなくて、笑ったり口を開けたりと皮膚が動くのが怖いから、人の顔が見えると逃げてしまう。

    165
    鉄道に乗っていて、大きな楽しみのひとつは川を渡るとき。鉄橋を渡るときといえばいいか。川岸に、川の名前を記した青い看板が立っているので、それを必ず読む。多摩川なんて看板を読まなくても多摩川だとわかっているのだけれど、それでも急いで青い看板を目で探し、「多摩川」と記された青地に白い文字を読んで納得するのだ。「よし、多摩川渡った」。

    170
    日野春駅は、南アルプスが眺望絶佳。甲斐駒ヶ岳、摩利支天、そして鳳凰三山とずらりオールスターキャストが目の前に並ぶと迫力が溜め息ものだ。

    178
    ただ、その分このところ東京でゆっくり買い物などしたことがなかった。のんびり散歩をしながら気になるお店に入ってじっくりと見せてもらう。そうだ、そういうことはやはりときどき必要なのだ。

    215
    昨冬は本当に何も手が回らなくて、植物たちが寒そうにしているのを窓の内側からじっと見ているだけだった。見ていたくせに、大鉢を家に入れてやる余裕がなかった。完全な見殺しだ。

  • 山での暮らしは不便そうですが、清々しい空気の中で良き孤独を楽しめそう。いつかわたしも…って思ってしまった。

  • タイトルにひかれて読み始めた。
    亡くなった母の家を片付けるのが、まだ苦しくて、もう1つの山の家で暮らしていく日々。都会ではみられない虫に怯えたり、雪かきをしたり、鳥と出会ったり、庭の手入れをしたり、時にはご近所のかたに助けられたり、何もかも1人でやって、頑張りすぎていたことにも気づいたり。
    ふとしたときに母親との山の家での暮らしを思いだし、もういないという現実を思う。それを少しずつ受け入れていくのに、自然豊かな場所はぴったりだと思った。

  • こんな暮らしができたらないいな
    でも虫はちょっと苦手
    庭仕事と猫、雪

  • 山の家、猫と興味のある語句のついたタイトルだったので読んだら、期待外れだった。山の家はいいけど、ほとんど登場しない猫はタイトルに入れなくてもよかったのに。それとも猫好きに読ませようというたくらみ?
     個人的な趣味趣向なので仕方ないと思うけれど、深く掘り下げた人生観、哲学感もあまり語られず、興味をひかれるような体験談もなく、私には退屈なエッセイだった。というのが正直なところです。いや、やはり趣味の問題でもあるし、私の感性が鈍っているだけのことかもしれない。

  • 山暮らし、あこがれるもののかなり大変そうだと感じた。ただ、母親が亡くなって、それを埋めるために(最初は無意識に)移住して、そこからまた一歩踏み出してゆく作品なのだと思った。結婚などしなくてもこうやって自然と生きていくことができ、尊いと感じた。

  • ふむ

  • 読み終えて、タイトルのわりに猫の話はあまり出てこなかったな、とは思ったのだけど(笑)、イラストレーターである著者の、都会から離れた冬には雪も降る山手の家での暮らしについてが丁寧に描かれていて、著者の平野さんのことは知らなかったのだけどとても楽しく読めた。
    表紙の絵は著者本人のもので、挿絵として主に植物のイラストが時折出てくるところもとても良い。

    著者は元は東京で暮らしていて、横浜の両親が亡くなった後に横浜の実家に移り住み、その後別荘のような感じで家族で使っていた八ヶ岳南麓にある家に居を移した。
    両親を亡くした悲しみから逃れるための一時避難のつもりだったが、山での四季の美しさに離れがたくなり、本格的に暮らすことを決めた。
    山の中なので虫はたくさん出るし、寒くなると水が凍ってトイレが使えなくなるというトラブルもあったりして、金銭的に余裕があるならばどう考えても東京や横浜で暮らしていた方が便利で住みやすい。
    だけど山の家での暮らしはその便利さを差し置いてでも…と思うのはきっとそれぞれの価値観で、そこでしか得られない感覚というものがあるのだと思う。
    早朝にしか見られない真っ白な雪景色だとか、動植物との思いがけない邂逅だとか。
    不便な暮らしの中で周りの人たちに助けてもらったり親切さを享受できるというのも、そういう場所での暮らしならではだと思う。

    というような様々が綴られているのだけど、さらっと読みやすいエッセイだった。
    飼い猫との出会いについてや、猫のことも多少は出てくるのだけど、それがメインとして描かれていないのは、著者の暮らしの中で猫がいるのは当たり前の日常だから、という風にも感じられた。

  • 気持ちがゆったり、落ち着く本。
    喪失と再生の本。

    ただし…
    ・ネコのエッセイと思って読んではダメ
    ・虫が苦手な人は要注意
    ・田舎暮らしの参考にはならない

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著者プロフィール

1961年、静岡県生まれ、横浜育ち。イラストレーター、エッセイスト。山歩きや旅、歳時記についてのイラストとエッセイの作品が多数ある。
著書に『五十八歳、山の家で猫と暮らす』『わたしはドレミ』(亜紀書房)、『にっぽんの歳時記ずかん』(幻冬舎)、『手づくり二十四節気』(ハーパーコリンズ・ジャパン)、『草木愛しや 花の折々』(三月書房)、『こんな、季節の味ばなし』(天夢人)、『きょうはなんの記念日? 366日じてん』(偕成社)、『あのころ、うちのテレビは白黒だった』(海竜社)、『庭のない園芸家』(晶文社)、『平野恵理子の身辺雑貨』(中央公論新社)、『私の東京散歩術』『散歩の気分で山歩き』(山と溪谷社)、『きもの、着ようよ!』(筑摩書房)など、絵本・児童書に『ごはん』『おひなまつりのちらしずし』(福音館書店)、『和菓子の絵本』(あすなろ書房)など、共著に『料理図鑑』『生活図鑑』(越智登代子、福音館書店)、『イラストで見る 昭和の消えた仕事図鑑』(澤宮優、角川ソフィア文庫)など多数がある。

「2023年 『六十一歳、免許をとって山暮らし』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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