兄の名は、ジェシカ (アニノナハジェシカ)

  • あすなろ書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784751529478

作品紹介・あらすじ

4歳年上のジェイソンは、ぼくの自慢の兄。だけどこのごろ……。
生物学的な性、社会的な性、そして本人が自覚する性の問題を、家族4人の立場から、わかりやすく、誠実に、時にコミカルに描く。
『縞模様のパジャマの少年』のジョン・ボイン、最新刊!

感想・レビュー・書評

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  • 登録番号:0142561、請求記号:933.7/B69

  • トランスジェンダーの兄を題材に書かれた、少年の成長記。文章は読みやすく面白い。
    母親が首相候補というのはリアリティに欠けると感じたが、ヤングアダルト向けに書かれているため分かりやすくデフォルメした結果かもしれない。主人公の正直な感情描写が上手い。
    兄の心情や行動についてもっと書いてほしかった気もするけど、この距離感が丁度いいのかもしれない。
    父親はいくらなんでも時代錯誤すぎるだろうとおもったが、現実はこんなものなのかも…。
    しかし、ジェシカの言葉遣いが最後まで男言葉なのはどうなのか。ジェシカが、トランスジェンダーてあり、かつ恋愛対象は女の子という、微妙な設定は良かったし、それゆえにあえてオンナを前面に出していない言葉づかいなのかな?とも考えられるが…。
    作者のあとがきが、何気に一番沁みたかもしれない。

  • サッカーが上手く、かっこよく、学校でも人気者だった自慢の兄・ジェイソンが「自分は女だ」と言い始めたことで、弟のサムの人生は大きく変わります。
    それまでも難読症のためにからかわれることはありましたが、学校では日々「おかしな兄と同じ、変な奴なんだろう」という冷たい視線やいじめの対象になってしまいます。
    さらに、両親も「ジェイソンはどこかがおかしくなってしまった、治療しなくては」とジェイソンのカミングアウトに対して拒絶的な反応を取り、家族はバラバラになってしまいます。

    作品としてはYA作品です(課題図書にもなっています)し、基本的には主人公の少年少女たちが不必要に傷ついた形で物語を終えることはテーマ的にもないだろうとは想像できます。ですから、最終的には家族は結束を取り戻すのだろうという予想はできましたし、そこに向けてのラストシーンのいわば「軌道修正」はそれまでの展開と比較すると、ちょっと出来過ぎかな、という気もします。


    一方で、政治家として働いている両親が、「息子がトランスジェンダーだ」という事実をスキャンダルとしてとらえて拒絶したり、弟が「兄がおかしくなってしまった」と怒りを覚えたりする様子は、一般論としては「多様性」を尊重するようなことを言いながらも、身近な存在が自分の価値観とは反することをすると本能的に否定してしまったり、自分の評判や利益を守ろうとして相手を傷つけてしまったりする、という人間の「弱さ」がリアルに描いていると感じます。
    性自認にゆれるトランスジェンダー本人の葛藤だけではなく、それによって「信頼する兄」を失った弟が大きく影響を受けている(そして、それに対するケアが十分に受けられていない)という部分も、無視できない問題点なのだろうと思います。

    とはいうものの、本書のテーマはジェイソンの性自認にまつわる、彼(彼女)の苦しみです。助けてくれると思って打ち明けた両親に拒絶・否定されたジェイソンのショックは大きかっただろうと思います。彼(彼女)のような苦しみを受ける人が少しでも減るように、周囲が理解する必要があるでしょうし、そういった意味でこの本を中高生に推薦する意義はわかります。
    (フィクション作品という面もあるのでしょうが、2021年に出版された作品にしては、LGBTQに対する理解が薄すぎる印象もありましたが)

    ただ、私自身としては、是非、子育てをしている親の世代に進めたいと思います。性自認などのいわゆる「大きな」問題でなくとも(例えば大人から見たら些細な問題であっても)子どもが親に打ち明けてきた時、どのような対応をするべきなのか。不安を取り除くように明るく振る舞うべきなのか、共感してあげるべきなのか、君の味方だと安心させてあげるべきなのか、考えの誤りを正すべきなのか。状況によってさまざまだろうと思いますが、誤った選択を繰り返して子どもを傷つけ家族が壊れかけてゆく様子を見ることで、「子どもが親に何を求めているのか」を感じ取って対応することの大切さを改めて突き付けられたように思います。

  • かっこよくて人気者でサッカーが上手でプロリーグからのスカウトも来るくらいの自慢の兄がトランスジェンダーだとカミングアウトしたら…?

    物心つくころから利用したいトイレ、欲しいおもちゃなど違和を抱えていた兄、ジェイソン。
    自分の性が見た目と違うとはっきり認識し、カミングアウトしたところから、家族は大混乱。
    認めたくない、蓋をしたい、世間体を気にする両親、兄が女であるはずはない、治るはずと信じる弟のサム。
    周囲の自分への見方が変わり、なおかつ一番の安全基地である家庭でも自分を受け入れてくれない兄ジェイソンの気持ちを思うと、切なくなった。

    昨今、LGBTQについての番組や本などを目にする機会が増えた現代の世間一般の親はどうなんだろう?
    やはり、同じような反応をする人が多いのだろうか。
    自分の友人、知人にも当事者が何人かいて、親や周囲に理解されない辛さを聞いてきたので、自分が親になる時は、性を決めつけず、フラットに(色やおもちゃ、遊びなどの好み)対応しようと決め、実際に行ってきたのだが、最初からそういう気持ちでいると、後々、そんなはずない!とか、何故、気づかなかったんだろう?というような大きなショックは起こらないように思う。
    差別や偏見は亡くなっていないから、家族は当事者のその後の人生の大変さを案じるだろう。

    でも、男性か、女性か、そのどちらでもないか。
    その人そのもの(その人自身)を丸ごと受け入れ理解したとき、それは大して重要ではないことに気づくのだろう。
    最後に家族がそれに気づいて、ジェシカ(ジェイソン)の帰る場所ができ、心から安心した。

  • 心苦しい本だった。親の職業などの設定や、友人家族の裏切りはともかく、ジェンダーに対する葛藤がリアルで勉強になった。はじめは母親と父親にとてもイラついたが、多分私は子供側の気持ちしかまだ考えられない年だからでもあると思う。弟の純粋ながら、親や兄に対する行動が、良くも悪くもこの家族を象徴していた。
    弟目線の文章はシリアスな問題を直接的かつ感覚的に感じる文で、ところどころの理由を整理しようとする部分は子供の感覚を思い出すようだった。

  • 第67回(2021年度)青少年読書感想文課題図書
    高等学校の部

    内容:
    「 4歳年上のジェイソンは、サムの自慢の兄。おだやかでやさしくて、忙しい両親にかわって、小さいときからサムの面倒をよくみてくれた。サッカー部のキャプテンで、学校ではみんなの人気者。だけどこのごろ、少し様子が変わったみたいだ。ジェイソンはある日、自分はトランスジェンダーであり、男であることが耐えられない、と家族の前で告白する。大好きな兄の変化にサムはとまどい、閣僚の母親、その秘書を務める父親はうろたえる。おりしも現首相が退任し、サムの母親は有力な次期首相候補になるはずだったが、ジェイソンのことがマスコミに取り上げられるようになり……。生物学的な性、社会的な性、そして本人が自覚する性の問題を、家族4人の立場から、わかりやすく、誠実に、時にコミカルに描く。」

  • サッカーが得意でカッコいい学校のヒーロー、ジェイソンが「自分は実は女性だと思う」と家族に告白。閣僚の母とその秘書である両親は、体面を気にして「治療」することを提案。兄が大好きで尊敬している弟は、何が起きているのか理解できないまま、周囲から揶揄されいじめられて納得がいかない。

    「ずっと苦しんできてやっと勇気を出して告白したのに」ジェイソンは、そんな家族の反応に何度も深く傷つく。

    両親の反応は読んでいて腹立たしいけれど我が子が大切で、将来苦労させたくないから「普通に治ってほしい」という気持ちで益々ジェイソンを追い込んで苦しめる。この平行線が現実に起きていることなのだろう。

    弟は理解し難いが率直に疑問をぶつけたり行動するのでちょっと救いにも感じられた。

  • 自分の家族から、トランスジェンダーであると告白されたら。
    両親の反応はちょっと極端だとは思うけど、私の想像しうるものだった。
    じゃあ、弟は。

    13歳のサムは、自慢の兄のジェイソンがトランスジェンダーだと言われても、受け入れられない。それがどういうことか、言葉の意味を知っていたって、よく分からないのだ。
    周りに知られたら学校生活がどうなるかとか、兄が別人になってしまうとか、不安と混乱で理解しようとしていないのかもしれない。
    ひどい言い方もしている。傷付けている。
    だけど、サムにだってケアは必要じゃないのか。

    子どもが直面するには難しいテーマだと思うけど、重苦しくなくて、サムの語りがくだけているのも読みやすかった。
    話の中に有名アーティストが出てきたり、クラスメイトの嫌な奴の身に起きて欲しいことを列挙したり、クスッと笑える。
    でも、サムが兄の名をジェシカだと言ったところは、ちょっと泣きそうになった。
    自分にも誰にも、ジェシカを傷付けさせるもんか。
    ジェイソンもジェシカも、何も変わらない、ずっとサムのヒーローだと思った。

  • ジェンダーに関わる問題に直面した一家の話
    登場人物達の言動やら行動に、腑に落ちない部分とか、正直怒りを覚えるような部分もあった。(現代の価値観に即してない部分が多々ある)

    カミングアウトした兄と、カミングアウトされた家族。特に、ずっと慕ってた兄に「実は姉なんだと思う」と言われた弟の気持ちは、簡単には表せないだろう。兄は、まだわからないのか?と言ってくるけど、そんなに簡単にわかることじゃない。綺麗事で済ませず、ちゃんと悩んで葛藤する場面が描かれていたのがとても良かった。

    私自身、家族や友人の性別がどうだろうが、本人がそう思うならなんだっていいと思っているし、ジェンダー的マイノリティに対する社会の理解は必要だと思っているけど、それを理解しろと押し付けるのも違うと思う。
    今まで兄だと思っていた人が急に姉になる、なんて言われて一朝一夕で理解できるものじゃないし、考えたり整理したりするには時間が必要である。弟にとってはかけがえのない憧れの兄だったのに、そのカミングアウトのせいで学校でいじめられたりしているわけだから、複雑な心境だろう。でも、ずっと抱えてた気持ちを理解してもらいたい兄の気持ちもわかる。

    この本にはこうした問題に対する明確な答えが書いてあるわけじゃない。色々な立場の人がいて、みんなが「自分は間違ってない」と思っているのかも。自分と違うものを病気だとか異端だとか言って排除するのは、それが理解できない恐ろしいものに見えるからなのかも。一人一人の趣味嗜好が違うように、同じ人間なんて一人としていないわけだから、男はこう、女はこう、なんて決めつけるような、視野の狭い人間にはならないようにしたい。誰もが、自分らしく生きていく選択ができる世界になればいいと思う。

  • 青少年読書感想文コンクール課題図書(高等学校の部/第67回/2021年)

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