精神分析新時代―トラウマ・解離・脳と「新無意識」から問い直す

著者 :
  • 岩崎学術出版社
5.00
  • (1)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 23
感想 : 2
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784753311484

作品紹介・あらすじ

(序文より抜粋)
精神分析の未来形
妙木 浩之 

 若い時から良く知っているが,岡野憲一郎は「書く人」である。彼はいつも考えていることを書きながら歩いている。その思索は,書くことによって再帰的に着想になり,オリジナルな思考がその循環のなかから生み出される。本書は,そのオリジナルな思索を,文字通り,精神分析とは何かという問いに,改めて組みなおそうとした本だ。…
 おそらく日本を含めて,精神分析のパラダイムに地殻変動が起きていることは間違いない。それを「静かな革命」と呼ぼうと「分析新世代」と呼ぼうと,パラダイムの変更がはっきりして私たちの目に見えるのは,まだ先のことだろう。これからの精神分析を考える上で,期待や願望を含めて,重要な論点を列挙するなら,
① 精神分析の理論の全体を,既存の対象関係論のパラダイムをもとに,組み替えていく。結果として,
② 精神分析が他の諸科学との接点のなかで,オリジナルな思考を展開する。
③ 新しい精神科学の知見に合わせて理論の更新と修正を繰り返していく,ということが求められている。
これら後半の二つが,本書の主題であり,岡野が問い直していることだ。もちろん,これらの行為を現代ではEvidence-basedな世界との接点を求めることで行っていく必要もあるだろうが,そもそも,他の隣接科学への接点という着想があるかないかは大きい。例えば,かつてフランクフルト学派,つまり批判理論は,マルクス主義と精神分析を車輪の両軸のようにして発展した社会学だったが,それだけ精神分析の着想が担保されていた時代があるのだ。現在,精神分析理論が他の学問に影響する回路は,「臨床」という名前で学問が閉ざされ始めてから,すっかり失われてしまったように見える。精神分析は独自な方法論であることは確かだが,理論は汎用性が必要であり,そのためもう一度,他の諸科学にインパクトのある理論に組みなおしていく,問い直していく必要がある。岡野の仕事は,そうした着想に満ちている。
 だから本書で登場する,これまでの前提を「問い直す」という各章は,精神分析臨床そのものを脱構築しようとする彼の意思表明だ。そして最後に脳科学,さらには現代のAIの深層学習に触れながら,無意識を再定式化しようとするところはなかなかスリリングである。解釈って何か,終結って何か,といった技法への問い直しのみならず,フロイトがジャネとの関係で踏み込まなかった「解離」を愛着理論の視点からとらえなおして,右脳の機能的な理解から,さらには深層学習の理解から,新しいアイデアを提示しようとしている。私たちが当然の前提としてしまっている精神分析のジャーゴンやドグマに対する異議申し立て。「書く人」岡野憲一郎の思索は,精神分析の未来を考える上で,重要な一石を投じている。
 できる限り,大きな波紋が拡がることを願っている。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 【目次】

    序文――精神分析の未来形(妙木浩之)

    まえがき

     第Ⅰ部 精神分析理論を問い直す
    第1章 精神分析の純粋主義を問い直す
    第2章 解釈中心主義を問い直す(1)
        ――QOL向上の手段としての解釈
    第3章 解釈中心主義を問い直す(2)
        ――共同注視の延長としての解釈
    第4章 転移解釈の特権的地位を問い直す
    第5章「匿名性の原則」を問い直す
    第6章 無意識を問い直す――自己心理学の立場から
    第7章 攻撃性を問い直す
    第8章 社交恐怖への精神分析的アプローチを問い直す
    第9章 治療の終結について問い直す
        ――「自然消滅」としての終結

     第Ⅱ部 トラウマと解離からみた精神分析
    第10章 トラウマと精神分析(1)
    第11章 トラウマと精神分析(2)
    第12章 解離の治療(1)
    第13章 解離の治療(2)
    第14章 境界性パーソナリティ障害を分析的に理解する
    第15章 解離の病理としての境界性パーソナリティ障害

     第Ⅲ部 未来志向の精神分析
    第16章 治療的柔構造の発展形
        ――精神療法の「強度」のスペクトラム
    第17章 死と精神分析
    第18章 分析家として認知療法と対話する
    第19章 脳からみえる「新無意識」
    第20章 精神分析をどのように学び,学びほぐしたか?

    参考文献
    あとがき
    索引

全2件中 1 - 2件を表示

著者プロフィール

東京大学医学部卒業。
現職:本郷の森診療所院長。京都大学名誉教授。日本精神分析協会訓練分析家。
著書に『解離性障害と他者性』(岩崎学術出版社) など。

「2023年 『寄り添うことのむずかしさ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

岡野憲一郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×